菅首相の財務省路線緊縮財政がもたらす景気再悪化
日本経済の先行きに暗い影が広がり始めている。9月29日発表の日銀短観では、大企業製造業の業況判断DIが+8となり、6期連続の改善を示したが、先行き12月見通しは-2に大幅下落となった。
とりわけ急変が見込まれているのが自動車で、9月DIが+32に改善したのに対して、12月見通しは-2に急落する。自動車購入に対する補助金打ち切りで、自動車販売が急減しており、関連産業への影響が強く懸念される。
こうしたなかで円高傾向に歯止めがかかっていないことが追い打ちをかけている。日本円の対米ドルレートは15年ぶりの高値を記録している。菅政権は9月15日にドル買い・円売りの市場介入に踏み切ったが、その後は介入を実施していない。
世界の主要国の多くで財政事情が悪化しており、財政政策での景気支持策に慎重な姿勢が示され始めている。財政政策を発動せずに景気を支持するには、金融緩和政策を実施することが検討されるが、同時に金融緩和政策が自国通貨の下落をもたらせば、輸出が活発化して景気を支えることができるようになる。
輸出拡大による景気支持は輸入国の雇用を奪っての景気拡大になるため、「近隣窮乏化政策」とも呼ばれる。しかし、各国ともに国際協調よりも自国の景気優先の立場を強めれば、「通貨切り下げ競争」の様相が強まることになる。
この政策の先頭を走ったのは欧州である。EUは通貨統合に際して、財政収支の改善を義務付けた経緯を有しており、伝統的に財政健全化へのこだわりが強い。この影響を受けて、サブプライム金融危機に伴う世界経済不況に際しても、EUは大型財政政策を発動せず、主として金利引き下げ政策を採用した。
他方、米国と日本は大型財政政策を発動した。このマクロ経済政策の相違を反映して、2008年後半と2010年前半にユーロが急落した。2008年後半に日本経済が急激な落ち込みを示した最大の理由は日本円のユーロに対する急上昇だった。
この欧州はこれまでのユーロ大幅下落の影響で輸出が好調になり、景気が一定の改善を示した。この結果、2010年の後半にユーロが米ドルや日本円に対して反発、上昇している。
日本円は、現在、米ドルに対して15年ぶりの高値を更新しているが、ユーロに対しては小幅下落しており、この結果、日本の株式市場が比較的静かに推移し、景気悪化も緩やかにしか進行していない。
しかし、ユーロの上昇は輸出拡大によるもので、その効果は一時的なものにすぎない。欧州の財政収支重視の姿勢は変わっておらず、他方に、一部EU諸国に財政破たん懸念がくすぶっている。つまり、ユーロ反発の循環波動は、すでにピーク圏内に入っていると予想され、その先、もう一度ユーロが下落する局面が到来すると予想される。
日本円が米ドルだけでなく、ユーロに対しても上昇し始めると、日本の株式市場や経済への影響が急激に拡大すると予想される。
こうしたなかで、菅政権は5.1兆円の景気対策を決定した。これに基づいて10月末にも補正予算案を確定し、臨時国会に提出する見通しである。
財源は、税収の見積もり上方修正が2兆円、国債費などの支出不要額が1兆円、2009年度の決算剰余金が1.6兆円とされている。
税収は民間経済から2兆円多く吸い上げてしまったものを経済に戻すもの、歳出不要額は民間経済に支出する予定を取りやめたものを支出するもので、当初の予算から変化した部分を元に戻すもので、景気浮揚効果は当初予算比ではゼロである。当初予算比で経済効果があるのは、決算剰余金の1.6兆円のみである。したがって、GDP押し上げ効果は0.3%程度しか期待できない。
他方、年末にかけて編成される2011年度当初予算では国債発行金額が44.3兆円以下に抑制される方針が示されている。2010年度は2009年度第2次補正予算の影響で、国債発行が実質的に4兆円増額され、48.3兆円になっている。これを44.3兆円に圧縮するわけで、GDPを0.8%も押し下げることになる。
世界経済の動向にもよるが、過去の景気対策効果の出尽くしとその反動が予想されるなかで、菅政権が超緊縮財政政策を実行することは、日本経済を再悪化させる極めて高いリスクを伴っている。
日本は経常収支黒字国であり、日本政府が日本円の上昇を回避するために、内需拡大策も取らずに円高防止の為替市場介入を行うことは、国際社会が容認しない。
日銀の政策も限界まで到達している。円高進行のもとで国民生活を守るには、短期的な財政政策活用しか方策はないが、菅政権は財務省路線に乗って、緊縮財政・増税路線をひた走っている。先行き経済が悪化するのは順当なことである。
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5.【為替】円高防止策出尽くし円高傾向持続
6.【株価】ユーロ再下落が株価反落の契機に
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