円売り介入制限共同声明を理解できない野田財務相
韓国慶州で開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議が共同声明を採択して閉幕した。
米国が経常収支の不均衡について数値目標を提案したが、最終的に共同声明には盛り込まれなかった。
今回の共同声明のポイントは、
①通貨の切り下げ競争を回避することを明記
②経常収支を持続可能な水準で維持するための政策を追求
③市場で決定される通貨制度への移行を一段と進める
にある。
最近の為替市場変動について、「通貨切り下げ競争」との認識が一般的に広がっているが、『金利・為替・株価特報』では、本年6月25日号=第111号第6節に「通貨切り下げ競争の様相」とのタイトルの下で記述した。
各国とも財政事情が悪化するなかで、同時に景気の悪化に苦しんでいる。財政政策で景気改善を実現できないとなると、残る方法は、自国通貨を下落させて輸出を拡大して景気支持を図るということになる。
輸出が増えれば景気が刺激されるが、輸出品に押されて国内産業が打撃を受ける国では、逆に景気が悪化する。つまり、自国通貨を下落させて輸出増大によって景気を支える政策は、他国の景気悪化の犠牲の上に成り立つものなのである。この意味で自国通貨切り下げ政策を近隣窮乏化政策と呼ぶ。
ところが、現状は欧州を先頭に、主要国が通貨切り下げ競争の様相を強めているのだ。
日本でも円高の進行が製造業を中心に景気に重い影を落としている。菅直人政権は円高の進行を抑制するために、9月15日、ドル買い円売り為替介入に踏み切った。しかし、これも円安誘導の政策の一類型である。通貨切り下げ競争の一翼を日本も担うことを示した事例である。
こうした状況を踏まえて今回のG20の共同声明をどう読むべきなのか。
野田佳彦財務相は会議終了後の記者会見で、
「市場の動向をみながら必要なときには適切な行動を行うという意味だ」と指摘し、為替介入に理解を得たとの考えを示唆したが、現実はまったく逆である。
上記した共同声明の三つのポイントの意味を読み直す。
①の通貨切り下げ競争の回避のなかに、「円売りドル買い介入」への牽制、明確に表現すれば制限が含まれていることは明白である。
菅政権には経済の本当の意味での専門家がいない。だから、このようなG20共同声明が発表されてしまうのだ。
「円売りドル買い介入」は円安を誘導する政策である。文字通り通貨切り下げ誘導政策なのである。G20共同声明は「通貨切り下げ競争回避」を明記したのだ。このなかに、日本の「円売りドル買い介入」回避が含まれるのは当然のことである。
②のポイント「経常収支を持続可能な水準で維持するための政策を追求」の意味を洞察しなければならない。
数値目標は見送られたが、経常収支不均衡と為替変動とがリンクされたことの意味を見抜かなければならない。
経常収支と通貨変動とのリンクは、(a)経常収支黒字国の通貨は切り上げされるべきこと、(b)経常収支赤字国の通貨は切り下げられるべきこと、の意味を含むものである。
米国は赤字国、日本、ドイツ、中国は黒字国である。つまり、ドル下落は正当であるが、円、ユーロ、人民元の下落は適正でないとの意味になるのだ。
とりわけ、黒字のGDP比が大きく、今後さらに黒字拡大が見込まれる中国人民元に対しては、
③「市場で決定される通貨制度への移行を一段と進める」
と記述して、大幅切り上げを求めたのである。
この共同声明を受けて、日本の為替介入に理解を得たことを示唆するようでは、日本の財務相として完全に失格である。
米国の財務長官が「強いドル政策を維持」と強調したのは、ドル高を指向してのものではない。G20共同声明がドル急落をもたらさないための安全弁として発言したまでのことである。
米国はこれ以上のユーロ下落を阻止しようと考えている。また、日本の円高抑制為替介入を抑止しようとも考えた。最重要のターゲットは中国人民元だが、円安もユーロ安も容認できないとのスタンスを示したのである。
金融市場がG20共同声明の裏側の思惑を読み取れば、円高を試しに進むだろう。円ドルレートが史上最高値を更新して、1ドル=75円方向を目指すのは時間の問題であると思われる。
このような経済外交能力では日本経済はもたない。経済閣僚の刷新が必要である。
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