限界が明白の為替介入:効果は長続きしない
日本政府が9月15日に為替介入を実施した。円高が問題になって1ヵ月近くたってようやく政府が動いた。
本ブログでは政府による介入の可能性をすでに8月25日付記事
「為替介入効果持続しない訳は菅政権政策にあり」
に記述した。その際、以下の指摘を示した。
「問題の本質は、グローバルに景気支持政策が必要な時に、まず欧州が財政政策の対応を否定してユーロ急落を招いた点に出発点がある。欧州は財政政策を発動せず、通貨下落で不況をしのぐ戦術に打って出た。
ここから、世界は「通貨切り下げ競争」に移行し始めた。通貨下落による不況脱出を模索し始めたのだが、各国が同時に緊縮財政と通貨切り下げ政策に走れば世界経済は全体としては浮上しない。財政政策を発動する国は、その分、通貨が上昇するから、財政政策を放棄し始める。
この連鎖が作動し始めているのだ。詳しくは『金利・為替・株価特報』2010年8月27日号をご高覧賜りたい。
現状に対応するために、日本政府は、為替介入に踏み切るだろう。8月25日に東京市場で介入に踏み切る可能性が高い。円は急反落して株価は大幅に反発するだろう。しかし、効果が持続しないことに注意が必要だ。
最終的には、グローバルな財政政策の活用が不可欠なのだが、欧州が財政緊縮に固執しており、日本も菅首相が完全に財務省路線に乗っているため、しばらくは、事態の根本的改善を見込めない。
日本では、株価暴落と景気再悪化をもたらす菅直人政権を退場させ、経済政策能力を持つ新政権を発足させることが、最低限必要である。」
(ここまで、本ブログ8月25日付記事からの転載)
菅政権の為替介入は、これから3週間も経過してから実行された。しかし、その効果は長続きしない。効果を維持させようとすれば膨大な規模の介入が必要になるが、中期的に円高の進行が予想される時点での大規模介入は、日本国民に巨大な負担を発生させるため容認されない。
三つの問題がある。
第一は、介入効果そのものが限定的であることだ。日本円を下落させるための為替介入が効果をあげるためには、円売り介入と日本の金融緩和政策が組み合わされる必要がある。しかし、日本の金融市場はすでにゼロ金利の状態にあり、追加金融政策が効果を発揮できない状況にある。このような環境下では、為替介入は大きな効果を発揮しえない。
第二は、米国、欧州のいずれの地域、国も自国通貨の下落を求めていることだ。8月25日付記事に記述したように各国の対応は「通貨切り下げ競争」の様相を示しており、内需拡大策を伴わない通貨下落誘導政策は、他国からの批判を招く可能性が高いのである。
米国も通貨下落を指向しているが、景気対策発動を決めて、世界経済維持に一定の貢献を示している。日本が景気対策も打たずに通貨切り下げを指向することは批判の対象になる。すでに、米国議会からその視点での批判が噴出し始めている。
米国は対米隷属の方針を明確に示す菅直人氏が民主党代表選に勝利することを誘導し、その工作が成功したことから、菅政権を支援するために、当面は菅政権叩きを抑制すると思われる。昨日の介入が一定の効果を示したのは、米国当局が介入効果を温存したからである。しかし、景気対策を伴わない円安誘導政策はいつまでも容認されない。
第三は、これまでのドル買い介入で、日本政府は巨大な損失をすでに計上していることだ。日本政府は外貨準備を1兆ドルも抱えている。この外貨準備を蓄積するために要した費用は、恐らく110兆円を超えている。1ドル85円の為替レートでも、25兆円程度の為替損失を抱え込んでいるのだ。
財政赤字が深刻で、国民に消費税負担まで強制しようという政府が、為替介入で数十兆円の損失を計上することが許されるわけがない。
小泉竹中政治時代の2002年10月から2004年3月までの1年半に、日本政府は35兆円ものドル買い介入を実施し、日本の資産価格を底値で買い占める資金を日本政府が米国金融機関に提供した。この介入でも5兆円以上の為替損失を生みだしている。まさに売国の政策だった。
政府が購入するドルが確実に値上がりするならドル買いを蓄積することは正当化されるが、ドルの下落が予想されるなかでドル資産を蓄積し、為替損失を計上するなら、国民から背任で告訴されることになるだろう。
こうしたことを踏まえると、為替介入の効力はまず間違いなく長続きしないと考えられる。超緊縮財政の政策方針を変更することが必ず求められることになる。
9月10日に『金利・為替・株価特報』2010年9月10日号を発行した。発送が一部、9月11日にずれ込んだため、ご購読者様の手元への配送が遅れてしまいましたことをお詫び申し上げます。
ご参考に、9月10日号=116号の目次を紹介させていただく。
タイトルは
「主権者国民政権樹立を妨害する激烈な圧力」
である。
<目次>
1. 【政局】異常な偏向報道が行われた背景
2. 【株価】代表選動向に小刻みに反応した株価
3. 【政治】権力闘争なのか政策路線闘争なのか
4. 【政策】財政再建優先と雇用重視並存の矛盾
5. 【株価】代表選結果が左右する株価動向
6. 【米国】財政出動を決断したオバマ大統領
7. 【為替】ユーロ下落に歯止めの徴候
8. 【金利】デフレ継続か景気回復か
9. 【投資】投資戦略
菅直人氏再選の場合の見通しも記述してある。
誰が日本を支配するのか!?政治とメディアの巻 販売元:マガジンハウス |
売国者たちの末路 著者:副島 隆彦,植草 一秀 |
知られざる真実―勾留地にて― 著者:植草 一秀 |
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