木村剛氏逮捕「日本振興銀行の黒い霧」③
竹中平蔵氏が金融庁顧問に起用した木村剛氏が銀行法違反容疑で逮捕されてから10日が経過した。金融庁の銀行検査に対して、社内の業務メールを意図的に削除したなどの検査妨害容疑がかけられている。
木村氏が社内メールの削除を指示したと見られているが、検査妨害の違法行為であるメール削除が実際に指示されたのなら、メールを削除しなければならなかった理由が存在するはずである。詳細は今後の捜査の進展に委ねられるが、木村氏が創設した中小企業ネットワークを利用した不良債権を隠蔽するための迂回融資や、SFCGからの売り戻し条件付き債権買取取引が手数料名目で法定金利を上回る金利を得ていたとの疑いも浮上している。
木村氏は不良債権問題処理に関して、銀行の資産査定の厳格化を強く主張してきた経緯がある。その本人が自身の経営する銀行の資産内容を粉飾するなどの行為に手を染めていたとするなら、その責任は極めて重大である。
メディアは木村氏逮捕をひと通り報じただけで、その後、問題を掘り下げる報道をまったく展開していない。
しかし、木村氏は金融庁顧問として日本の金融行政に深く関与してきたのであり、これまでの事実経過が詳細に再検証されなければならない。
今回逮捕された日本振興銀行の5人の経営幹部のうち、木村氏を除く4名は容疑事実を全体として認めていると伝えられている。捜査当局が発表する一方的な情報であるから、現段階で鵜呑みにすることはできないが、報道されている情報によれば、木村氏一人が容疑を否認しているとのことである。
ところが、逮捕された容疑者の一人である関本信洋氏は日本振興銀行内で木村剛氏の側近として、実質的なNO.2として行動してきたとされるが、報道されている情報によると、木村剛氏は昨年5月末に金融庁から検査通知があった直後の対策協議の会議の席上で、不都合なメールの削除を指示したという。木村氏が削除リストを作成し、関本氏が実際の削除を担当したとのことだ。
その木村氏が本年4月の取締役会では、「少なくとも自分はメール削除に一切関与していない」と発言し、経営幹部に対して、「メール削除の責任者は関本氏、自分(木村氏)は指示していない」との了解を強要したとのことである。
真相は公判で明らかにされることになるのではないかと考えられるが、これらの情報が正しいとすれば、木村剛氏は極めて薄汚い行動様式を示す人物ということになる。テレビ番組や政策評価グループなどで木村氏と連携してきた諸氏、ならびにネット上で木村剛氏を賞賛してきた諸氏は、現段階での見解を明示するべきである。
問題は、こうした人物が日本の金融行政に深く関与した事実にある。
2002年9月30日に小泉政権の内閣改造が実施された。この内閣改造で竹中平蔵氏が経済財政相に加えて金融相を兼務することになった。この時点までの政策運営の実績からは、竹中氏の更迭が当然視されていた。市場観測を裏切る形での竹中氏の金融相兼務決定は驚きをもって受け止められた。
この人事は米国が小泉首相に指令したものであったと指摘されている。実際、日本の金融市場は、2002年10月から2004年3月にかけて、歴史的な大変動を演じた。その中心に位置するのが「りそな銀疑惑」である。
日本政府が外為介入を通じて40兆円もの資金を米国に提供したのも、ちょうどこの時期に重なるのである。日本の資産価格を意図的に暴落させて、その暴落価格で米国資本に日本の実物資産を買い占めさせたとの疑惑が濃厚に存在するのである。
2002年10月、竹中金融相は就任直後に金融再生プログラムを策定した。策定のために編成された組織が金融再生PT(プロジェクトチーム)だった。
この中核メンバーに木村剛氏が起用された。PTは銀行の自己資本に算入できる繰延税金資産の圧縮を提案する。木村氏の提案であった。木村氏は米国並みに繰延税金資産算入をゼロないし1年に圧縮することを提案した。
しかし、ゲームの途中にルールが変更されることに銀行界が猛烈に反発した。反発の先頭に立ったのが西川善文三井住友銀行頭取だった。だが、西川氏の姿勢は、同年12月11日の竹中平蔵氏、およびゴールドマンサックスCEOポールソン氏らとの密会を境に、反竹中から親竹中に豹変した。
結局、ルール変更は先送りされることになった。もっとも、木村氏の提案そのものが正当性を欠いていたのも事実である。米国では不良債権の貸し倒れに備えての引当金積み立てが無税扱いであり、その一方で繰延税金資産の自己資本への参入が圧縮されていた。日本では貸し倒れ引当金の積み立てが有税扱いであり、その一方で繰延税金資産の自己資本算入が厚く認められていたのだ。この意味でルール変更先送りは当然の決定だった。
この決着で完全に面目を失ったのが竹中氏と木村氏だった。
この二名が面目回復のためのリベンジを画策した可能性が高い。
標的として選定されたのがりそな銀行である。りそな銀行は大和銀行と埼玉銀行の合併によって誕生した大銀行だが、新銀行のトップに就任した勝田泰久頭取は極めて有能な経営者だった。経営革新を着実に進展させていた。
このりそな銀行が標的に選ばれた最大の理由は、この勝田頭取が小泉竹中経済政策を的確に批判していたことにあると見られる。客観事実に照らして評価すれば、正論を述べていたのは勝田頭取である。
しかし、この的確な指摘が筋の悪い逆恨みを招いた。竹中氏はりそな銀行を自己資本不足に追い込む策謀に着手したのだと推測される。
この事案で中心的な役割を果たしたのが木村剛氏である。木村氏は米国会計法人KPMG関連日本法人を設立し、代表を務めていた。埼玉銀行の監査法人である朝日監査法人、大和銀行の監査法人である新日本監査法人の提携監査法人がKPMGだった。
詳細は拙著『知られざる真実-勾留地にて-』
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などを参照いただきたいが、りそな銀行は「謀略」によって自己資本不足に追い込まれた疑いが極めて濃厚なのである。
木村剛氏は2003年3月17日に、朝日監査法人副理事長の亀岡義一氏と日本橋で会食した。この会合でりそな銀行を自己資本不足に追い込むことが協議されたと考えられる。
同時にこの会合は、亀岡氏が株式会社オレガ社長の落合伸治を木村氏に紹介する会合でもあったとのことだ。日本振興銀行は落合氏が調達した20億円で設立されたのであり、「りそな疑惑」と「日本振興銀行問題」の二つの汚点が、この段階でひとつの直線を描いたことになる。
木村氏が深く関与した2002年10月発表の金融再生プログラムに中小企業向け銀行の新規参入認可迅速化が盛り込まれ、この条項を利用する形で日本振興銀行が設立された。2003年8月に申請され2004年4月に開業するという、驚異的な銀行設立認可が実行された。
りそな銀行は自己資本不足に追い込まれたが、破たん処理されず、経営陣だけが追放された。新経営陣には小泉政権近親者が送り込まれた。その後、この再生りそな銀行が自民党に対する融資を激増させた。
この驚天動地の事実を暴露したのが2006年12月18日付の朝日新聞1面トップである。この記事をスクープしたのは鈴木啓一記者と伝えらているが、鈴木氏は記事掲載前日に東京湾で水死体となって発見されたと伝えられている。
また、朝日監査法人のりそな銀行担当公認会計士だった平田聡氏は朝日監査法人がりそな銀行の繰延税金資産を否認する方針を協議した2003年4月22日の本部審査会の直後、4月24日に、自宅マンションの12階から不自然な転落死を遂げている。平田氏はりそな銀行の繰延税金資産否認に強く反対していたと見られる。
木村氏が経営権を奪取した日本振興銀行は、木村氏が社長を務める企業に3%の金利で3億9000万円を融資した。さらに2005年には、木村氏の妻が社長を務める「ウッドビレッジ社」(「木村社」?)に3%の金利で1億7875万円融資した。
日本振興銀行はミドルリスク・ミドルリターンの融資を行う銀行であり、金利は5%~15%に設定され、原則1億円を融資の上限にしていたはずである。
上記融資が不正融資にあたるとの疑惑が浮上したが、小泉政権の影響力が強い時代の金融庁は、これらの問題を摘発しなかった。
日本振興銀行の闇に、今後、しっかりとメスを入れることが求められるが、同時に竹中氏が策定した金融再生プログラムと日本振興銀行に対する異例のスピード認可の深層、および、りそな銀行処理に関する竹中氏、木村氏、奥山氏などの関与についても、真実と深層を明らかにする必要がある。
売国者たちの末路 著者:副島 隆彦,植草 一秀 |
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