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2010年7月 6日 (火)

庶民大増税を阻止するには菅首相の退場が必要

昨年8月30日に実施された総選挙で政権交代が実現した。

政権交代を実現させたのは主権者国民である。

日本の民衆は政権交代実現により、日本政治の構造を根本から刷新しようと考えた。民主党は政権公約を明確に掲げ、主権者国民は政党が政権公約を守ることを前提に政権を選択した。

刷新しなければならない日本の政治構造の基本は次の五つである。

①米国による支配を打破すること。

言い換えれば、対米隷属外交からの脱却である。

②官僚利権を根絶すること。

最も重要なことは「天下り」を根絶することだ。

③政治権力と大資本の癒着を排除すること。

「政治とカネ」が問題になり続けてきたが、この問題を根絶する最も有効な施策は、「企業団体献金の全面禁止」である。

④日本の警察、検察、裁判所制度を近代化すること。

その第一歩が取り調べ過程の全面可視化実現である。

⑤経済政策の基本思想を弱肉強食奨励から共生重視に転換すること。

国民の生活を第一に考え、経済の健全な成長を誘導すること。

この五つの大きな課題を抱えてスタートしたのが政権交代後の新政権だった。

政権交代は目的ではなく、あくまでも出発点である。政権は交代したが、政権交代によって実現しなければならない日本政治刷新の課題が解決されなければ、政権交代に意味はない。

鳩山政権は、上記の五つの課題を目標に掲げて歩みを始めた。いずれの事項も、新政権が発足するに際して、主権者国民と約束=契約したものである。

鳩山政権は政権発足後8ヵ月の短命で終焉を迎えてしまった。

その最大の原因は、普天間基地移設問題で、主権者国民の意思を踏みにじったからである。

「最低でも県外」と約束しておきながら、現実には地元住民、主権者国民の意思を無視して、米国の言いなりになる結論を提示してしまった。主権者国民、沖縄県民が怒り心頭に達するのは当然の帰結だった。

この問題で鳩山内閣は総辞職に追い込まれた。

参議院選挙を目前に政権が菅政権に移行し、民主党は参院選に向けて、改めてマニフェストを提示した。

昨年の政権交代実現から9ヵ月しか経過していないのだから、政権公約を後継政権が引き継ぐのは当然である。

ところが、菅政権は政策の基本方針を根本から覆し始めた。

普天間問題への対応失敗が鳩山内閣総辞職の主因であるから、後継の菅政権は、もう一度、対米隷属外交からの脱却を目指すとの原点に立ち返る必要があった。

ところが、菅直人首相は、鳩山内閣が主権者国民の意思を踏みにじって決めた日米合意を基本に据えることを公言したのだ。

対米隷属からの脱却を目指すはずが、対米隷属に回帰することが明確に示されたのである。

民主党内部には、前原誠司氏を中心に、対米隷属派に属する議員が少なからず存在する。菅直人首相は民主党幹部を対米隷属派議員で固め、自主独立派を脇に追いやった。この結果、政権の目指す方向が自主独立ではなく、対米隷属に転換してしまった。

この転向は、政権交代を実現させた主権者国民の意思に反するものである。

「天下り」を根絶するには、例えば「役人退職直前10年間に関与した企業、業界、団体等に退職後10年間は就職できない」といった程度の客観規制を設けなければ実効性をあげることはできない。

ところが、菅政権は「天下りあっせんの禁止」を主張するだけで、「天下り」そのものを禁止する姿勢を大幅に後退させている。

菅首相は「政治とカネ」の問題が大事だと主張するが、問題の根幹にある「企業団体献金の全面禁止」を明確に打ち出さない。

逆に日本経団連に接近し、法人税減税で大企業の歓心を買う方向に進み始めた。

その最大の表れが、「消費税大増税=法人税減税」の政策方針だ。

民主党は小沢一郎代表の時代に、「国民の生活が第一」の方針を明示した。多くの主権者国民は小沢一郎元代表のこの政策方針に賛同し、民主党を政権与党の地位に引き上げたのである。

ところが、消費税大増税=法人税減税の菅政権方針は、「国民の生活が第一」に明らかに反するものである。菅政権の方針は、「政治と大資本の癒着が第一」というものである。

菅直人首相が消費税率10%を明示したのは、民主党のマニフェスト発表記者会見である。菅首相は記者会見の質疑応答で、

「そのこと自体(税率10%)は公約と受け止めていただいて結構だ」

と明言した。

一方、マニフェストにはどのような文言が記されたのか。

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「税制の抜本改革を実施します」

と記されたのだ。

つまり、参院選マニフェストは、

「消費税大増税を実施する」

ことを公約に掲げたと言って間違いない。

官僚の天下り禁止にはまったく手をつけていない。民主党がアピールするのは、「事業仕分け」だが、体育館で独立行政法人幹部などをいじめただけで、政府支出の無駄排除など、まだほとんど行われていない。

鳩山前首相は政府支出の無駄を排除し尽くすまでは消費税増税を封印することを明言し、このことを主権者国民と約束=契約した。

菅新首相はこの契約=約束を反故にしようとしているのだ。

主要税目の税収推移のグラフを改めて示す。財務省公開グラフである。

 

Photo

1990年度から2009年度にかけて、経済規模を示すGDPは451.7兆円から476.0兆円へ小幅増加したが、税収は60.1兆円から36.9兆円に減少した。そのなかでの法人税と消費税推移は、

法人税 18.4兆円 →  5.2兆円

消費税  4.6兆円 →  9.4兆円

と変化した。

法人税が1990年度と比較して約4分の1に激減したのに対して、消費税は2倍強に増加した。

このなかで、菅首相は4分の1に減少した法人税をさらに減税する一方で、低所得者ほど負担感が重くなる消費税について、税率を2倍にする大増税方針を示している。単純に計算すれば9.4兆円増税だ。

民主党は企業が海外に逃避しないために法人税減税が必要と主張するが、政府税制調査会は2007年11月発表の

『抜本的な税制改革に向けた基本的考え方』

に、

「課税ベースも合わせた実質的な企業の税負担、さらに社会保険料を含む企業の負担の国際比較を行った試算において、我が国の企業負担は現状では国際的に見て必ずしも高い水準にはないという結果も得た」(17-18ページ)

と明記した。

つまり、「日本の法人税負担は国際比較でみて高くない」というのが、日本政府の公式見解であり、この状況下での法人税減税方針は、菅政権の大資本との癒着を示す明白な証左である。

私は1985年から1987年にかけて大蔵省に勤務し、大蔵省による増税実現に向けての情報工作活動に携った経験を持つ。詳しくは拙著『知られざる真実-勾留地にて-』をご高覧賜りたいが、大蔵省は恐るべき情報操作活動を行っているのだ。

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このプロジェクトにはTPRという符号がつけられている。TAXのPRという意味だ。

1985年は中曽根内閣が売上税導入を画策した時期で、大蔵省は政界、財界、学界3000人リストを作成し、しらみつぶしの説得工作を展開した。同時にマスメディアに対して、あらゆる手段を用いて情報統制を実施した。

主税局にはTPR担当の企画官が配置され、さまざまな情報工作活動を展開して現在に至っている。

今回の参院選に際して、財務省と癒着するマスメディアは、参院選後の消費税大増税実現にむけての地ならしを行っている。

そのひとつとして、「今回参院選の最大の争点は消費税問題ではない」との情報操作が展開されている。また、自民党と民主党が消費税増税で足並みをそろえたことを利用して、消費税増税路線の既成事実化が図られている。

しかし、主権者国民は絶対に騙されてはならない。

今回参院選で増税派が多数を確保すれば、必ず3年以内に消費税大増税が実施されることになるからだ。

他方で、法人税は減税され、官僚利権は温存される。日本政治の対米隷属構造は維持される。

つまり、米官業による日本政治支配、その手先として政治屋とマスメディアが活動する構造に、日本政治は完全に回帰することになるのだ。

野党のなかに「消費税増税反対・官僚利権根絶」を主張する勢力があるが、よく見れば、その政党の代表は、かつて自民党政権で天下りを温存する法律を制定した張本人である。対米隷属の基本方針も携えている。企業からの献金も極めて高額だ。

菅政権の登場により、日本政治の実権は、残念ながら主権者国民の手から米官業政電=悪徳ペンタゴンの手に収奪されてしまった。主権者国民政権は対米隷属派=悪徳ペンタゴン派に乗っ取られてしまったのだ。

この状況を打破し、主権者国民の手に政治の実権を奪還するためには、まずは菅政権を9月民主党代表選までに終焉させることが必要だ。

そのうえで、民主党内の自主独立派による民主党支配を回復しなければならない。

参院選では小沢一郎氏に近い候補者グループを支援し、比例代表では国民新党、社民党を支援することが求められる。

庶民大増税を主張する政党を支援して消費税大増税が実施されても、その投票者は消費税増税に苦情を示す資格がないことを肝に銘じなければならない。

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