覚悟も信念もなく大増税方針を提示した菅首相
菅直人首相は7月7日の鳥取県米子市内での演説で、消費税率引き上げ問題について、
「一般の皆さんからみて唐突の提案と思えたとすれば、私の説明不足だった」
と述べた。
また、「次の総選挙で皆さんの判断をいただくことが当然必要だ」とも述べた。
消費税率10%への引き上げを政権公約として明示した菅直人首相の激しい「ぶれ」が表面化している。
菅直人首相がマニフェスト発表会見を行ったのは6月17日である。民主党サイトが会見の模様を動画で配信しているので、民主党の政権公約を確認する意味で、ぜひ自分の目でご確認していただきたい。
菅首相は12分45秒の会見の大半を「強い経済、強い財政、強い社会保障」の説明にあてたが、とりわけ強調したのが「強い財政」実現に向けての方策だった。
発言の7分経過時点以降、その説明の大半が税制の抜本改革に充てられた。そして11分経過時点で、
「当面の税率として自民党が提示した10%を参考とする」
と明示したのである。
質疑応答では、玄葉光一郎政調会長が、税制改革のスケジュールについて質問され、「最速で2012年秋の実施」を明言した。
消費税増税の前に総選挙で国民の審判を仰ぐのかとの問いに対しては、
「原則的に国民の判断を仰ぐのがあるべき姿」
だと述べた。
この発言のポイントは、
「必ず国民の判断を仰ぐ」とは言わず、「原則的」、「あるべき姿」と表現したことにある。衆議院の任期満了は2013年秋であり、玄葉光一郎氏が明言した2012年秋の消費税大増税実施のケースでは、増税決定前の総選挙実施を想定し難い。
つまり、菅直人首相は、6月17日のマニフェスト発表会見で、明確に消費税率の10%引き上げ方針を明示したのである。
しかも、時期について、玄葉光一郎政調会長が最速で2012年秋の実施と明言した。
これを裏付けるように、民主党マニフェストには、
「税制の抜本改革を実施します」
と、誤解の生じる余地のない表現が盛り込まれたのである。
マニフェストに消費税増税の文言が盛り込まれなかった理由について、玄葉光一郎政調会長は、質疑応答13分40秒経過時点で、
「菅首相が自分の言葉で言いたかったから」
と、菅首相が強い思い入れを持って消費税大増税を打ち出したことを解説した。
この6月17日のマニフェスト発表会見は、消費税率10%への引き上げ公約発表会であった。菅首相が「熟慮」の末に、参院選政権公約として、国民に提示したものである。
それが。
本日の米子市での街頭演説では、
「一般の皆さんからみて唐突の提案と思えたとすれば、私の説明不足だった」
の発言に変わった。
6月17日の消費税率10%案表明は、菅首相が熟慮の末に、意図して、唐突に消費税大増税を政権公約に掲げることを決定し、行動に移したものだ。
首相として明確な公約を決定し、国民の前に「政権公約」=「マニフェスト」として打ち出した以上、その公約を掲げて、正々堂々と参院選を闘い抜くべきではないのか。
私はこのマニフェスト提示に全面的に反対し、本ブログで徹底的な反論提示を続けてきた。
世論調査を見ると、主権者国民も菅首相の消費税大増税提案に対して批判的なスタンスを示しているように思われる。
世論調査で消費税大増税方針に対する風圧が強まったことが、菅首相の発言急変の最大の理由であると思われる。
この手の日和見主義が何よりも低質な政治家行動である。
発言と行動に、信念も哲学も熟慮も思想もないことを自ら告白するようなものだ。
鳩山前首相は普天間問題について、「最低でも県外」と明言した。ところが、辞意表明会見では、これが「できれば県外」の表現にすり替えられた。
鳩山前首相は「できれば県外」と述べたのではない。「最低でも県外」と述べたのだ。
菅首相は6月17日に、消費税率10%への引き上げを政権公約に掲げたといわれて当然の発言を示した。それを、内閣支持率が低下したからといって、「説明不足だった」と言うのは卑怯である。
「説明不足」だったのではない。6月17日の会見では、聴いている国民が食傷気味になるほど、消費税大増税方針が十分に説明された。
内閣支持率が低下したから消費税大増税方針を薄めたいのなら、
「消費税大増税方針を明示したところ、とても評判が悪いので、いったん取り下げることにしました」
と正直に告白するべきであろう。
信念と覚悟を持って消費税大増税を明示したのなら、選挙が終わるまで、大増税方針を明示し続けるべきだ。
国民の生活に直結する、政治の最重要課題である税制について発言する際には、事前に熟慮を重ねることが不可欠で、ひとたび明示したからには、安易に取り下げることも許されるものでない。
リーダーに求められる最重要の資質は、人間としての信頼である。
人を裏切らない。ぶれない。信念と思想に裏打ちされた政策を提示し続ける。これらが何よりも重要だ。
菅首相は沖縄海兵隊の存在について、これまで、繰り返し沖縄に必要不可欠なものでなく、海外への移設の必要性を主張してきたはずだ。
このような根本重要問題も、総理大臣になるためには、簡単に捨て去ってしまうのだろうか。
つまり、国民の生活を第一とする思想、哲学、信念などは存在せず、ただそこにあるのは、政界で出世して、自己の名誉欲、権力欲を満たすことだけなのではないか。
主要税目の税収推移は下記グラフが示すとおりだ。財務省公表のデータである。
1990年度から2009年度にかけて、経済規模を示すGDPは451.7兆円から476.0兆円へ小幅増加したが、税収は60.1兆円から36.9兆円に減少した。そのなかでの法人税と消費税推移は、
法人税 18.4兆円 → 5.2兆円
消費税 4.6兆円 → 9.4兆円
と変化した。
法人税が1990年度と比較して約4分の1に激減したのに対して、消費税は2倍強に増加した。
このなかで、菅首相は4分の1に減少した法人税をさらに減税する一方で、低所得者ほど負担感が重くなる消費税について、税率を2倍にする大増税方針を示したのである。庶民の生活を直撃する大増税である。
民主党は日本の法人税負担が国際比較でみて重いので法人税減税が必要と主張するが、政府税制調査会は2007年11月発表の
「課税ベースも合わせた実質的な企業の税負担、さらに社会保険料を含む企業の負担の国際比較を行った試算において、我が国の企業負担は現状では国際的に見て必ずしも高い水準にはないという結果も得た」(17-18ページ)
と明記した。
つまり、「日本の法人税負担は国際比較でみて高くない」というのが、日本政府の公式見解であり、菅内閣の主張と矛盾する。
つまり、菅政権は大資本と癒着し、一般庶民に大増税負担を押し付けるために、大企業を優遇し消費税大増税推進陣営に大企業を引き込もうとしているのである。
主権者国民は、菅首相の、安易で日和見主義の政策対応姿勢に厳しい審判を下さなければならない。民主党を大勝させてはならない。
日本の独立を重んじ、市場原理主義ではなく共生主義を重視するなら、国民新党と社民党を支援するべきではないか。
売国者たちの末路 著者:副島 隆彦,植草 一秀 |
知られざる真実―勾留地にて― 著者:植草 一秀 |
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