大資本減税庶民大増税提唱の菅路線は挫折する
6月24日の参院選公示を控え、日本記者クラブ主催の9党首討論会が開かれた。
菅首相が消費税率の10%への引き上げ方針を示唆したことを背景に、消費税問題が参院選の重要争点として浮上している。
日本の財政事情が悪化していることは事実である。しかし、日本の場合、国内の所得支出バランスと実物投資の差額から生じる国内資金余剰が巨額であり、財政赤字をすべて賄ったうえでなお巨額の資金余剰が残り、この資金が海外流出している。
財政赤字を国内資金で賄うことのできない米国などの事情とは大きな差が存在する。
日本の国債発行金額は2008年度当初予算では25兆円だった。それが、サブプライム金融危機に伴う景気後退に対処するための補正予算編成と税収減少により、一気に53兆円に拡大した。予算規模の半分以上を国債発行で賄う現状は異常であり、財政状況の改善が重要課題であるのは事実である。
しかし、この財政収支悪化が景気悪化を背景に生じたものであることを踏まえねばならない。財政収支は不況の局面で悪化し、公共の局面で改善する。
不況では景気対策が必要となり、税収が減少すると同時に社会保障関係支出が増加するからだ。好況ではこの逆の現象が生じ、財政赤字が減少する。
不況の局面で財政赤字が増大することは景気を支える効果を併せ持つ。好況の局面で財政赤字が減少することは景気を冷やす効果を持つ。
この効果を財政の景気自動調整機能(ビルトイン・スタビライザー)と呼ぶ。
不況の局面で財政赤字が拡大することはこの意味で当然のことであり、不況の結果拡大した財政赤字を人為的に縮小させようとする政策は、財政収支が持つ景気安定化効果を消滅させてしまうことも考慮しなければならない。
財政赤字が拡大した最大の原因は、「税収の減少」にある。「税収の減少」をもたらした最大の原因は「不況の深刻化」にある。国税収入は1990年度に60兆円あった。これが2010年度には37兆円に減少した。23兆円も税収が減少したのである。
したがって、財政赤字を縮小させるための第一の方策は、税収の自然増を確保することなのである。税収の自然増は、景気回復によってもたらされる。
政府がいま最優先すべき課題は、「景気回復」である。「景気回復」が財政赤字を縮小させるために最も有効な施策である。この点を的確に指摘したのは国民新党の亀井静香氏である。
また、消費税大増税を検討する前に絶対に実行すべき課題が存在する。
政府支出の無駄排除である。政権交代実現後、「事業仕分け」が実施され、メディアに大きく取り上げられた。しかし、現状は「学芸会」の域を出ていない。「業務の抜本的な見直し」などのあいまいな決定が相次ぎ、最終的に無駄が排除される見通しはまったく立っていない。
政府支出の無駄を排除するうえで不可欠であるのが「天下り」の根絶である。民主党は「天下り根絶」を主張し続けてきたが、与党になった途端に、「天下り根絶」が「天下りあっせん根絶」にすり替えられた。
両社は「似て非なるもの」である。「あっせん」を禁止しても、「天下り」の実態を「あっせん」によるものではないと言い逃れられると、天下りは野放しにされることになる。
この意味で、鳩山前首相が公約した「衆議院任期中の消費税増税封印」の決定は正しい選択である。民主党は消費税を衆議院任期中は引き上げないことを公約として掲げ、総選挙を戦った。増税の逃げ道を封じておかなければ、無駄な歳出削減の実効性を確保することはできない。
菅首相は突然「消費税率の10%への引き上げ」を発言したが、党内での決定手続きを経て発言したものなのか。消費税率引き上げは民主党の「公約」として決定されたものなのか。
菅首相は、まずこの点を明らかにする責任がある。
昨年8月の総選挙で政権交代を実現させた主権者国民は、増税検討の前の「政府支出の無駄排除」の方針に賛成して民主党に投票した。その民主党の方針が、突然、「政府支出の無駄排除なき大増税」に転じるのなら、主権者国民は増税詐欺の被害者になる。
主要国税税目の推移を改めて提示する。
グラフに示されるように、消費税は1990年度の4.6兆円が2009年度には9.4兆円に倍増した。法人税は1990年度の18.4兆円から2009年度の5.2兆円に激減した。4分の1に激減したのだ。
このなかで、菅政権は法人税減税と消費税大増税を提案しているのだ。
政府税制調査会が2007年11月に発表した「抜本的税制改革に向けた基本的考え方」の17-18ページに以下の記述がある。
「法人実効税率とは、国・地方合わせた法人課税の表面税率のことである。我が国の法人実効税率は、国際的に見て高い水準にあり、引き下げるべきという議論がある。この問題を検討するに当たり、当調査会は、平成19 年度の税制改正に関する答申を踏まえ、課税ベースも合わせた実質的な企業の税負担、さらに社会保険料を含む企業の負担の国際比較を行った。また、企業減税による企業部門の活性化が雇用や個人の所得環境に及ぼす影響等についての調査・分析を行った。課税ベースや社会保険料負担も考慮した企業負担については、モデル企業をベースとした試算において、我が国の企業負担は現状では国際的に見て必ずしも高い水準にはないという結果も得た。」
つまり、日本の法人税率は国際比較上、高い水準にはないとの結論を日本政府の見解として示しているのだ。
にもかかわらず、菅政権は消費税大増税・法人税減税の方針を示している。
政権交代の最大の目的は、米・官・業による日本政治支配の基本構造を打破し、主権者国民による政治支配の構造を構築することにある。
この目的を達成する試金石になるのが、①普天間基地の海外移設、②官僚天下りの根絶、③企業団体献金の全面禁止、である。
ところが、菅政権は米官業による日本政治支配構造に逆戻りさせる政策方針を相次いで示し始めているのだ。
税制改革については、党内の民主的な意思決定手続きも経ずに、独裁的に消費税大増税=法人税減税の方針を明示してしまった。法人税減税は大資本を消費税大増税賛成に引き込むための施策であると考えられ、菅政権が主権者国民から大資本に基軸を移したことを意味すると受け取れる。
政府支出の無駄排除を優先しない消費税大増税、20年間に4分の1に激減した法人税をさらに減税する大資本優遇の法人税減税方針に賛成することはできない。
参院選では、民主党内小沢氏グループ候補者を個別に支援する以外、比例区では国民新党、社民党を支援するのが主権者国民の正しい選択であると考えられる。
9月代表選をもって菅政権に終止符を打ち、主権者国民の意思を尊重する民主党代表を選出して、もう一度、主権者国民政権を構築することがどうしても必要である。政府支出の無駄排除なき消費税大増税に突き進む菅民主党に対しては不支持の姿勢で臨むことが求められる。
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売国者たちの末路 著者:副島 隆彦,植草 一秀 |
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知られざる真実―勾留地にて― 著者:植草 一秀 |
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その討論会の中心議題となったのはやはり「消費税」の問題であったようだが、所詮は フリー記者が参加できない「記者クラブ」主催の討論会 であってさしたる興味が湧かないのも事実である!
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