企業献金全面禁止が日本政治構造を激変させる
「政治とカネ」の問題の本質は、不正なカネが政治家の手に渡り、政策が歪められる点にある。
国家予算の規模は100兆円。特別会計を含めれば200兆円にも達する。
日本のGDPは2009年度には470兆円にまで減少したから、経済規模の2割、ないし4割の資金が政府の手にゆだねられることになる。
国会に予算決定が委ねられているが、実際に決定権を持つのは与党である。
与党国会議員はGDPの2割なり4割の資金についての配分権を有することになる。巨大な権力である。
「政治とカネ」の問題の本質は、特定の利害関係者から政治家にカネが流れ、政府の財政資金配分が歪められてしまうことにある。政府の権限は予算配分だけでなく、許認可といった巨大な行政権限にも及ぶ。
日本ではこれまで企業献金が容認されてきたが、企業は見返りのない資金を提供しない。見返りのない資金の社外流出は株主の利益に反することから、株主がそのような資金流出を認めることは通常は考えられない。
企業が資金を提供するのは、政治家に何らかの便宜を図ってもらうためである。本来的に、企業献金は「賄賂性」を伴うものである。
この「カネ」が政治家の職務権限に直結しないのであれば、「政治献金」として許容されてきた。政治家個人に対する献金は禁止されたものの、政党支部に対する献金は許容され、政党支部から政治家個人の資金管理団体への寄付が認められているから、実質的には企業から政治家個人への献金が認められてきたのである。
マスメディアは「政治とカネ」の問題を鳩山由紀夫総理大臣と小沢一郎民主党幹事長の問題であるかのごとくの報道を展開し続けているが、この偏向ぶりには目を覆うばかりである。
政治資金の取り扱いは透明でなければならないが、鳩山総理の政治資金の問題は、巨額の私財を政治活動に投入してきたとの話であり、「政治とカネ」の問題の本質からは大きくはずれた問題である。
小沢一郎幹事長の問題については、メディアが憶測で疑惑を生み出してきただけで、検察当局が無謀な家宅捜索を繰り返したにもかかわらず、犯罪の存在を見出すことができなかったのである。
小沢氏の秘書が逮捕されたが、昨年の三三事変も本年の一一五事変も、犯罪事実は極めて不明確で、検察の起訴事実は、重箱の隅を突くような瑣末なことがらでしかない。このようなことがらで小沢一郎氏を悪者扱するのは極めて不当であり、メディアの報道姿勢はあまりにも偏向していると言わざるを得ない。
企業献金を認めてきたこれまでの政治において、「政治とカネ」の問題を断ち切ることは実質的に不可能に近かった。検察はまったく摘発してこなかったが、政治家が公共事業の発注を受けている企業からの献金を受け入れていることは日常茶飯事で、内閣改造に伴って閣僚のデータが洗われるるたびに、献金の返還などが繰り返されてきた。
個人と企業を比較すれば、資金力において企業が圧倒するのは当然である。企業は巨大な資金を政治家に提供する。政治家はこの献金を念頭に政策=財政資金配分や許認可権行使を歪める。これが「金権政治」なのである。
企業が政治家に支払う「カネ」は巨額であり、この「カネ」を目的に政治家を目指す人間が増加する。
こうして与党政治家の大半が「カネ」を目的に政治活動にいそしむ「利権政治屋」に成り下がるようになるのだ。
「政治とカネ」の問題は、これまでの日本政治の体質の問題であって、個別政治家の問題ではない。個人を問題にするなら、鳩山氏や小沢氏を問題にする前に、徹底的に捜査が求められる政治家が自民党には数十人も存在する。
こうしたなかで、小沢一郎前民主党代表が提唱し、鳩山由紀夫総理大臣が提案した「企業団体献金全面禁止」は、問題の本質に真正面から斬り込むものである。
「企業団体献金全面禁止」が実現すれば、政治のありかたは根本から激変する。本来の政治活動に必要な資金は国民が拠出すれば良いのだ。企業がカネを出すと言っても、そのカネの源泉は消費者が支払うカネにある。本当に必要な資金であるなら、国民が負担すれば良いのである。
鳩山由紀夫総理大臣はマスメディアが調査した内閣支持率が低下したことに関する報道記者の質問に対し、
「政治とカネの問題に隠れて、改革が大変大胆に行われているところが見えていない。政権は国民のために一生懸命仕事をしている」
と述べたと伝えられている。
子ども手当創設、高校授業料実質無償化など、「市場原理主義=弱肉強食奨励」の政策から「セーフティネット重視=共生社会追求」への政策方針の大胆な転換を示す政策も本格稼働し始めた。これらの政策を政党に評価することも必要である。
同時に、「政治とカネ」の問題に対して、根本から問題の本質に対応して迅速に取り組む姿勢を示す必要がある。
自民党もみんなの党も企業団体献金全面禁止に賛成しない。両党とも「金権政党」であると言わざるを得ない。
このなかで、「政治から利権に満ちたカネを完全排除する」ために、企業団体献金全面禁止を断行することを国民に約束し、どの政党が本当の意味で、「政治とカネ」の問題に抜本対応を示しているかを問うことが必要である。
民主党が企業団体献金全面禁止に踏み切ることを明言するときに、自民党やみんなの党が反対するなら、この問題に対する基本姿勢の違いを主権者国民は明快に理解することができるはずだ。
マスメディアは大資本からのスパンサー収入に経営のすべてを依存している。大資本は「カネで政治を買える」から企業団体献金制度を温存したい。マスメディアは大資本と利害を共有しており、鳩山政権の企業献金全面禁止提案をつぶしたいと考えている。
そのため、報道では小沢氏と鳩山氏の問題だけをたたき、鳩山政権の企業団体献金全面禁止提案を正面から取り上げようとしない。
民主党議員のなかにも企業献金全面禁止に反対の議員は存在するだろう。多くの議員がカネの入りを拡大したいと願っているからだ。
しかし、政治活動は「カネ」を目的に行われるものではない。政治活動は国民に対する奉仕として行われるべきものなのだ。
ここは、民主党議員は腹をくくって、企業団体献金全面禁止に進むべきである。日本政治構造を変える核心は企業献金の全面禁止である。
鳩山首相はこの点を明確に公約に掲げるべきであり、主権者国民にその重要性を、時間をかけて説明するべきである。
売国者たちの末路 著者:副島 隆彦,植草 一秀 |
知られざる真実―勾留地にて― 著者:植草 一秀 |
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