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2010年3月 3日 (水)

「デフレ論」と「ベア凍結論」の根本的な矛盾

 デフレ論とベア凍結論の矛盾を指摘しておく。

 デフレ論はデフレを「悪」とする主張だ。デフレとは第一義として「物価下落」を意味する。

 物価下落は消費者にとっては有益である。所得が変わらなくてもモノの値段が下がれば購買力は増す。実質所得を増大させる効果を有する。

 不況が深刻化するなかで、物価下落を歓迎する声は強い。

 ところが、こうした声をかき消すように「デフレ論」が喧伝される。デフレは悪であるとの主張が展開される。

 デフレが誰にとって都合が悪いのかと言えば、一般化すれば、企業と債務者にとって都合が悪い。

 企業の利益は売上げから費用を差し引いて決定される。デフレはモノの値段が下がることだから、デフレの下では売上げが減少しやすい。しかし、企業の支払う費用は賃金を含めて構造的に減少しにくいものが多い。結果としてデフレは企業収益を減少させやすい側面を持つ。

 他方、借金は名目金額が固定されているから、デフレになるほど借金の実質的な重みが増す。デフレの下では債務者の負担が重くなる。逆に預金の価値は増大する。デフレは債務者に損失を、債権者に利得を付与する。

 一般に個人の多くが預金者=債権者で、企業の多くが債務者である。

 こうしてみると、乱暴な整理にはなるが、企業はデフレを嫌い、消費者はデフレを歓迎する傾向を有することになる。

 「デフレ論」はデフレが企業の収益を圧迫し、やがて雇用の悪化、賃金の減少につながることを強調し、消費者にとっても、決してプラスでないことを訴える。消費者がデフレによって恩恵を蒙り、デフレを歓迎してしまうことを排除するための論議なのだろう。

 たしかに、物価の著しい下落は経済活動にプラスではない。賃金は下方硬直的であり、相対的に均衡の取れない高賃金が生み出され、経済活動が縮小してしまう可能性が高まるからである。

 しかし、デフレが個人の実質所得を増大させる効果に言及せずに、デフレの負の側面だけを喧伝することもフェアーではない。

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 デフレ論は分類すれば「資本の論理」であり、資本にとっての都合を優先するものである。政府が「デフレ論」を取り扱う際には、この点についての明確な認識が不可欠である。

 政府部内で「デフレ論」の旗振りをしているのは財務省である。財務省が「デフレ論」流布に注力する理由がふたつある。

 ひとつは、景気対策としての財政政策の役割を後退させることだ。日本の財政収支が激しく悪化した。財政当局は追加的な財政政策発動阻止を至上命題としている。財務省は日銀の追加金融緩和政策を主張しており、景気対策の役割を日銀に押し付けることを目論んでいる。

 もうひとつの理由は、財務省こそ日本の借金王であることだ。膨大に積み上がった政府債務を帳消しにするのに、最も手っ取り早い方法は、激しいインフレを引き起こすことである。量的金融緩和政策を求める主張の裏側に、こうした深謀が存在することに注意を怠れないのだ。

 春闘の季節を迎えるが、労働者側からも賃金上昇の要請が聞こえてこない。失業率が5%水準に上昇し、雇用情勢が極めて悪化している現状を踏まえれば、今は賃金上昇よりも雇用の確保が優先されるというのはその通りだろう。

 しかし、「デフレ論」に賛同し、デフレ論の流布に努めてきた企業、資本サイドがベア凍結を当然のこととして主張するのは不当である。

 「デフレ論」のコアは、企業収益と雇用および賃金の強いリンクにある。デフレになると企業収益が減少し、その結果として雇用や賃金に悪影響が広がることを、デフレが悪である根拠としてきた。

 日本経済は昨年3月ころを底に、緩やかな改善を実現して現在に至っている。企業収益は昨年4-6月期以降、3四半期連続で増加を記録している。企業収益が大幅に改善しているのに、賃金の上昇を一切認めないのでは、これまでの「デフレ論」の主張と大いに矛盾すると言わざるを得ない。

 日本経済が順調に上昇軌道に移行できるかどうかは、企業収益の改善が家計所得の増大に結びつき、個人消費が堅調を回復できるかどうかに依存する。

 労働者の賃金減少につながるからデフレが良くないと主張してきた企業が、企業収益が大幅に増加しているのに、賃上げ凍結を当然の主張として振りかざすのは、あまりにもアンフェアーな姿勢であると言わざるを得ない。

 労働組合は、正社員の知遇改善ばかりでなく、非正規労働者の雇用確保、待遇改善にも力を発揮することが求められており、この面での役割が期待されているが、同時に企業収益が大幅に改善したことを背景に、正当な賃金上昇を求める活動を本格化させる必要がある。

 また、鳩山政権は政治権力と大資本の癒着排除が政権交代実現の大義のひとつであることを踏まえて、労働者である国民の視点に沿った政策を推進することを忘れてならない。同時に、財政当局が将来のハイパーインフレ発生を熱望して量的金融緩和政策を提唱していることもしっかり踏まえる必要がある。

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