日米密約問題の核心は議会制民主主義の蹂躙
日米密約問題を検証してきた外務省の有識者委員会(座長・北岡伸一東大教授)が3月9日、岡田克也外相に報告書を提出した。
報告書では、密約を「公表されている合意や了解と異なる重要な内容を持つもの」と定義した上で、非公開の合意文書が存在する場合を「狭義の密約」、明文化されていないものの、暗黙の合意や了解があるものを「広義の密約」に分類。これに基づき、密約の有無を判定した。
以下に東京新聞配信記事をもとに報告書の概要を記す。
「安保改定時にまとめられた米軍の戦闘作戦行動をめぐっては、朝鮮有事の際は事前協議を免除する非公開の「朝鮮議事録」の存在を確認し、「狭義の密約」と位置付けた。
1972年の沖縄返還時、本来米側が支払うべき原状回復補償費を日本が肩代わりした事実を認定し、「広義の密約」に当たるとした。密約の根拠とされた吉野文六外務省アメリカ局長(当時)が米側と交わした文書は発見されなかったが、米側の資料を精査。文書自体は「拘束力なし」と判断した。
沖縄返還後の核再持ち込みは、密約文書とされてきた「合意議事録」が佐藤栄作元首相の遺品の中から見つかった。しかし、沖縄返還を決めた1969年11月の日米共同声明を超える秘密の合意はなかったとの理由から「密約とはいえない」と判断した。外務省の関与も確認できず、佐藤内閣以降の内閣への拘束力もないとした。」
「最大の焦点である1960年の日米安全保障条約改定時の核持ち込みは、明確な文書による合意はないものの、核搭載艦船の日本寄港を黙認する「暗黙の合意」が形成されていたと判断し、「広義の密約」と認定した。外務省が核持ち込み密約についてメモを作成し、歴代の首相や外相に説明していたことも判明した。
岡田氏は記者会見で、核持ち込み密約の存在を認めた。過去に核搭載艦船が寄港していたかどうかは「疑いを完全に払拭(ふっしょく)することはできない」と指摘。「安保条約上の事前協議がない以上、核持ち込みはない」としてきた従来の政府見解を変更した。」
日本はこれまで、「核兵器を持たず、つくらず、持ち込ませず」とする非核三原則を掲げてきた。国民に対しては「事前協議の申し入れがない以上、核搭載艦船寄港はない」などの「うそを含む不正直な説明」(有識者委員会)を続けてきた。
ところが実際には、核搭載艦船の寄港を事実上黙認してきたのである。
最大の問題は、これまでの自民党政権が国会において、密約は存在せず、核搭載艦船の寄港はないと繰り返し説明してきたことだ。
日本国憲法の国民主権の大原則に反する許されることのできない重大な問題である。
日本国憲法は国会を国権の最高機関であると定めている。衆参両議院は全国民を代表する選挙された議員で組織される。主権者である国民が国民を代表する者として議員を選出し、この議員によって衆参両議院が組織されるのが国権の最高機関である国会である。
行政権は内閣に属するが、内閣総理大臣は国会議員のなかから国会の議決で指名され、この内閣総理大臣と国務大臣によって組織される。
すべての権力の源泉は国民にある。これが国民主権である。国会議員も内閣総理大臣も主権者である国民の負託を受けた存在であり、当然のことながら、その政治行動は主権者である国民に対する責任を伴うものである。
自民党歴代政権は、これまでの長期にわたり、主権者である国民を欺く行動を取り、国権の最高機関である国会において、国民に対して虚偽の説明を繰り返してきたのだ。民主主義の根本を踏みにじる行動が取り続けられてきたのである。
この問題を最も深刻に受け止めたのは、大平正芳元首相である。日米密約を問題視し、この根本的な矛盾を解消することを検討したが、自民党政治の国民に対する背信性を証明する内容であるだけに、真実は白日の下に晒されず、今日に至った。
昨年8月30日の総選挙を通じて政権交代が実現した。日本史上、初めて民衆の民衆による民衆のための政権が樹立された。この政権交代の実現によって、初めて日米密約の真実が明らかにされる日が来たのである。
国家政策の根幹にかかわる安全保障政策上の重大案件について、国民を欺く行動が取られ、しかも、国会で虚偽の答弁が示され続けてきたことの意味はあまりにも重大である。このようなことがまかり通るのでは、軍隊の文民統制の大原則も完全に有名無実になる。
国会において国民に説明することと、政府が国民の知り得ぬ領域で実行する行動とがかけ離れたのでは、国民主権の大原則も文民統制の大原則も有名無実になる。
国会は歴代首相および外務大臣を証人喚問するべきである。国会において国民に対して意図して虚偽の説明を行うことは犯罪行為である。国民に対する背信、背任行為であると言わざるを得ない。
適用できる法令を用いて、関係者の責任を問う必要がある。
冷戦が激化し、また日本が米国の核の傘の下で安全を確保してきた現実を踏まえれば、政府の対応には止むを得ない面があったとする論評があるが、言語道断のふざけた論評である。
民主主義、法の支配が法治国家、民主主義国家の基本である。政府の外交政策上の必要があるなら、国民に説明し、国民の了解を取る必要があるのだ。国民の意思がNOであるなら、その施策を強行することは許されない。
日米密約問題が明らかにした最重要の事実は、歴代自民党政権が国民に対する背信の政権であったとの歴然たる事実である。
密約がありました、あーそうですかで済ませる問題ではない。
国民の負託を受けた政権が、国会で虚偽を述べ続け、安全保障政策上の基本事項について国民を欺く行動を取り続けてきたことが明らかになったのだ。
密約に伴う国民に対する背信行為に関与した歴代首相、外務大臣、外務省・防衛省職員に対して、まずは例外なく証人喚問を実施するべきだ。そのうえで適正に法令に基づく責任追及を実行するべきだ。
法治国家、議会制民主主義国家において、このような背信行為が容認されるなら、法治国家の名も、議会制民主主義国家の名も有名無実になる。
密約の内容もさることながら、国会で虚偽が押し通され、主権者である国民を欺く行動が放置され続けてきたことが重大である。その責任が厳正に問われなければ、議会制民主主義は絵に描いた餅になる。国会のおける適正な責任追及が強く求められる。
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売国者たちの末路 著者:副島 隆彦,植草 一秀 |
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知られざる真実―勾留地にて― 著者:植草 一秀 |
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