地検は巨悪疑惑「かんぽの宿」捜査に着手せよ
「かんぽの宿」不正売却未遂疑惑について、現在の与党国会議員が東京地検に刑事告発している。
疑惑の概要は、時価1000億円超と見られる「かんぽの宿」など79施設が、極めて不透明な売却先決定プロセスを経て、オリックス不動産に109億円で売却されることが決定されたというものである。
日本郵政でこの問題を取り扱ったのはCRE部門で、西川善文社長直轄の特命チームが担当したとされる。西川社長の出身母体である三井住友銀行出身者が中軸を占める特命チームだった。
「かんぽの宿」売却規定は、郵政民営化関連法案策定の最終段階で、竹中平蔵氏の指示で日本郵政株式会社法附則第二条に盛り込まれたものである。日本郵政は2007年10月の株式会社発足後、日本郵政は本業ではない不動産関連事業に本格進出した。
竹中氏は著書のなかで、「かんぽの宿」事業は日本郵政の本業ではないことを理由に売却方針を決定したとしているが、他方で不動産事業に本格進出していることと完全に矛盾している。竹中氏自身が日本郵政の不動産事業進出を推進した事実も見落とせない。
また、竹中氏はオリックスの宮内義彦氏が小泉政権の郵政民営化論議とまったく関わりがないと主張してきたが、総合規制改革会議2003年度第5回会合議事録に、総合規制改革会議が郵政民営化論議に関わってきたことが明確に示されており、この点についても竹中氏の主張も嘘である。
日本郵政が「かんぽの宿」売却に向けて、「かんぽの宿」簿価を急激に引き下げたことも明らかになっている。激しい簿価引き下げが実行されたのは、「かんぽの宿」売却方針が決定された2005年10月以降である。2005年3月期に1535億円であった「かんぽの宿」簿価が、2007年9月の公社閉鎖時点では129億円にまで強引に引き下げられたのである。
安値売却を正当化しようとする人々は、「かんぽの宿」の鑑定評価額が低いことを根拠にするが、これは、低い価格が算出される方法で鑑定評価が行われていることが主因である。
鑑定評価には、「原価法」、「取引事例比較法」、「収益還元法」の3種類がある。大幅赤字の事業収支をベースに鑑定評価を行えば極めて低い鑑定評価額を得ることができる。「かんぽの宿」鑑定評価額算出ではこの手法が用いられた。日本郵政内部で、意図的に簿価引き下げが行われたことを示す関係者の言動も明らかにされている。
「かんぽの宿」は加入者福祉施設で、加入者への利益還元を目的に利用料金が低く設定されている。したがって、収支が赤字になるような構造が前提とされてきたものである。経営体制の見直し、利用料金の見直しなどにより、収支を黒字化することも可能であった。実際、2010年度の黒字化に向けて収支改善も進行していた。
ところが、そのなかで2008年度の収支が突然大幅赤字に変化した。安値売却の根拠に年間40-50億円の赤字計上が喧伝されたが、この数値自体が安値売却のために「作られた数値」であった可能性が高い。
従業員の雇用維持が安値売却の理由とされたが、オリックス不動産に課せられた雇用維持義務は、3200名の雇用者のうち、620名の正社員のなかの550名について、1年限りで雇用条件を維持するというものであった。
郵政民営化に際しての雇用維持義務についての国会決議があるから、この条項が大きな制約になり安値売却に至ったとの説明も嘘であったことが判明した。
日本郵政が売却方針を公告したときに、400億円程度の買値を打診した事業者が存在した。しかし、日本郵政はこの事業者を門前払いした。
日本郵政公社の財産を日本郵政株式会社に承継させる際に、郵政民営化承継財産評価委員会が設けられたが、この委員会で不動産鑑定評価の中心を担ったと見られるのが奥田かつ枝氏である。奥田氏はオリックス関連企業の社外取締役を務めていた人物である。
これ以上、詳細に立ち入ることはしない。本ブログの関連記事を参照賜りたい。
「かんぽの宿」79施設のひとつに「ラフレさいたま」がある。この施設だけで、100億円程度の時価があると見られている。また、首都圏9か所の社宅については、土地代だけで47億円程度の時価があると見られている。
「かんぽの宿」売却はこの10施設以外に、全国69ヵ所の「かんぽの宿」をすべて合わせたものである。固定資産税評価基準額は857億円である。不動産の時価は通常、固定資産税評価基準額よりは何割か高くなる。「かんぽの宿」79施設の時価が1000億円超とする見方の正当性を裏付けている。
東京地検に刑事告発された「かんぽの宿不正売却未遂事件」は、1000億円の国民資産が109億円で不正に売却されようとしていたのではないかとの疑惑に関するものである。900億円の不正利得が問題とされているのだ。
こうした不正が「郵政民営化」の名の下に進められていたのなら、国民として看過することはできない。
小沢一郎民主党幹事長の政治資金管理団体に関する騒動は、現在のところ、重箱の隅をつつくような、細かな記載のミスに関するものでしかない。元東京地検特捜部長を務めた宗像紀夫氏はテレビ番組で、「地検は何らかの容疑で身柄を確保し、その後に本命の事案での捜査に移行する」ことを明言した。これは、「見込み捜査」、「別件逮捕」であり、刑事訴訟手続きに関する法令、日本国憲法の定める人権規定に違反する違法行為である。
東京痴犬地検は、小沢氏の政治団体による不動産購入と近い時期に、記載されていない企業献金存在したことを探し出し、両者を結びつけて、「悪質だ」と主張したいようだ。不動産購入が違法行為でない限り、仮に企業献金が存在したとしても、問題はただの「献金の記載漏れ」である。
この場合には、これまでの国会議員の政治団体による「記載漏れ」が、どのように処理されてきたのかを比較衡量しなければならない。「法の下の平等」が何よりも重要であり、本来、刑事処分の決定には、明確な誰の目にも分かる基準が不可欠である。明確な基準がなければ刑罰を科すことができないとの根本原則が「罪刑法定主義」である。
明確な基準が存在せず、警察・検察当局のさじ加減一つですべてが決まる国家を「前近代国家」と呼ぶ。日本はこの意味で「前近代国家」である。
千葉県知事の森田健作氏の公職選挙法違反容疑についても刑事告発がなされている。この問題についても、検察はなしのつぶてだ。また、政治団体からの献金についての記載に関して、所管官庁である総務省に、法律運用の明確な基準を問い合わせても、明確な回答が得られない。こんな国で法令遵守は不可能である。
東京痴犬地検特捜部は、「かんぽの宿」事件の強制捜査に早期に着手するべきである。政治的に偏向した行動だけを展開することがいつまでも容認されると考えるのは浅はかである。メディアが米国に支配されている事実も、多くの市民に知られ始めている。主権者である国民は検察の巨悪を暴いてゆかねばならない。
売国者たちの末路 著者:副島 隆彦,植草 一秀 |
知られざる真実―勾留地にて― 著者:植草 一秀 |
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