日銀追加政策決定と絶妙の呼吸示す鳩山政権
日本銀行は12月1日午後2時から臨時の金融政策決定会合を開き、追加の金融緩和策を決定した。政策金利の誘導目標を現行のまま据え置く一方で、国債や社債、コマーシャルペーパー(CP)を担保に0.1%の固定金利で資金を供給する新たな仕組み(3カ月物、10兆円程度)を導入することを決めた。
日銀の追加金融政策決定を受けて株価が大幅に上昇した。日経平均株価の午前の取引引け値は9256円と前日比88円安であったが、前引け後に日銀の臨時会合開催のニュースが伝わり、後場(ごば)は寄り付きから株価が急騰し、前日比終値は前日比226円高の9572円で高値引けとなった。終値で9500円台を回復したのは11月19日以来、7営業日ぶりである。
鳩山政権の平野博文官房長官は1日夕の記者会見で、鳩山由紀夫首相と日銀の白川方明総裁が2日に会談することを明らかにした。また、平野官房長官は1日の臨時日銀政策決定会合で日銀が追加の金融緩和を決めたことについて、「経済対策と歩調を合わせて現下の経済状況の変化に適切に、迅速に対応されたと評価している」と述べた。
日経平均株価は先週末の11月27日に9081円の水準にまで下落した。9000円の大台割れ寸前にまで下落した。また、チャート上の分析では、日経平均株価終値が7月13日の終値9050円を下回ると三尊天井を形成し、株価の下落トレンド入りが示唆されることになり、株式市場は厳しい局面を迎えていた。
本ブログで指摘してきたように、鳩山政権の2010年度当初予算が日本経済に対して強い下方圧力を与える形で編成される可能性が高まっていた。1997年度当初予算、2001年度当初予算を上回る強い景気抑制力を持つ2010年度当初予算が編成されようとしていた。
また、米ドルの下落傾向が強まり、裏側に生じる円高が日本経済の短期的な悪化を示唆したことも株価下落を誘導する要因になった。
このなかで、週末から週初にかけて、機動的な政策対応、政策方針が示された。
11月29日記事
に記述したように、鳩山政権の仙谷由人行政改革相が11月29日のテレビ朝日番組で、2010年度予算編成に際しては、
①102.5兆円に拡張した2009年度予算をベースに考察しなければならないこと、
②2010年度当初予算を92兆円規模に絞り、国債発行を44兆円に留めることが景気抑圧予算となることについて十分な再検討が必要であること、
の2点を踏まえる必要があることを指摘した。
私が『金利・為替・株価特報』2009年11月25日号で指摘したことがらを踏まえた発言と考えられるが、2010年度予算編成に向けての最大の警戒要因が排除される可能性が指摘された意味は極めて大きい。
一方、日銀の白川方明総裁は、高度な政治判断を下し得る有能な人材であると見られるが、為替市場の円高進行を踏まえて、日銀の政策スタンスを効果的にアピールする方策を模索していたのだと思われる。
日銀の追加政策対応の経済効果は極めて限られているが、財政金融政策当局が政策を総動員して、経済改善に向けて全力をあげていることを意思表示することには、極めて大きな意味がある。
橋本政権の超緊縮財政で株価下落-景気悪化-金融不安の悪循環が発生してしまった1998年夏、バトンを引き継いだ小渕政権発足初期に、政府が財政政策を大胆に発動するとともに、日銀が1999年2月にゼロ金利政策を実施して、政策総動員を印象付けた。日経平均株価は98年10月の12,879円から2000年4月の20,833円に急騰した。
財政金融政策を総動員し、戦後最悪の不況克服に向けて政策当局の意思を明示することが何よりも重要である。鳩山政権の政策対応の歯車が、適正な方向に回転する兆候を示し始めたことは喜ばしい。
経済悪化が深刻な状況下では、経済回復を優先することが何よりも重要である。経済回復最優先の経済政策は、短期的には財政赤字を拡大させてしまうように見える。しかし、経済が回復軌道に回帰すれば、予想以上に財政収支は改善するものである。
財政収支の悪化抑止を優先して、経済悪化局面で緊縮財政を強行すると、経済悪化が税収減少と追加景気対策出動要請をもたらすために、財政収支は改善するどころか、かえって悪化してしまう。
金融政策は超金融緩和政策を継続しなければならないが、金融政策にだけ依存した政策対応は大きな効果を発揮しない。
株価が反発しても鳩山政権は景気回復最優先の政策スタンスを変えてはならない。ぶれない政策スタンスを明示することが、経済主体の心理改善をもたらすのである。
11月28日以降に示されている鳩山政権の景気回復最優先の政策スタンスを維持することが何よりも大切である。
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