2010年度景気抑制型当初予算を回避すべし
鳩山政権が12月2日、2009年度第2次補正予算に盛り込む追加経済対策の事業規模を20兆円程度とする方針を固めたことが報道されている。
日本経済新聞の報道によれば、
「国の財政支出である「真水」は4兆円程度で、財源調達のために赤字国債を発行しない。中小企業の資金繰り支援のための緊急信用保証枠を従来の30兆円から36兆円に積み増すなど、財源を直接、予算に計上する必要がない事業を中心にする」
とのことである。
鳩山政権は政権発足直後に麻生政権が本年5月に成立させた14兆円の第1次補正予算を見直し、2兆9000億円分を執行停止にした。第2次補正予算には、この2兆9000億円分の財源が優先して充当されるが、これに財源を追加投入して4兆円規模の真水が投入されることになる。
日本経済は深刻な不況のなかにあり、政府に求められる最優先課題は、経済の立て直しによる国民生活の改善である。不況の背景は米国発のサブプライム金融危機であり、米国でもオバマ政権が7800億ドルの財政政策を発動するなど、通常の判断を大きく超えた対応が示されている。
自民党の石破茂政調会長が鳩山政権の政策方針に対して、「麻生政権の補正予算を一部執行停止にしておきながら、第2次補正予算で4兆円規模の財政政策対応を示すのは、結局、麻生政権の政策が正しかったことを鳩山政権が認めることだ」と批判しているが、まったく的外れな論評である。
麻生政権が編成した第2次補正予算は14兆円規模で、極めて大型の対策だったが、その支出内容は公的施設の営繕費2.8兆円や天下りの温床となる58の政府基金への4.8兆円の拠出など、官僚利権に対するお手盛り満載のものだった。
鳩山政権の対応は、貴重な国費の支出先として妥当でないもの、無駄と思われるものに大胆にメスを入れ、そのうえで国民生活を支えるための支出を適切に確保しようとするものである。
鳩山政権は2010年度予算編成に向けて「事業仕分け」を実施した。極めて短い時間での作業であったが、予算に計上される事業の15%を対象とした査定作業で1兆8000億円予算削減の道筋を確保した。短時間での予算査定であったため、きめ細かさの不足など多くの問題点をあげることができるが、鳩山政権が総選挙の際に示していた予算の無駄排除は確実な第一歩を印したと言える。
鳩山政権は単に予算を圧縮しようとしているのではない。無駄を排除し、他方で必要な政府支出を実行しようとするものである。これまで、「業」、「官」に振り向けられてきた貴重な国費を削減し、主権者である国民=「民」に直接給付する方向に、日本の財政支出構造を根本から変えようとしているのである。
これまでの予算論議では、規模の論議だけが行われてきた。景気との関連で予算規模は重要だが、一方で、政治に求められる最重要の機能は、予算の中味を徹底的に吟味することである。
「業」と「官」と癒着した政府支出を排除し、「民」のために国費を投入することが、予算組み替えの基本精神である。
予算を論議する際には、①適正規模、②適正な予算配分、の2点を十分に検討することが求められる。鳩山政権が②の「適正な予算配分」について、精力的に対応を進めていることは高く評価されるものである。
問題は、①の「適正規模」である。
本ブログで指摘しているように、2009年度予算が補正後ベースで見て、強度の景気刺激予算になっている一方、2010年度当初予算が、このまま進むと強度の景気抑制予算になることが懸念される。
この問題の詳細については、『金利・為替・株価特報』2009年11月25日号に記述した。11月28日放送のテレビ朝日番組での仙谷由人行政刷新相の発言は、レポートで指摘した重要事実を的確に認識したものであった。
財務省は2010年度当初予算の圧縮に向けて、さまざまな工作活動を展開している。財務省は当初予算圧縮に懸命に取り組んでいるが、その行動は日本の予算編成方式の特徴に起因している。
日本の予算は前年度当初予算をベースに編成される。したがって、財務省としては補正予算での予算拡張には抵抗を示さないが、当初予算での拡張には強烈な抵抗を示すのだ。
この予算編成方式を根本的に見直す必要がある。2009年度から2010年度にかけての大きな問題は、2009年度予算が拡張される一方、2010年度当初予算が圧縮される点にある。
これまでもしばしば指摘されてきた点だが、補正予算には多くの無駄が混入しやすい。一時的なその場限りの支出が盛り込まれやすいからだ。当初予算は基本的に中長期の制度設計に基いて編成される。
民主党は2010年度予算に、民主党が総選挙に際して公約として掲げた基本政策を前倒しで計上することを検討するべきである。
政府の「財政に対する市場の信認確保に関する検討会」が12月2日、中長期的な財政規律のあり方の提言を盛り込んだ「論点整理」をまとめたことが伝えられている。
論点整理では、「経済成長と財政健全化の両立」、「歳出構造の抜本的な見直し」、「中長期的な財政健全化計画の策定」など原則が設定されたとのことだが、このなかに、国家戦略室がとりまとめる2010年度の「予算編成の基本方針」に国債発行額の上限を盛り込むこと、11~13年度3年間の歳入見込みや歳出削減などを含めた「中期財政フレーム」を設定することなどが盛り込まれた。
2010年度当初予算での国債発行金額をさまざまな要因を考慮して44兆円以下に留めることは、ひとつの見識であるが、この制約に縛られて2010年度予算を超緊縮予算にしてしまうことは避けなければならない。
2009年度補正後予算と比較して著しく小さな2010年度当初予算規模にすることは、日本経済に強い下方圧力を与えることを適正に認識しなければならない。適正な予算規模を確保し、しかも国債発行を44兆円に留めるためには、いわゆる「埋蔵金」を活用しなければならない。
11月28日の仙谷行刷相の発言は、埋蔵金活用を示唆するものであったが、有言不実行になってもらっては困る。仙谷発言を契機に日本の株価も大きく反発した。金融市場は政策責任者の一挙手一投足を注目している。日本経済浮揚に向けて、景気抑制型でない2010年度当初予算を編成することが強く求められる。
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売国者たちの末路 著者:副島 隆彦,植草 一秀 |
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知られざる真実―勾留地にて― 著者:植草 一秀 |
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