「朝まで生テレビ」偏向制作と総選挙の論点
7月25日のテレビ朝日番組「朝まで生テレビ」で与野党6党の国会議員が出演して討論を行なった。
田原総一朗氏の歪んだ司会進行と山際澄夫氏という劣悪な産経新聞出身の論者の発言を除けば、内容のある討論であった。
総選挙を目前にした政党討論であるのだから、主要な争点をピックアップして、その論点について討議するのが、本来取られるべき手法である。
ところが、番組は、民主党の政策公約を一覧表にして取り上げ、その細目について討議を進めるという方式を取った。
寄ってたかって民主党を吊るしあげる企画であり、田原氏とテレビ朝日が自民党の意向を受けて番組を制作していることを如実に示唆するものだった。
最大の印象は、民主党の細野豪志氏がさまざまな問題について、冷静かつ的確に対応していたことだ。自民党の茂木敏充氏は自民党内有数の論客だが、重箱の隅をつつく論議に終始し、逆に細野氏から突っ込まれて返答に窮する場面が目立った。
番組での討論を通じて、次期総選挙に向けて、以下の三点が重要になることが明確になった。
第一は、自民党が景気回復、景気対策をアピールしようと考えていることだ。本ブログでは、自民党が景気回復を争点にすることを前提に、
7月22日付記事
7月24日付記事
に、経済政策について記述した。改めて、内容を確認していただきたい。
自民党が民主党を攻撃する「財源論」は財政赤字の発生を問題にする論点であり、他方、自民党が主張する景気対策の効果は財政赤字をどれだけ拡大させたかを問題にする論点である。
論者がこの関係を正確に認識しているように見えなかった。
第二は、共産党が次期総選挙の意味を「自公政権の終焉」と位置付け、従来の民主党攻撃のスタンスを大きく修正したことである。直接的な選挙協力が行なわれているのは、民主党、社民党、国民新党の間であるが、共産党が政権交代を次期総選挙の意義に位置付けた意味は大きい。
「政権交代」を軸に次期総選挙が展開されることがより鮮明になった。
第三は、政権交代が実現する場合に、外交政策を中心に、漸進的で柔軟な対応が示される可能性が高いことが明確になったことだ。
日米関係をどのように変化させるのかが最も重要だが、日米関係を重視しつつ、これまでの従属関係をどのように変化させてゆくのかが問われる。慎重で柔軟な対応が求められるのは当然だ。
第一の点から説明する。
番組に出演した荻原博子氏は本ブログを閲覧されているのだと考えられる。本ブログ7月22日付記事に、麻生政権が編成した3度の補正予算での追加財源調達規模の合計が27兆円に達すると記述した。荻原氏は麻生政権の景気対策について、「27兆円」の表現を用いて説明した。
麻生政権の財政政策について、27兆円の数値を付して説明する解説は、本ブログ以外には存在しないはずである。補正予算の規模を合計した金額は20兆円であり、27兆円は税収見積もりの減額補正を含んだ数値である。
景気対策の経済効果を考察する際には、税収の変動を含めて財政バランスがどれだけ変化したのかがポイントになる。この意味で追加財源調達額の27兆円が最も重要な数値になる。しかし、この数値を取り上げる説明は、本ブログ以外にはないと思われる。
荻原氏は、民主党の子育て手当について、高額所得者を中心に一部の納税者の負担増が生じるとしても、少子化対策、格差是正の視点からプラスに評価できるとの論評を示した。本ブログを参考にして、適正なコメントを示されるならありがたい。
番組では、歳川隆雄氏が2008年4-6月期のGDP統計が8月17日に発表されることを述べた。麻生政権が8月18日公示、8月30日投票の総選挙日程を前提に、GDP統計発表を公示日前日の8月17日に設定したと考えられる。
選挙公示日の第一声で景気対策の効果をアピールしようとの思惑が透けて見える。しかし、日本のGDP成長率は以下の推移を辿った。
2008年 4- 6月期 - 2.2%
7- 9月期 - 2.9%
10-12月期 -13.5%
2009年 1- 3月期 -14.2%
2009年4-6月期に年率換算で6%程度のプラス成長が示されたとしても、焼け石に水であり、景気の現状は極めて厳しい。
麻生政権はわずか半年で27兆円も財政バランスを悪化させた。GDP比5%強の景気対策を実行したのであるから、その効果が表れないはずはない。問題は、その内容の大半が大企業と官僚へのお手盛りになってしまっていることだ。
エコカー、エコポイントへの財政助成は、裾野の広い経団連企業への補助金政策である。選挙に向けてこれらの経団連企業が企業ぐるみの自民党支援を展開することを誘導する政策である。
7月24日付記事に記述したように、最も優れた「成長誘導政策」は、消費者に購買力を付与する政策である。消費者が自らの意志と判断によって支出を拡大する。消費者が選択して支出を拡大させる分野が成長分野である。
政府が補助金を出して支出を誘導することは、経済活動への不当な介入になる。優遇する製品を政府が選んでも、その製品が本当に優れているとは限らない。政府による優遇策は常に利権と癒着の温床になるのだ。
消費者が「増加する可処分所得」を支出に回すには、将来に対する不安が除去されることが必要になる。この意味で、年金、医療、教育などについての将来不安を解消することが極めて重要になる。
民主党の政策が、①家計の可処分所得増大、②年金、医療、教育に関する将来不安除去、の2点を柱に据えていることは、極めて適切である。
自民党の実行している「成長誘導政策」は、特定業界への利益供与でしかない。企業への利益供与と企業からの巨額献金が癒着して生み出されているのが自民党の「成長誘導政策」の本質であることを見落としてはならない。
民主党の政策は、市場メカニズムを通じて自律的な成長分野の拡大を促す政策であり、「成長政策」としては自公政権の「成長政策」よりも優れている。
①企業献金全面禁止の是非
②天下り根絶の是非
③消費税大増税の是非
である。
企業献金を断ち切ろうとしない自民党の政策は、どうしても大企業への利益供与政策に傾いてしまう。
また、自民党の茂木氏と公明党の高木氏は、人材交流センターによる天下りあっせんを廃止しない考えを示した。これに対して、民主党は天下り根絶を公約に明記している。
テレビ番組は、①企業献金、②天下り、③消費税増税、に論点を絞って討論を行なうべきだ。
共産党は今回の総選挙で小選挙区での立候補者数を152人に激減させる。前回選挙では275人を擁立した。共産党候補者に振り向けられていた投票が政権交代推進政党に振り向けられるなら、政権交代推進勢力は大きな力を得ることになる。
民主党の政策をあげつらう討論においても、民主党は十分に耐え抜いた。細野氏の力量に負う部分も大きいが、民主党は投票日に向けて、理論武装をさらに強化するべきである。
とりわけ、「景気対策」、「財政赤字」、「成長政策」において、自民党の主張には欠陥が多く見られる。民主党を中心とする野党は、自民党の主張の欠陥をじっくりと洗い直し、政党討論で自公勢力を論破する説明方法を確立しておくべきである。
野党勢力が共闘体制を強化して、「政権交代実現」をまずは優先することが肝要である。
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売国者たちの末路 著者:副島 隆彦,植草 一秀 |
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知られざる真実―勾留地にて― 著者:植草 一秀 |
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