「企業献金全面禁止論」の理論基盤が確立された
鬼頭栄美子弁護士の専門的考察によって、「企業献金全面禁止政策」の正当性が完全に論証された。
これまで、麻生首相は、1960年の八幡製鉄政治献金事件に対する1970年の最高裁判決を金科玉条の如く扱い、政治献金の正当性を主張する根拠としてきた。
鬼頭栄美子弁護士の寄稿論文(その2)によると、
1970年最高裁判決は、
「憲法上の選挙権その他のいわゆる参政権が自然人たる国民にのみ認められたものであることは、所論のとおりである」
としながら、
「「納税者論」に立脚し、企業の政治献金により、「政治の動向に影響を与えることがあったとしても」、別段構わない、と強弁している。」
のであり、
「政治献金に対する一般の常識と甚だしくかけはなれた「政治献金奨励論」」(服部栄三・商法の判例)、
「憲法論としては、「とんだ勇み足の議論」」(鈴木竹雄・商事法務研究531-112)、
「『金権政治』改革のための議論の足をひっぱってきたのが、この判例」(樋口陽一・個人の尊厳と社会的権力-40)
など、法律専門家からの厳しい批判に晒(さら)されてきたものである。
さらに、鬼頭弁護士寄稿論文(その3)は、
「1993年11月2日の衆議院「政治改革に関する調査特別委員会」において、岡原昌男元最高裁判所長官が参考人として、
「八幡製鉄献金事件昭和45年(1970年)最高裁判決は、政治的配慮から、「助けた判決」である」と意見表明した」
との重要事実を指摘している。
鬼頭氏は、岡原元最高裁長官の意見表明の内容を次のように整理する。
「元最高裁判所長官の意見を要約すると、重要なポイントは次の5点である。
①企業献金は、善悪以前に、そもそも法律的に理屈が通らず、適法性がないこと
②現在のような数百万から億といった企業献金は悪であり、何とか直してもらいたいこと
③企業献金は、全面禁止の方向に向かうべきであること
④八幡製鉄事件が起きた昭和35年当時、政治家が皆受領していたので、最高裁としては、違憲だとか違法だとか言えるわけがなかったこと
⑤八幡製鉄事件昭和45年最高裁判決は、政治的配慮から、やむなく、「助けた判決」であること」
つまり、最高裁は1970年に企業献金を認める判例を示したが、その最大の理由は、最高裁が「違憲および違法の判断」を自己抑制したことにあり、純粋な法律論においては、
「企業献金は認められない」
との判断が、元最高裁長官によって明確に示されたのである。
私は、民主党の小沢一郎前代表秘書が不当逮捕された本年3月3日以降、本ブログで繰り返し、「企業献金全面禁止」の提案を示してきた。
3月15日「国策捜査・選挙妨害の裏は「かんぽの宿」疑惑つぶし」
に、その主張を記述した。
この提案を受けてのことかは定かでないが、民主党小沢代表は3月17日の記者会見において企業献金全面禁止の提案を示した。
本ブログでは、
に小沢代表による「企業献金全面禁止提案」への賛意を示し、
3月22日「「企業献金全面禁止」の是非が総選挙最重要争点に」
に、個人的見解を要約して示した。
その一部を引用する。
「企業には選挙権が付与されていない。日本国憲法は成人に達したすべての国民に等しく参政権を付与している。経済的条件で国民を差別しない。富める者にも貧しき者にも等しく、一人一票の投票権が付与される。
企業献金が許されれば、資本力に勝る企業が献金の中心を担うことになる。企業は営利を追求する存在である。したがって企業献金は、何らかの意味で見返りを期待して実行される。
したがって企業献金には必ず広い意味での「賄賂性」が伴うのである。自民党議員の多数が、企業献金全面禁止提案に狼狽するのは当然だろう。多くの議員が企業献金を目的に政治活動を行っていることが浮かび上がった。
企業献金の全面禁止は日本の政治を刷新するうえで、最も有効な方法のひとつである。「大資本を幸福にするための政治」から「一般国民を幸福にするための政治」への転換は、企業献金が容認される限り、大きな困難を伴う。「大資本」の利益を優先する政党の資金力が企業献金の力で増大し、「一般国民」の利益を優先する政党の資金力を凌駕するからだ。」
日本の民主主義制度では、経済力に関わりなく、成人1人に1票の参政権が付与され、貧富の格差のない1票が万人に保証され、その投票の多寡により、議員が選出され、内閣が組織される。
参政権を持たず、しかし、突出した経済力を有する企業に献金を認めれば、政治が参政権を持たない企業に引き寄せられてしまうのは、火を見るよりも明らかである。法の下に平等である主権者である国民の意向ではない、企業の財力に政治が支配されることは不当であると考えられるのだ。
鬼頭氏は寄稿論文(その1)に、
問題の本質は、
「選挙権を持たない企業が、金の力で、国の政治・政策を左右することを、許してよいのか!」
との点にあると指摘する。
そのうえで、
①「参政権の性格」
と
②「現代社会における企業(法人)と個人(自然人)の、圧倒的資金力の違いを前提にしたうえでの「大資本による、参政権歪曲化」の観点」
から問題を考察すべきだと指摘する。
①参政権については、
「参政権の性格(参政権・選挙権の本質は、自然人のみが主権者として有する政治的基本権であること-憲法15条、44条)を踏まえれば、献金額の多寡に関わらず、企業の政治献金を許してはならないことは、自明である。
普通選挙権獲得の歴史に鑑みても、また、憲法論的意味においても、政治意思の形成・政治過程への参画は、自然人のみに期待されており、参政権・選挙権の分野において、企業(法人)と個人(自然人)を、同列におくことはできない。」
と指摘する。
他方、
②「大資本による参政権歪曲化」については、
「企業による巨額の政治献金が、選挙戦においても、その後の政策決定においても、政治に多大な影響を及ぼしてきたことは明白である。
企業の献金先は、企業の利益を代表・代弁する特定の政党・政治家に集中すると考えられ、献金を受け取った特定の政党・政治家の政治活動は、自ずから、献金をしてくれた企業の利害に配慮したものとならざるを得ない。
その結果、政党・政治家の政治活動が、参政権・選挙権を有する主権者である「国民を代表」する(憲法43条)ものになり得ない。」
と指摘する。
次期総選挙について私は、これまでの自公政権による
①官僚のための政治
②大資本のための政治
③外国資本ための政治
を排除して、
「国民の幸福を追求する政治」
を実現するのかを問うものであるとの見解を表明してきた。
①、②を排除するための具体的行動として、
①天下りの根絶
②企業献金の全面禁止
が鍵を握るとしてきた。
そして、官僚や大資本への利益供与を根絶せずに、一般国民に負担を押し付けることを回避するために、
③消費税大増税の封印
が公約として示されなければならないと主張してきた。
さらに、③「外国資本のための政治」を排除するために、
④「かんぽの宿疑惑の解明」、「日本郵政経営体制の刷新」
が不可欠であるとしてきた。
これらの問題をクリアした上で、実行すべき政策が
⑤セーフティネットの整備
である。
すべての国民の生活を守り、すべての国民に安心と希望を付与することが政府の最大の課題である。
私は、上記した①から⑤の5つの政権公約が次期総選挙の五大争点であると主張してきた。
明治開闢(かいびゃく)以来140年、55年体制発足以来54年の時間が経過したが、日本政治は、「官僚」と「大資本」のために存在し続けてきた。
これを、「国民のための政治」に転換する最大のチャンスが次期総選挙である。その中核を担う政権公約が
「天下り根絶」と「企業献金全面禁止」である。
鬼頭栄美子弁護士による明解な論考により、「企業献金全面禁止」の強固な論拠が提示されたことを誠にありがたく思う。
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売国者たちの末路 著者:副島 隆彦,植草 一秀 |
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知られざる真実―勾留地にて― 著者:植草 一秀 |
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