民主党対自民党:経済成長を促すのはどちら
自民党を支援する御用メディアは、相変わらず偏向報道を続けている。自民党が制作した下品な鳩山民主党攻撃のアニメ動画をテレビで放映し、自民党広報を実施しているテレビ局もある。
麻生首相は「景気回復」を自公政権の最重要課題に位置付けていることを強調する。
7月22日付記事
に記述したように、自民党が実行してきた財政政策には重大な問題が多く含まれている。
2008年度の二度の補正予算、2009年度の補正予算で、麻生政権は27兆円もの追加財源を調達し、景気対策に注ぎ込んだ。国債を19兆円増発し、政府資産を8兆円流用した。政府の懐が27兆円も悪化したわけだ。
これだけ巨額な資金を投入して、景気が改善しない訳がない。日本のGDP成長率は本年4-6月期にようやくプラスに転じる。この統計の発表日が8月17日に設定された。8月30日に投票日を設定すると、公示日が8月18日になる。その前日にGDP統計の発表日を設定したのだ。
年率換算の実質GDP成長率は昨年4-6月期から、以下のように推移した。
2008年 4- 6月期 - 2.2%
7- 9月期 - 2.9%
10-12月期 -13.5%
2009年 1- 3月期 -14.2%
年率換算の実質GDPは2008年1-3月期の566.4兆円だったものが、2009年4-6月期には、519.0兆円にまで、8.4%も減少した。
8月17日に発表される2009年4-6月期の実質GDPが、
仮に前期比+1.5%、年率+6.1%
のプラス成長を示したとしても、年率換算の実質GDPは526.7兆円にしか達せず、2008年1-3月期の実質GDPよりも7.0%も低い水準にとどまる。
8月17日に発表されるGDP統計がやや高めの数値になるとしても、その最大の理由が、それ以前のGDP縮小が激しすぎたことにある点を見落としてはならない。政策の成果と言える代物ではまったくない。
年率で二桁成長が3四半期程度持続すれば、「景気回復」の言葉も当てはまるが、現状は程遠い。27兆円もの国費を投入しながら、この程度の景気回復しか導けないのなら、景気対策の手法に大きな誤りがあったことになる。
自民党は民主党の政策の財源問題を攻撃し、NHKは民主党の政策には、「成長戦略が欠けている」と、頓珍漢(とんちんかん)な論評を示している。大企業に依存する日本経済新聞が実施した企業経営者への緊急アンケートでは、企業経営者が「成長戦略」を重視し、民主党ではなく自民党に対する政策評価が高いことを伝えている。
日本経済新聞は小泉政権の時代以降、「自民新報」あるいは、「小泉新報」と呼んだ方が良いほどの偏向ぶりを示してきたが、民主党政権が樹立される可能性が高いこの時期に及んで、このような偏向報道を続けるところを見ると、自民党と命運を共にする覚悟を固めたのかも知れない。厳しい近未来が待ち受けているだろう
財政政策の機能に着目して、自公政権の政策と民主党の政策を比較してみよう。
ドイツの財政学者マスグレイブの整理によれば、財政政策の機能には以下の三つがある。
①資源配分機能
②所得再分配機能
③景気安定化機能
である。
①の資源配分とは、財政資金をどのような分野に投入するのかという問題で、財政活動の根幹に関わる。
民主党は、これまでの財政支出をゼロベースで見直し、
a.無駄と考えられるもの
b.必要性の低いもの
を排除する一方で、
c.国民生活安定に不可欠と考えられる支出
を大幅に拡大しようとしている。
無駄の代表例は、天下りにかかる支出、必要性の低い公共事業、であり、加えて民主党は公務員給与の引き下げにも取り組む姿勢を示している。
財政の資源配分機能に着目した民主党の取り組みに賛同する有権者が多いはずだ。
民主党は、10兆円以上の規模でこの予算組み替えを行ない、最終的には17兆円から20兆円規模にまで拡大する計画を有している。決して不可能な計画ではない。
財政の所得再分配機能を排除しようとしたのが小泉改革である。市場原理に委ねると、結果における格差が拡大する。競争条件において不利な状況に置かれる経済的な弱者は自由競争の結果、ますます厳しい状況に追い込まれる。
所得再分配機能を活用しないのが「市場原理主義」、所得再分配機能を重視するのが「人間尊重主義」である。
労働者に対するセーフティネット、派遣労働に対する規制、障害者に対する支援、高齢者に対する支援、母子世帯に対する支援、生活困窮者に対する支援、労働者への分配率を高めるための施策などを重視するのが「人間尊重主義」である。
小泉改革の流れを汲む自公政権の政策に対して、民主党を中心とする野党は、財政の「所得再分配機能」を重視する。
課税において、累進税率を適用する所得税は、所得再分配機能を強く持つ。これに対して、消費水準に対して比例的な課税となる消費税は、高所得者の負担感が少なく、低所得者の負担感が大きい。
自民党は2011年度にも消費税大増税に着手する意向を示しているが、民主党は少なくとも4年間は消費税増税を封印することを公約に掲げた。
景気対策としての財政政策の論議が、③景気安定化機能の問題に関わる。
私はかねてより、
a.特定産業救済型の景気対策
ではなく、
b.購買力付与型の景気対策
が望ましいと述べてきた。
公共事業はa.の典型例である。地方の建設業が厳しいから景気対策で公共事業を増やす。こうした景気対策は、景気対策で恩恵を受ける事業者が特定され、政治利権と結び付きやすい。また、本来は縮小しなければならない産業を延命させる側面をも有し、経済構造の変化を妨げる要因になる。
これに対して、購買力付与型の政策は、失業給付、育児手当、各種助成金などにより、個人に購買力を付与する政策を指す。可処分所得が増加した個人は、それぞれの自由な意志により、支出先を定め、支出を拡大させる。
この支出拡大によって恩恵を受けるのは、伸びている産業である。支出の内容を政府が決めるのでなく、市場メカニズムに委ねるのである。政府の施策は個人に対する可処分所得増加策であるから、利権にはなりにくく、汚職も生まれにくい。
a.の政策とb.の政策のどちらが、経済構造の変化促進や経済成長にプラスかをよく考える必要がある。b.の政策は、市場メカニズムに資源配分を委ねるため、経済の自律的な発展や成長を促すと考えられるのだ。
可処分所得が増加した個人がその所得を貯蓄に回してしまうと、景気浮揚効果が減殺されるから、個人が将来を楽観できる状況を生み出すことが同時に求められるが、政府が支出先を決定してしまう、従来型の景気対策よりは、はるかに優れている。
麻生政権は環境対策などの名目で、大型予算を組んだが、このような大義名分に隠れる「政治利権」に要注意だ。「地球環境対策」の装いをまとった利権政策が横行している。
エコカー、エコポイントなども典型例である。エコカー減税で、燃費の絶対水準に応じて補助金が支払われるなら、低燃費車の普及が促進される。しかし、政府の施策は、高燃費の高排気量乗用車にも適用される。環境対策ではなく経団連企業への補助金政策なのだ。
また、こうした政府施策を名目にした予算拡大が、官僚利権増大を増長する要因になっている現実も見落とせない。
麻生首相は選挙戦冒頭に業界団体詣でを行なったが、自民党政治がいかに「大資本」に傾斜したものであるのかが示されている。自民党政治は大企業に恩恵を施し、大企業から巨大献金を受ける「ビジネス」と化している。
大企業は政治からの恩恵を受けようと自民党の要請に応じ、経営に逆らえない従業員は選挙に動員される。この歪んだ図式を変えるには、企業献金を全面禁止するしかない。日本政治を刷新するもっとも大きな起爆力を有しているのが「企業献金全面禁止」提案である。
話が横道にそれたが、経済の自律的な発展、構造変化を促すには、政府が支出先を決定する財政政策よりも、市場に支出対象を選択させる「購買力付与型の政策」の方が望ましいのだ。
財政政策が景気にプラスの影響を与えるのか、マイナスの影響を与えるのかは、基本的に財政赤字の増減で表わされる。民主党の政策が経済成長にマイナスになる懸念を生み出す場合には、財政赤字を縮小させるスピードを落とせば良いことになる。
自民党は、民主党の政策の財源論が脆弱(ぜいじゃく)だと批判するが、自民党自身がこの1年間に27兆円も財政収支を悪化させており、このような政策対応が認められる環境下においては、民主党が示す財源論は、当初、若干財政赤字が拡大するとしても、まったく問題にはならない。
自らの政策において、1年間に27兆円も財政収支を悪化させておいて、民主党の財源論が支出政策のすべてをカバーしていないと噛みつくのは、自己矛盾そのものである。
大企業と役人へのお手盛り予算満載の麻生政権の財政政策に比較すれば、民主党提案は、資源配分、所得再分配、経済成長のすべてにおいて、自民党の政策よりも優れていると言わざるを得ない。
売国者たちの末路 著者:副島 隆彦,植草 一秀 |
知られざる真実―勾留地にて― 著者:植草 一秀 |
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