党首討論メディア論評と8月2日総選挙の争点
6月17日に行なわれた鳩山由紀夫民主党代表と麻生太郎首相とによる第2回党首討論は、総選挙に向けての争点を明確にするものだった。討論に対する国民の受け止め方はさまざまだと思うが、鳩山代表の完勝と受け止めた人が多かったと推察する。
しかし、党首討論が行なわれる時間帯が昼間であるために、多くの国民は党首討論の全体を見ることができない。わずか45分間の討論であるのだから、NHKは夜の時間帯に、党首討論を再放送するべきだ。
インターネットを利用する国民は、動画を見ることができるが、まだその比率は大きくない。総選挙を控え、国民が自分の目で党首討論を見て判断することが大切である。
党首討論では、①日本郵政西川社長続投問題、②社会保障政策の位置づけ、③財源問題が主要テーマになった。麻生首相は残り1分の時点で安全保障問題を持ち出したが、論議する時間はなく失笑を買った。
党首討論に対するメディア各社の反応はまちまちである。各社論説記事等の見出しを以下に列挙する。
共同:2度目の党首討論、焦る首相 鳩山氏「無駄削減で10兆」
FNN:鳩山代表が日本郵政・西川社長の更迭求めるも、麻生首相は介入に慎重姿勢
日本郵政西川社長続投問題については、論評が分かれた。
読売が「首相の「郵政」弁明は苦しい」としたのに対し、
朝日、日経、FNNが、「解任」や「介入」の用語を見出しに使い、「強権発動」のニュアンスを強調した。産経も、本文で続投支持の主張を全面展開した。
本ブログで指摘してきたように、朝日、日経、産経が、日本郵政西川社長続投を強く支持している。これらメディアは、小泉-中川(秀)-竹中-菅(すが)-石原各氏による「郵政××化ペンタゴン」と連携している姿が鮮明である。
この問題で、唯一正論を示したのが読売である。読売は次の指摘を示す。
「鳩山代表は、「民主党が政権を取れば社長を交代させる」と断言し、首相に社長更迭を迫った。
これに対する首相の弁明は、いかにも苦しいものだった。
「民間に対する政府の人事介入は慎重であるべきだ」と従来の見解を繰り返し、前総務相だけを更迭したのも、首相の人事権が及ぶのは閣僚で、日本郵政には直接及ばないから、と説明した。
日本郵政は、政府が全株式を保有する「国有企業」である。法律にも人事の認可権を総務相が持つと明記されている。
業務改善命令に対する対応が不十分なら、認可しなければよい。それは「介入」どころか、行政の「責務」であろう。首相は西川社長の経営責任に明確なけじめをつけるべきだ。」
(ここまで転載)
本ブログの主張を書き写したかのような論評だが、正論そのものである。
完全国有会社が起こした不祥事に対して、法律で定められた権限を持つ総務大臣が権限を行使するのは「介入」でなく「責務」である。
「かんぽの宿」疑惑で表面化している問題は、固定資産税評価額857億円、時価評価が1000億円近辺の国民財産を、小泉改革近親者に109億円の安値で横流ししようとした疑惑なのだ。数百億円単位の利益供与未遂事件に発展する可能性を秘めている。
現在はまだ「事件」でなく、「不祥事」の段階だが、日本郵政の売却先決定プロセスは不透明極まりなく、「限りなく黒に近いグレー」が現状である。「グレー」である責任は日本郵政サイドにあり、西川社長が責任を問われる合理的な理由が存在する。
この問題について、産経新聞は以下のように記述する。
「ここで鳩山氏は「私どもが政権を取ったら日本郵政の西川さんにお辞めいただくしかない」と明言してみせたが、首相はこれを逆手に取った。
「民間会社の人事を世論で決めるのか。うかつにやるべきでない」
これこそが問題の本質といえよう。確かにかんぽの宿譲渡問題は不透明な部分が多く、西川氏は説明責任を怠ってきた。首相も「西川氏の行状」という表現を使い、西川氏への不満をにじませた。
だが、世論を背景に政治が人事介入を繰り返せば、民営化する意味はない。何より自民党は、民営化の是非を問うた先の衆院選を否定することになる。「正義」を振りかざし、西川氏に辞任を迫る邦夫氏を更迭した理由はここにある。」
(ここまで転載)
産経新聞は、日本郵政の株式100%を政府が保有する「完全国有会社」であることをまったく押さえていない。「完全国有会社」の財産処分は、国民財産の処分の意味を持つ。国民の利益を守るには、売却が適正に行なわれることが不可欠で、この売却に不正があったとの疑惑があれば、監督官庁が厳しい姿勢を取るのは当然である。「介入」でなく「責務」なのだ。
GMが破綻して株式の過半を政府が保有したとする。このとき、GMの経営委員会が政府の意向を無視して新しい役員人事を決めたとする。政府が、人事案は政府の意向を反映していないとして人事案に反対するとき、産経新聞は米国政府の対応を「不当な介入」として批判するのか。
発行部数が激減しているとはいえ、いやしくも全国紙の一角を占める新聞である。このような稚拙な論議を振りかざすのでは、ますます読者が減ってしまうと、部外者ながら甚だ心配になる。
同じフジサンケイグループに属するFNNも同様の論調を示す。
朝日、日経、産経の主張が「郵政民営化」についての考え方を歪めている。この歪み方は、上述した「郵政××化ペンタゴン」の歪んだ主張と軌を一にしている。
郵政民営化が特定の人々、あるいは米国資本に利益を供与することを目的に推進されてはならないのだ。幸い、現段階では株式の100%を政府が保有しているから、政府に強い監督、あるいは認可権限があり、日本郵政の暴走を抑制する法体系が存在している。
鳩山前総務相の行動は、法律に基づいて「郵政私物化」や「郵政米営化」を遮断しようとするものであったが、それでも「郵政××化勢力」は、力づくで、間違った行動をごり押ししようとしている。
複数の大手メディアが汚染されていることも由々しき事態である。
歪んだ考え方を代表するのが民営化について竹中氏が著書に記した以下の言葉である。
「辞書によると、民営化とは、「民間の経営に任せること」とある。文字通り郵政民営化とは、郵政の経営を民間に任せることであり、政府はそれが可能なように、また効率的に行われるように枠組みを作ることである。これで、西川氏に、経営のすべて、民営化のすべてが委ねられることになった。」
(「構造改革の真実」239ページ)
竹中氏は、日本郵政株式会社が発足した時点で、日本郵政を西川社長のやりたい放題にして構わないとの根本的に誤った考えを持った。この根本的に誤った考え方が「かんぽの宿問題」を引き起こした最大の背景であると考えられる。
この考え方が「完全に誤っている」ことを明確にしておかなければならない。鳩山民主党代表には、党首討論でこの点を明確に指摘してもらいたかった。
メディアの論評で客観性を有していると評価できるのは、中日、共同、時事の三社である。「気迫を欠く」とした毎日の論評には首をかしげる。気迫は十分にこもっていたと感じられた。
麻生首相は支持率急落に見舞われ、党首討論での態勢挽回を狙ったが、失敗に終わった。中日、共同、時事の三社は、この点についての客観的評価を記述している。
私は次期総選挙の争点が以下の五点になると記述してきた。
①企業献金全面禁止
②「天下り」、「渡り」全面禁止
③世襲立候補制限
④消費税大増税阻止
⑤人間尊重の政治
6月17日の党首討論で、④と⑤の争点が明確になった。
麻生首相は、「消費税大増税を主張するのが政権担当能力の証し」だと主張する。
これに対して鳩山代表は、「政府の無駄を徹底的に排除するために消費税大増税を封印する」ことが、政権与党が優先するべき責務だと主張した。
私は後者の主張を支持する。有権者はどちらの考え方を支持するかを考えて総選挙に臨むことになる。
鳩山民主党代表が生活保護母子加算切り捨てに伴う弊害を、実例をまじえて説明したことについて、河村官房長官が、
「お涙ちょうだいの議論をやるゆとりはないのではないか」
と批判した。これが、文部科学大臣を経験した者の発言か。唖然とする。
アニメの殿堂117億円は文部科学省予算だが、こんなものに巨大なお金を注ぐより、国民の生活にお金を回すべきだと多くの国民が考えたはずだ。鳩山代表の説明は非常に分かりやすかったと多くの国民が感じていると思う。
官房長官のこうした一言が、麻生内閣の支持率をさらに下落させることに寄与するのだ。
企業献金全面禁止、天下り根絶、世襲制限についても、与野党の政策の違いが明確になっている。いつ総選挙があっても問題はない。
6月26日に補正予算関連法案の処理が終結する見込みだ。その後、6月末から7月初めに衆議院を解散しない限り、麻生首相は自分の手で総選挙に臨むことができなくなるだろう。麻生おろしが本格化することは間違いない。
自民党議員は抵抗を示すが、麻生首相は総選挙を前に身を引くことを選択せず、8月2日総選挙に進むと考えられる。決戦の総選挙が目前に迫っている。
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知られざる真実―勾留地にて― 著者:植草 一秀 |
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