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2009年6月11日 (木)

読売社説 民主「西松」報告批判は的外れだ

 西松建設違法献金事件に関連して民主党が設置した有識者会議「政治資金問題をめぐる政治・検察・報道のあり方に関する第三者委員会」(座長・飯尾潤政策研究大学院大教授)が6月10日、報告書を岡田克也幹事長に提出した。

報告者は、

①事件の概要と法律解釈上の問題点、

②検察当局の対応の問題点、

③メディア報道の問題点、

④民主党の対応の問題点、

について詳細な分析を示したうえで、

⑤関係者からのヒアリング等の内容、

をも開示する、極めて有用性の高いものである。

短期日にこのような詳細な分析を行い、分かりやすい形で報告書をまとめられた関係者の尽力に敬意を表したい。

報告書は今回摘発された事例について、綿密な法律解釈を施しており、今後の公判において争点になると考えられる問題について、適切な判断の視点を提示している。

報告書が提起した多くの論点のなかから、重要と考えられる五つの点を以下に提示したい。

罪刑法定主義との関連

今回の事案では、政治資金規正法違反を理由として刑罰権が発動されている。罪刑法定主義の大原則に立つなら、犯罪構成要件としての法令の解釈・罰則適用基準について事前に明確な定めが示されることが不可欠である。

ところが、報告書によれば、
「同法の解釈をめぐって、総務省は刑罰の問題であるとして具体的な解釈指針を示さず、他方で法務省は法律の所管官庁でないとして解釈基準を示そうとせず、両省の間で責任の押し付け合いともいえる状況が生じている」のである。

すなわち、会計責任者があらかじめどのように記載すればよいかが不明確な状況が放置されていたなかで、後から記載が法律に違反するとして処罰されるというようなことが生じているのである。

公職選挙法の「虚偽記載」の事例でも同様の問題が生じているが、法令全般、とりわけ刑罰を伴う法令においては、事前に犯罪構成要件としての法令の解釈と罰則適用基準が厳密に明示されていることが不可欠である。罪刑法定主義は「法の支配」を実現するうえで不可欠な事項である。しかし、今回の問題では、この点が曖昧極まりなく、事後的にも総務省、法務省当局が明確な見解を表明できない事態が生じている。

マスメディアは小沢一郎民主党前代表の「説明責任」を追及するが、小沢氏の説明が困難であることの最大の理由が、法令解釈の不透明性にある。この点については後述する。

②検察当局の行動に関する問題

 報告書は政治資金規正法の関連条文について詳細な分析を施したうえで、今回の検察当局の行動を厳しく批判している。詳細は報告書の本文を閲覧いただくしかないが、政治資金規正法の考え方を踏まえたうえで、違法行為について詳細な論点を提示している。

そのうえで、検察捜査が及ぼす影響を踏まえたうえで、今回の検察当局の行動の不当性を厳しく指摘している。世論は自民党議員に捜査が波及していないことに対する疑義を提示してきたが、この点についても、検察当局の行動の不当性が厳しく指摘されている。

③民主党の行動に対する建設的な提言

小沢前代表を含めて、民主党幹部が検察による摘発が行なわれた当初に、検察当局の行動に厳しい批判を示したことについて、報告書は一定の積極的評価を示した。報告書は次の指摘を示した。

「民主的正当性を持たない検察の不当・違法な捜査権限の行使による政治介入が行われ得ること、それが、とりわけ時の政府に都合の良い形で行使される傾向があることは、第3 章の31.で述べたとおりであり、そのような権限行使が行われたた疑いがあるのであれば、民主主義を担う政党として、憲法及び法令によって認められた手段を駆使して、検察の不当な政治介入に対して毅然たる姿勢を示すことも重要である」

適正な指摘である。この点に関連して言えば、民主党の岡田克也氏や前原誠司氏が示した事件発生当初の対応は、極めて不適切であった。検察の不当な政治介入が存在し得る可能性を考慮せず、両氏をはじめとする一部の民主党議員が検察捜査に対して毅然とした姿勢を結束して示さなかったことが、のちに民主党代表辞任という事態にまで問題を波及させてしまった大きな原因になったと考えられる。

岡田氏は報告書の提出を受けた際のインタビューでも、「党としての検察批判は避けたい」との発言を繰り返したが、不適切な対応を繰り返している。岡田氏は報告書を熟読して、相手が検察であろうとも毅然とした姿勢を示さねばならない局面があることを正しく理解するべきである。

報告書は検察に対する毅然とした対応に積極的評価を与えているが、同時に、いざ問題が発生した場合に、政党が問題を真摯(しんし)に受け止めることの重要性、およびその影響を政党として最小限に食い止めるための具体的な対応の方法についても、きめ細かい提言を示している。

小沢代表の説明が不足した大きな理由に、上述した「法令解釈の曖昧さ」の問題があり、この点に対する理解は不可欠であるが、それでも、報告書が指摘するような問題が存在したことを否定できない。

民主党は今回の報告書を詳細に検討したうえで、報告書が示す建設的な提言を可能な限り生かしてゆくべきだ。報告書が建設的な視点で、具体的提言を示したことは高く評価される。

NHK報道の重大な問題の指摘

報告書は3月25日午前零時のNHK報道の悪質さを厳しく糾弾した。この報道については、私も放送を聞いた瞬間にその悪質性に気付き、ブログ記事を執筆したが、この問題について、適切な対応を求める重要性が高い。

⑤メディア報道全般の問題

報告書はNHK報道にとどまらず、メディア報道全般についての問題点を厳しく糾弾している。過大・歪曲報道、検察リーク報道、などの重要な問題を的確に指摘している。各報道機関は報告書が示した的確な指摘に謙虚に耳を傾けて、報道姿勢の適正化に取り組む必要がある。

しかし、現在のマスメディア報道の問題は、大半のマスメディアが権力に迎合し、報道機関としての本来の役割を放棄してしまっていることに原因があると考えられ、短期にその改善を見込める状況にない。政権交代後に、報道の実態について本格的検証を行ったうえで、抜本的対応を施すことが不可欠である。

このような質の高い報告書が提出されたにもかかわらず、一部の報道機関が的外れな論評を掲載した。その典型的事例が読売新聞社説である。読売社説は以下の記述を示した。

「民主「西松」報告 検察・報道批判は的はずれだ」
「的はずれもいいところだ。小沢氏に持たれた疑惑の核心部分はもっと別のところにある。

 秘書が西松建設幹部と相談し、ダミーの政治団体からの献金額や割り振り先を決めていたとして、検察当局は悪質な献金元隠しと認定した。小沢氏はこれまで、「献金の出所は知る術(すべ)もないし、詮索(せんさく)することはない」「秘書に任せていた」などと繰り返してきた。

 だが、同様に献金を受けた他の与野党議員と比べても巨額だ。出所や趣旨を吟味するのは、政治家として当然の責任だろう。

 小沢氏は今なお、疑惑に正面から答えようとしていない。代表辞任で、国民が求める説明責任を免れることはできない。」

 メディアは、小沢氏が献金の出所を知らなかったと説明したことに対して、鬼の首を取ったかのように執拗に攻撃を続けてきた。攻撃する部分が極めて少ないために、一般的に疑問と感じられる点を針小棒大に取り上げて「説明責任」の言葉を繰り返している。

 それほど「説明責任」を重視するなら、「検察の説明責任」、「西川善文日本郵政社長の説明責任」も同様に追及するべきだろう。マスメディアの小沢氏批判は「あげ足取り」の域を出ない。

 小沢氏の説明が不足する要因のひとつに、先述した「犯罪構成要件としての法令の解釈・罰則適用基準」の曖昧さの問題がある。

報告書は、政治資金規正法が収支報告書に「寄付行為者」の記載を義務付けており、「資金拠出者」の記載を求めていないと指摘する。小沢前代表の秘書が「新政治問題研究会」「未来産業研究会」という二つの政治団体からの献金を「新政治問題研究会」「未来産業研究会」からの献金と記載した行為は虚偽記載にあたらないと指摘する。

この記載が「虚偽記載」に該当するには、「新政治問題研究会」「未来産業研究会」という二つの政治団体が、資金の拠出者から政治団体に金銭や利益を供与するための単なる「トンネル」のような実体のない団体であることが立証される必要があるが、報告書は、
「西松建設が2009 5 15 日に公表した内部調査委員会による調査報告書に記載された政治団体の実態によれば、二つの政治団体を単なる「トンネル」のような実体のない団体とは認め難い」
と指摘する。

この指摘が正しければ、小沢氏の秘書が仮に「資金拠出者」が西松建設であると認識していたとしても、「虚偽記載」で罪を問われることはないということになる。

ところが、検察当局の行動をみると、検察当局は小沢氏の秘書が、資金拠出者が西松建設であることを認識していたかどうかを問題とし、西松建設であると認識していた場合には、政治資金規正法が認めていない企業から政治家個人の資金管理団体への献金を隠ぺいするために「工作」をしたことになるとして摘発しようとしているように見える。

ただ、この点についても報告書は、現在の政治資金規正法は企業から政党支部への企業献金を容認しており、小沢氏サイドは西松建設からの献金を政党支部で受け入れることが可能だったのであり、問題に重大性はないと結論している。

話がやや込み入ったが、問題の根源は、政治資金規正法の運用における、「犯罪構成要件としての法令の解釈・罰則適用基準」の曖昧さにある。この点が明確でなければ、小沢氏はうっかり発言を示すことができない。

読売新聞の社説は検察の説明にそのまま乗ったものであるが、検察の評価基準が客観的で適正な評価基準である保証はどこにもない。現行法規では、企業から政党支部への献金が認められており、現に自民党議員の多数が政党支部で受け入れた企業献金を個人の資金管理団体に移し替える「迂回献金」を実行している。

この意味では、小沢氏の資金管理団体が西松建設からの企業献金を受け入れていたとしても、「悪質な献金元隠し」などの批判はあたらない。政治献金を西松建設から政党支部への献金に修正報告すれば済むようなことである。

読売社説は検察の主張をそのままなぞらえただけのものである。問題の根源に、「罪刑法定主義」の大原則からはずれる、法令解釈や罰則適用基準の不明確さがあることを忘れてならない。

いずれにせよ、西松建設の献金をめぐる小沢前代表秘書の逮捕、起訴問題は、本来、犯罪に該当するようなものでなく、仮に犯罪性が指摘されたとしても、形式的で軽微な問題であることが改めて明確にされたと判断できる。

このような軽微な問題が、政治的な背景を伴って政治情勢に重大な影響をあたえる事案として取り扱われたことの問題がはるかに重要だ。

報告書は多くの重要な問題を提起しており、この報告書を最大限に活用することが求められる。

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