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2009年6月14日 (日)

鳩山総務相更迭問題を逃げたテレ朝サンプロ

鳩山邦夫総務大臣を麻生首相が事実上罷免(ひめん)した。

麻生首相の言葉。

「郵政事業っていうのは国民の財産だと思っています。その郵政事業に関して政府と郵政会社との間に混乱を生じたような印象を与えたということは、はなはだ遺憾なことなんであって、この状況は早急に解決されてしかるべきだ。基本的にそう思って判断させてもらいました。」

辞表を提出した鳩山邦夫総務相は次のように述べた。

「世の中、正しいことが通らないときがある。

私は自分が正しい人間とは思わないが、汚れたことをやる人間は許せない。それを許しては政治にならないというのが私の信念だ。」

麻生首相は西川社長が鳩山総務相に謝罪をするとの妥協案を提示した。この妥協案についての鳩山氏の発言。

「西川さんが謝罪すべきは国民に対してであって私にではない。国民の財産をかすめとろうとしたのに加わった。国民に謝るべきであって、私に謝ってどうするというものではない。一切拒否した。そんなばかな妥協案はない。」

最後に鳩山総務相は西郷隆盛の言葉を引いた。

「政府に尋問の筋これあり」という西郷隆盛さんの有名な言葉があるが、そういう心境だ。」

今回の問題についての法律の規定と「かんぽの宿」疑惑の概要については6月13日付記事
「テレ朝報道ステーションの救いようのない欺瞞」
に詳しく書いた。

麻生首相は5月21日の衆議院予算員会で次の発言を繰り返した。

「この問題については所管大臣である鳩山総務大臣がしかるべく判断されると思います。」

所管大臣の鳩山総務相の判断に委ねることを明言していた。麻生首相は2月の段階で、後任人事案を含めて西川氏の更迭方針を鳩山氏に示していたと伝えられている。

混乱を招いたのは麻生首相であって鳩山総務相でない。麻生首相はいつも責任を他人に転嫁する。「さもしさ」が麻生首相の特徴だ。

麻生首相が「ぶれ」た。いつも首相の「ぶれ」を追及するマスメディアが今回は麻生首相の「ぶれ」を追及しない。西川社長続投の方向に大きな力が働いているのが分かる。

改めてはっきりさせておかねばならないことがある。

第一は、日本郵政が100%政府出資の完全国有会社であること。「民営化」が実施されて経営形態が株式会社になった。しかし、企業の所有者は日本政府である。「完全国有会社」であるということは、「国民が株主である」ということだ。

西川社長続投論を唱える勢力は、「民間会社の人事に政府が介入することは好ましくない」と主張するが、法治国家の根本をないがしろにしている。

日本郵政株式会社法は総務大臣に強い権限を付与している。日本郵政の取締役人事は総務大臣の認可がなければ効力を生じない。

日本郵政株式会社法第9条の条文は以下の通り

(取締役等の選任等の決議)

第九条  会社の取締役の選任及び解任並びに監査役の選任及び解任の決議は、総務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。

 中川秀直氏、竹中平蔵氏、菅義偉(すがよしひで)氏、さらに裏にいる小泉純一郎氏などの主張は法的な正統性を持たない。これらの人々は、2005年9月の郵政民営化選挙で自民党が大勝したのだから、日本郵政人事は当時の郵政民営化推進勢力の言うままにしなければならないと主張している。

 この主張をごり押しするなら、上記条文を次のように改めるべきだ。

(取締役等の選任等の決議)

第九条  会社の取締役の選任及び解任並びに監査役の選任及び解任の決議は、小泉純一郎、中川秀直、竹中平蔵、菅義偉、石原伸晃の認可を受けなければ、その効力を生じない。 

 「かんぽの宿」疑惑は、2400億円の費用を投じ、固定資産税評価基準856億円の国民資産を109億円という破格の安値で、競争入札を偽装して、「オリックス不動産」に横流ししようとした、との疑惑である。

巨大な経済犯罪の疑惑が濃厚に存在している。

また、カードビジネスや資金運用の委託等において三井住友グループ企業が優遇されているとの疑惑も存在している。

日本郵政株式会社は340兆円もの国民資産を預かる、日本最大の企業であり、その運用において不正がまかり通ることは絶対に許されない。

巨大な経済犯罪の疑いが生じている責任は明らかに日本郵政サイドにある。しかも、「かんぽの宿」案件は西川社長直結のチームが担当したものである。これだけの要件が整えば、西川社長の続投を容認できる余地はない。

この意味で、「正しいことが通らない。国民の財産をかすめとろうとしたのに加わった、汚れたことをやる人間は許せない」との鳩山総務相の発言は正論そのものである。

それでは、なぜ、正統性のない西川社長続投論がまかり通ってしまったのか。

直接的な理由は、小泉純一郎氏-竹中平蔵氏-中川秀直氏-菅義偉氏の「郵政民営化推進勢力」が麻生政権に脅しをかけて、巻き返しをはかったことだ。

麻生首相は、「西川社長続投を受け入れれば、麻生おろしを行なわない」との条件を提示されたと考えられる。しかし、都議選で自民党が敗北すれば、約束は反故にされる。麻生おろしを確実に避けるには、麻生首相は6月末解散8月2日総選挙を選ぶしか道はない。

「郵政民営化推進勢力」は内容を正確に表現すれば「郵政私物化勢力」、「郵政米営化勢力」と呼ぶことができるだろう。

この勢力は、2007年10月1日に日本郵政株式会社が発足した時点で、日本郵政を好き放題にできると勘違いした。実際に好き放題をしてきたと考えられる。

ところが、そのなかから「かんぽの宿」疑惑が表面化してしまった。西川社長が更迭されれば、悪事の数々が露見してしまう。この事態を絶対に避けなければならない。これが、横車(よこぐるま)の理由だと考えられる。

西川社長はパンドラの箱の蓋(ふた)である。西川社長が更迭されれば、パンドラの箱からすべてが噴出する。

麻生首相が脅しに屈してしまったため、パンドラの蓋の撤去は政権交代後に先送りされることになった。

「神州の泉」主宰者である高橋博彦氏による6月12日付記事
「西川氏続投は、ゴールドマン・サックスの郵政資金収奪プロジェクトの中心にある!!」
に問題の本質の一端が示されている。

2002年12月11日、ゴールドマン・サックスのCEOヘンリー・ポールソン氏、COOジョン・セイン氏、三井住友頭取西川善文氏、金融相竹中平蔵氏が東京で密会した。

この後、ゴールドマン・サックスから三井住友銀行に対して、2003年1月に1500億円の普通株への転換権付き優先株出資、2月に3500億円の優先株出資が行なわれた。

ゴールドマン・サックスの1500億円優先株には4.5%の配当利回りが付与された。当時、みずほ銀行が実施した優先株資金調達での配当利回りは2%であったから、4.5%の利回り付与は法外なものだった。

三井住友銀行がなぜ、このような国辱的な条件を付与するのか、金融市場ではさまざまな憶測が飛び交った。

仮の話であるが、竹中金融相が三井住友を破綻させないことを保証していたとすれば、大筋の説明を付けることができる。

①三井住友は高いコストを払うが、銀行存続の確約を手に入れる

②ゴールドマンは三井住友の破たん回避を保証されるとともに、法外に高い利回りを確保する。

③竹中平蔵氏は両者から「感謝」される。

これを「三方一両得」と言う。

「郵政民営化」は、「ゴールドマン-竹中氏-西川善文氏-三井住友」の図式の中で推進されているプロジェクトと見るべきだろう。

これらの勢力にとって、悪事を露見させないことは重要だが、重要な目標はそれだけではない。

「ゆうちょ銀行」、「かんぽ生命」の全株式を市場に放出させ、その株式の51%を取得すれば、280兆円の日本郵政資金を収奪することができる。

また、日本郵政株式を51%取得すれば、簿価で2.6兆円の日本郵政保有不動産を獲得できる。

郵便事業会社と郵便局会社を分けているのは、収益性の低い郵便事業を多数の人員とともに日本郵政から切り離し、純然たる不動産会社を収奪するための手段であると考えられる。

6月14日のテレビ朝日「サンデープロジェクト」は日本郵政問題を取り扱わなかった。詳細を深く掘り下げれば、西川社長続投論がいかに不正と欺瞞に満ちたものであるかが明らかになるからだろう。

鳩山総務相は問題をここまで拡大させた責任を負っている。大臣を辞任して、「はいこれまで」との対応を示すなら、鳩山総務相に対する評価は急落する。意味のないパフォーマンスを演じたことになる。

日本郵政の本当の意味での株主である国民は、「郵政私物化勢力」=「郵政米営化勢力」の暴挙をこのまま許してはならない。

麻生首相が市場原理主義勢力=郵政私物化勢力に魂を売ったことで、次期総選挙の争点に、新たに「小泉改革の是非を問う」ことが浮上することになった。

「正義」が「悪魔」に屈してはならない。

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