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2009年6月 6日 (土)

西川社長続投誘導は麻生首相おろしの策略か

三つの素朴な疑問。

その一。日本郵政西川善文社長更迭(こうてつ)問題。これまでの経緯、法律、意志決定の正当な手順を踏まえれば、西川社長更迭以外に選択肢はない。はっきりしている話が複雑に見えているのは、西川社長が更迭されると困る市場原理主義勢力=売国勢力と連携する御用メディアの偏向報道の影響による。

その二。世論調査が行われないこと。5月27日に半年ぶりに党首討論が実現した。小沢代表秘書逮捕以降、頼まれもしないのに執拗に世論調査を実施してきたマスメディアが、なぜか、突然世論調査をやめてしまった。

日本郵政西川社長更迭問題こそ、世論調査の格好のテーマである。日本郵政は国民の貴重な財産である。日本郵政が保有する資産は国民の貴重な財産だ。その財産を不正に横流ししようとした「悪事」が白日(はくじつ)の下(もと)に晒(さら)されたのである。日本郵政の株式を100%政府が保有するのだから、その人事について、国民の意向を問うのは当然だろう。

民主党の党首が辞任すべきかどうかよりも、はるかに国民の利益に直結し、国民が権利を有することがらだ。

その三。足利事件の冤罪被害者である菅谷利和さんが明らかにした、自白を強要する警察の不当な取り調べを是正するために、取り調べの全面可視化が不可欠であることが明白であるのに、自民党が反対姿勢を変えないこと。

まず、日本郵政西川社長更迭問題だが、問題処理は法律に基づいて行なうべきだ。日本郵政株式会社法第九条は以下の通り。

「会社の取締役の選任及び解任並びに監査役の選任及び解任の決議は、総務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。」

日本郵政の取締役人事について、最終的な権限は総務大臣に付与されている。財務大臣に権限はない。この点は6月4日付記事
「日テレNEWSZERO西川社長関連偏向報道」
に詳しく記述した。

この法律は2005年10月21日に成立した。2005年9月11日の郵政民営化選挙で自民党が大勝し、この選挙結果を受けて成立した法律である。

その法律が、日本郵政の取締役選任について総務大臣の認可権を明記しているのだ。

麻生首相は5月21日の衆議院予算委員会審議で、
「この問題については、所管大臣である総務大臣がしかるべく判断される」
と繰り返し明言した。

その鳩山総務相は、日本郵政が「かんぽの宿」問題で、国民の信用を大きく損ねたことを重視して、西川社長の続投を認めない方針を示した。国民の大半が同意できる理由で、法律の規定に基づいて、総務相の権限を行使しようとしている。

最終判断を下す立場の首相は、国会答弁で「総務相がしかるべく判断する」と明言してきたのだから、もはや、異論をさしはさむ余地はない。麻生首相は「ぶれる」ことなく、西川氏更迭の鳩山総務相の判断を尊重して、最終判断を示すべきだ。

歪みきった発言を示したのが中川秀直元幹事長である。

「鳩山さんが信念を持って主張されるのなら仕方がない。堂々と内閣から去るべきだ」

どのような思考回路から、この判断が出てくるのか。首をかしげざるをえない。

鳩山総務相の発言は法と正義に基づいている。日本郵政株式会社法は、法案がいったん参議院で否決された後、衆議院を解散して多数の議席を確保するという強引な手法を用いて、小泉氏、竹中氏、中川氏などが成立させたものである。その法律の規定に基づいて、鳩山総務相が西川氏の退任を求めているのである。法律を制定した一員として、法律の条文を尊重すべきである。

中川氏らが成立させた法律に沿って行動する鳩山総務相の行動が気に入らないなら、去るべきは中川秀直氏である。自民党から離党して新党でも何でも作ればよいのではないか。

中川秀直氏と石原伸晃氏は、日本郵政を「民間会社」だとして、「民間会社」の人事に総務相が介入するのはおかしいと異を唱えている。中川氏と石原氏の発言の誤りについては、6月4日付記事
「日本郵政は誰のものか中川()氏石原氏の誤り」
に記述した。

日本郵政は経営形態が株式会社になったが、「民間会社」ではない。100%日本政府が出資する「完全国有会社」である。

日本郵政の指名委員会が取締役全員の再任を決めたと言うが、指名委員会のメンバーが誰であるのかを見れば、そこに正統性がないことは明白である。

日本郵政株式会社には西川社長を含めて9名の取締役がいる。9名の取締役は以下の通り。

代表取締役 西川 善文(にしかわ よしふみ)

代表取締役 高木 祥吉(たかぎ しょうきち)

社外取締役 牛尾 治朗(うしお じろう)
ウシオ電機株式会社代表取締役会長

社外取締役 奥田 碩(おくだ ひろし)
トヨタ自動車株式会社取締役相談役

社外取締役 西岡 喬(にしおか たかし)
三菱重工業株式会社相談役

社外取締役 丹羽 宇一郎(にわ ういちろう)
伊藤忠商事株式会社取締役会長

社外取締役 奥谷 禮子(おくたに れいこ)
株式会社ザ・アール代表取締役社長

社外取締役 高橋 瞳(たかはし ひとみ)
青南監査法人代表社員

社外取締役 下河邉 和彦(しもこうべ かずひこ)
弁護士

一方、取締役を選任する「指名委員会」は西川氏を含む5名によって構成されている。その顔ぶれは以下の通り。

委員長 牛尾 治朗(うしお じろう)

委員  西川 善文(にしかわ よしふみ)

委員  高木 祥吉(たかぎ しょうきち)

委員  奥田 碩(おくだ ひろし)

委員  丹羽 宇一郎(にわ ういちろう)

指名委員会委員の全員が日本郵政の取締役である。この5名からなる指名委員会が、自分たち5名を含む日本郵政取締役9名全員の再任を決めたのだ。「お手盛り人事」そのものである。

そもそも、どのように日本郵政取締役が決められたのかが問題である。日本郵政取締役決定に国会の意向は反映されていない。竹中平蔵氏が西川善文氏を起用し、西川氏と特定の政治家によって役員が決定された。

このなかには、経済同友会人脈で宮内義彦氏と関わりの深い奥谷禮子氏が名前を連ねているが、奥谷氏が代表を務める企業は、日本郵政公社から7億円もの業務発注を受けたことが明らかにされている。

取締役のなかに、日本郵政プロパー職員が一人も入っていないことも異常であるし、郵政利用者や特定郵便局の意向を反映する人も一人も入っていない。

株式会社形態に移行した日本郵政は、西川社長のやりたい放題にして構わない。政府が口を差し挟むのは根本的に間違っている。と主張するのは竹中平蔵氏である。中川秀直氏や石原伸晃氏の発言は、竹中氏のこの考え方と重なる。

この竹中氏の考え方が諸悪の根源である。とんでもない大間違いだ。

竹中氏の考え方を端的に示しているのが、竹中氏の著書「構造改革の真実」239ページにある次の表現だ。

「辞書によると、民営化とは、「民間の経営に任せること」とある。文字通り郵政民営化とは、郵政の経営を民間に任せることであり、政府はそれが可能なように、また効率的に行われるように枠組みを作ることである。これで、西川氏に、経営のすべて、民営化のすべてが委ねられることになった。」

 
 「これで」とあるのは、日本郵政の社長に西川氏が内定したことを示している。この言葉は、2005年11月に西川氏起用を決めた時点での竹中氏の判断を示している。

 竹中氏、西川氏をはじめとする郵政民営化推進者たちは、この時点から、大きな勘違いをして、日本郵政を根元から歪めてしまったのだ。これらの勢力を「郵政私物化勢力」と言わざるを得ない。

 彼らは、日本郵政を自分たちのために、好き放題にできると勘違いしたのだ。その結果生まれた行動の氷山の一角が「かんぽの宿疑惑」だった。特定の者に、国民の貴重な財産を不当な安値で払い下げようとしていたことが発覚してしまった。

 竹中氏の感覚が正常と考えられないのは、問題が発覚したのちでさえ、「総務相が口を差し挟むのは根本的に誤っている」と公言してはばからないことだ。

 日本郵政は西川氏や竹中氏、宮内義彦氏などの個人の所有物ではないのだ。100%国有の資産なのだ。したがって、国会や監督官庁、あるいは所管大臣が、厳しく目を光らせて監視し、おかしなことがあれば全面的に介入するのは当然のことなのである。竹中氏が作った法律にその定めが明記されていることを竹中氏は理解できないのだろうか。

 参議院総務委員会は6月9日午後に、日本郵政に関する問題について、集中審議を行なうことを決めた。西川社長も参考人として招致される。竹中平蔵氏は国会による参考人出頭要請から逃げ回っているが、竹中氏が出頭を拒否し続けるなら、国会は竹中平蔵氏の証人喚問を検討するべきだ。

 竹中平蔵氏や菅義偉(すがよしひで)元総務相などが総務相を務めている時代であれば、「郵政私物化」を着々と進展させることも可能だっただろう。日本郵政を監督する立場にある人間が、同じ仲間であれば、誰も気付かぬうちに私物化を進展させ、株式売却を完了させ、「完全犯罪」を成立させることができたかもしれない。

 しかし、「天網恢恢疎(てんもうかいかいそ)にして漏らさず」である。悪事がそのまま通用して良いはずがない。

 麻生首相が西川氏更迭の決断を下せば、麻生内閣の支持率は多少なりとも上昇するだろう。次期総選挙での野党勝利と本格的政権交代実現を強く希望する私としては、この事態を進んでは望まない。しかし、不正義がまかり通ることは許さることでない。麻生首相は正しく決断するべきだ。

 麻生首相が西川氏を更迭しても、市場原理主義者=郵政私物化勢力は、補正関連法案の衆院再可決に反対できない。反対して関連法案が成立しなければ、自民党が全体として壊滅的な打撃を受けるだけだからだ。

 世論調査の大好きなマスメディアは直ちに世論調査を行なうべきだ。回答者への説明、質問の仕方によって回答を誘導できるから、一概に正しい調査結果が得られるとは限らないか、適切な説明をしたうえで調査すれば、圧倒的多数が鳩山総務相の判断を支持するはずである。

 鳩山総務相は「続投を認めないし、辞任もしない」と明言している。

ボールは完全に麻生首相の手の中にある。その麻生首相は、5月21日の国会答弁で、「所管大臣の総務大臣がしかるべく判断される」と明言しているのだ。鳩山総務相が「しかるべく判断した」のだから、その判断を尊重すればよい。

この期(ご)に及んで麻生首相が、手の平を返して西川氏続投を決めるなら、国民からの麻生首相批判が噴出するだろう。麻生首相は月末までに鳩山総務相を罷免(ひめん)しなければならない。世論は反発するだろう。

「市場原理主義勢力」=「郵政私物化勢力」=「売国勢力」は、西川社長続投で麻生内閣の支持率が急落することを狙っているのかも知れない。麻生首相の支持率低下を理由に、自民党総裁選前倒しを要求し、自民党総裁の顔を変えて総選挙に臨もうとしているのではないか。

他方、鳩山総務相は麻生首相が最終的に西川社長更迭を決定することによる麻生内閣支持率の引き上げを狙っているのかも知れない。ひょっとすると麻生首相と「出来レース」を演じていることも考え得る。

いずれにせよ、西川社長続投を支える正統性のある論理は存在しない。鳩山総務相の発言が正論である。日本郵政幹部を刷新し、日本郵政の大掃除をしなければならない。日本郵政の株式が1株たりとも売却されていなかったことは幸いである。

また、後任社長に旧郵政官僚が就任することがおかしいとの主張が目につくが、これもおかしな話である。郵政省、総務省からの「天下り」ならば問題だが、旧郵政省が独立して日本郵政公社、日本郵政になったのであり、旧郵政省職員は日本郵政のプロパー職員なのである。

すべての公的機関の幹部への人材登用は、プロパー職員からの登用を基本とするべきなのだ。民間人起用と言っても、小泉政権以降の人事の大半は、民間人が希望する公職の高い地位を、一種の利権として民間人に付与してきたものである。民間人を支配するための利益誘導の手段として公職ポストが用いられてきた。

実際に政府系機関に民間人が登用されても、その大半は「お飾り」にしか過ぎないのが現状である。「お飾り民間人」を登用するより、プロパー職員を引き上げることを基本とするべきだ。この意味で、旧郵政省職員が日本郵政社長に就任することは、おかしなことではない。日本郵政取締役に旧郵政職員が一人も含まれていないことの方がはるかに異常である。

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