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2009年6月 5日 (金)

足利事件冤罪本質はDNA精度でなく警察の体質

足利事件で菅谷利和さんが釈放される決め手になったのがDNA鑑定である。しかし、1991年に菅谷さんが逮捕される決め手になったとされているのもDNA鑑定である。

報道で伝えられる説明は次のようなものだ。

DNA鑑定の技術が急激な進歩を遂げている。1991年に菅谷さんが逮捕された時点では、DNA鑑定が導入された当初であり、DNA鑑定の精度が低かった。

精度については、いろいろな説明がなされているが、1991年当時は精度が低く、別人で一致する可能性は1000人に1・2人、あるいは185人に1人であったものが、現在は、4兆7000億人に1人の精度に進化したという。

つまり、1000人に1人の精度で菅谷さんを犯人にしてしまったが、4兆7000億人に1人の技術が確立されたから、冤罪が立証されることになったというのだ。

検察出身の土本某(ぼう)氏は、検察捜査は当時としては適切に対応したが、技術水準に問題があり、このようなことになったと説明し、当時の捜査が適正であったことを強調する。

テレビ報道でもこの説明が繰り返される。1000分の1の精度で菅谷さんが犯人とされたけれども、4兆7000億分の1の精度の技術を利用したことにより、菅谷さんのDNAが犯人のDNAとは異なることが明らかになったというのだ。

本当だろうか。テレビ報道によると、1991年当時のDNA鑑定では、菅谷さんのDNAと犯人のDNAが含まれると考えられる試料から、両者とも「18・30」型のDNAが検出されたとのことである。ところが、再鑑定の結果、菅谷さんのDNAが「18・29」型、犯人のものとされる試料から検出されたDNAが「18・24」型であることが判明したという。

問題は次の点である。仮に当時の技術が1000分の1の精度だったとしよう。そうなると、菅谷さん逮捕は「万にひとつ」ではないにしても、「千にひとつ」の確率では「間違いのない」逮捕だったということになる。ところが、結果的に「万にひとつ」の確率での間違いが生じてしまったということになる。

警察、検察が「千にひとつ」の確率で、間違いのない捜査を行ない、結果的に「万にひとつ」以上の確率が表面化して、冤罪を引き起こしてしまったのなら、警察、検察の捜査には、やむを得ない面があったと言わざるを得ないだろう。検察関係者、テレビ報道は、このストーリーを前提に説明する。

しかし、これは、実態とかけ離れているのではないか。このストーリーが成り立つ確率がゼロとは言えないが、今回の菅谷さんのように、冤罪が明らかになるようなケースは、一万分の一の確率でしか発生しないということになる。

このストーリーでないケースとは、1991年のDNA鑑定が、実は信頼に足るレベルのものではなかった、とのケースである。この疑惑が確実に存在する。

「科学的捜査」、「科学的鑑定」の言葉が使われると、それだけで「絶対的判断基準」とされてしまいがちだ。「週刊現代2009年6月13日号」に、DNA鑑定の第一人者とされる石山いくお氏のコメントが掲載されている。石山氏は、「科学警察研究所の技官は素人集団のようなもので、何回もやり直しをしなければならないような技術しか持っていなかった」と指摘する。

石山氏は当時から、「あと10年もすればDNA再鑑定の要請が山ほど起きるだろう」と言っていたそうである。これより先は、「週刊現代」本誌を読んでいただきたいが、技術的に、当時の科警研では精度の高い鑑定を行える状況が存在しなかったことが示唆されている。

「科警研はDNA鑑定のための予算を取ってしまったから是が非でも成果を出さねばならぬ状況があり」、「無理な鑑定」を行なってしまった可能性が指摘される。

つまり、今回の冤罪発生原因について、二つの仮説が存在することになる。

第一の仮説は、1000分の1の確率で被疑者を特定し、菅谷さんを逮捕したが、4兆7000億分の1の精度を持つ新技術により、当初の鑑定が間違いであることが判明した、というもの。

第二の仮説は、技術的に十分に確立されていない「DNA鑑定」を利用して、間違った結論を出してしまい、その「間違った鑑定結果」に基づいて菅谷さんを誤認逮捕し、その誤認が新しいDNA鑑定技術によって明らかになった、というものだ。

当時の鑑定試料や鑑定技術を再検証する必要があるが、後者の可能性が高いのではないだろうか。第一の仮説と第二の仮説の相違は決定的に重要である。第一の仮説通りであれば、警察・検察の責任は幾分か減殺(げんさい)されるだろうが、第二の仮説が成り立つならば、警察・検察の責任は極めて重大である。

検察・司法関係者は「自白した」ことを、逮捕、起訴、有罪確定の有力な根拠とするが、冤罪であるにもかかわらず、「自白」が存在したことが重大なのだ。無実の人間が好き好んで「自白」することはあり得ない。「自白」が本人に決定的なマイナスになることを知りながら、「自白」すろところまで、強大な力が加えられたことが推察されるのだ。このことが無理な「自白の強要」の存在を証明する何よりの証拠になる。

私が巻き込まれている冤罪事件で、弁護人が上告趣意書でも強調したが、警察当局は、繊維鑑定についても「顕微分光光度計」による鑑定により、紫外部-可視部透過プロファイル、可視部プロファイルを測定範囲とした色調の客観的評価を実現する技術を確立し、保有している。このことが警察庁科学警察研究所の教科書にも記載されている。

私の手指から採取された青色獣毛繊維は駅員が着用していた衣服の構成繊維と「極めて類似している」との鑑定結果を、繊維鑑定専門家である大学教授から提示していただいた。しかし、この繊維鑑定について、警視庁は科学捜査研究所職員による肉眼での原始的な判断しか示さず、裁判所もこの職員の証言しか証拠として採用していない。

今回の足利事件では1997年の段階で、弁護側は最新技術を用いたDNA再鑑定を求めている。この段階で、最新技術を用いた再鑑定が実施されていれば、菅谷さんの被害を、いまよりははるかに軽微に食い止めることができたはずだ。

また、殺人事件の時効まで8年程度の時間が残り、真犯人発見も可能になったかも知れない。

「無辜の不処罰」の根本原則を重視するなら、信頼に足りる最新の技術を用いて、真相解明に最善を尽くす努力が注がれるべきことは当然である。私が巻き込まれた冤罪事件では、私の無実を確実に証明する防犯カメラ映像が警察の手で闇に葬られてしまった。これでは「真相」を解明する捜査ではなく、「犯罪」を捏造(ねつぞう)する捜査になってしまう。

足利事件においても、予算を獲得できた「DNA鑑定」を「活かす」ために、犯罪を「捏造」する捜査が行われた可能性を否定できない。

テレビ番組では司会者が、あたかもこれまでずっと菅谷さんの支援者であったかのごとく、「これからの人生をぜひ楽しんで下さい」と発言するが、事件報道において、「無罪推定の原則」を踏まえず、検察リーク情報を右から左に垂れ流してきたマスメディアの報道姿勢について反省の弁を述べるのが先ではないか。

総理大臣が「法を犯したから逮捕される」と公言してはばからないこの国で、「推定無罪の原則」の重要性を説くことは難しいが、日本の風土、メディアの報道姿勢を根本から改めるとともに、警察・検察・司法の近代化をなんとしても実現しなければならないと思う。

菅谷さんはあくまでも氷山の一角である。氷山の下に隠れている多くの冤罪犠牲者の存在を忘れてはならない。冤罪が生まれる実態については拙著『知られざる真実-勾留地にて-』をご高覧賜りたい。

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