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2009年4月 6日 (月)

北朝鮮ミサイル発射とオバマ大統領CTBT推進演説

4月5日、北朝鮮が人工衛星打ち上げを名目に長距離弾道ミサイル「テポドン2」と見られる飛翔体を発射した。北朝鮮はすでに核兵器を保有し、さらに核兵器の長距離運搬手段を確保しつつあり、北朝鮮の軍事開発を抑止しようとする西側諸国の意図はことごとく踏みにじられている。

日本は北朝鮮の行動を2006年10月の国連安保理決議1718違反として、国連安保理での北朝鮮非難決議の採択を求めているが、北朝鮮は飛翔体を人工衛星と主張しており、中国、ロシアは非難決議採択に慎重な姿勢を示している。

米国のブッシュ政権は北朝鮮を「テロ支援国」と指定し、さまざまな制裁措置を実施したが、北朝鮮の孤立化が北朝鮮の軍事開発行動をかえって助長するとの見解もあり、ブッシュ政権末期に米国は北朝鮮に対する「テロ支援国」指定を解除した。

北朝鮮はさまざまな外交交渉を続けつつ、結果的に見れば、核開発、ミサイル実験停止などの国際社会からの要請をことごとく否定する行動を取り続けて現在に至っている。米国を中心とする国際社会の北朝鮮への働きかけが、結果としては完全に失敗に終ってきたことが明らかになっている。対北朝鮮外交を根本から練り直す必要が生まれている。

日本政府と日本のメディアは北朝鮮のミサイル発射を連日、大々的に喧伝(けんでん)、ならびに報道してきたが、北朝鮮に対する外交をどのように展開すべきかとの建設的な論議を深めようとするよりは、北朝鮮の軍事技術開発の現実をセンセーショナルに伝え、日本の国防増強キャンペーンが展開されている感を否めない。

内閣支持率低迷にあえぐ麻生政権は国民の目を外敵に振り向けさせ、内閣支持率上昇を目論んでいると考えられる。ところが、北朝鮮の軍事的脅威を強調し、国防体制の整備を強調する麻生政権が、北朝鮮のミサイル発射に関して、信じられない誤報を発してしまった。日本の危機管理体制の欠如を高らかに国際社会に宣伝してしまった。その責任が明確化される必要がある。

さまざまな経緯はあるにせよ、北朝鮮の軍事開発が日米の強い牽制にも関わらず、着々と進行している現実がある。北朝鮮はすでに核実験に成功し、ノドンならびにテポドンの発射実験を繰り返してきた。日本のみならず、米国までもが北朝鮮の核の脅威にさらされる現実が広がり始めている。

日本政府の対応、メディアの報道姿勢からは、日本の軍事力強化を誘導しようとの姿勢が強く感じられるが、日本が軍事力を強化して解決する問題ではないことを十分に認識する必要がある。

拙著『知られざる真実-勾留地にて-』(下記)第三章「不撓不屈」第6節「平和国家の追求」に記述したが、NPT(核拡散防止条約)は根本的な不平等性を有している。米国、ロシア、中国、フランスの核保有を容認し、これ以外の国の核兵器保有を認めないとする条約である。

しかし、インド、パキスタンの核保有によりこの条約は事実上崩壊した。しかし、米国はインドと原子力協力の条約に批准し、イスラエルの核保有も容認している。

NPTは多くの矛盾を抱えており、日本はCTBT(包括的核実験禁止条約)の批准を米国に求め、核兵器廃絶に努力を注ぐべきである。

この点に関連して、米国のオバマ大統領は4月5日、訪問中のチェコで核廃絶に向けた政策演説を行い、核兵器の新たな生産を阻止するため、核兵器原料の生産を検証可能な形で禁止する「兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約」の交渉開始を目指す方針を明らかにした。

CTBT(包括的核実験禁止条約)は、現在148ヵ国が批准しながら、米国などが批准していないため未発効となっている。オバマ大統領はこのCTBTについて「迅速かつ積極的に批准を追求する」と述べ、上院の批准などに全力を挙げる考えを表明した。

さらに、オバマ大統領は核安全保障に関する「世界核安全サミット(首脳会議)」を「向こう1年以内に米国が主催する」と表明し、各国に参加を呼びかけた。

超大国米国の指導者として初めて「核兵器なき世界」を目的とする包括交渉を提示し、ブッシュ政権の政策を明確に転換する方針を示した。この方針転換は画期的であり、世界はようやく「核廃絶」の方向に第一歩を踏み出す可能性を示した。

核兵器では、「第二撃能力」が問題とされた。核攻撃を受けたときに反撃する核攻撃能力を持つことによって、核攻撃を抑止できるとの考え方である。しかし、この「相互確証破壊(MAD)」理論はもはや通用しなくなり始めている。テロリストが核を持ち、核を使う脅威が現実のものになり始めているからだ。

北朝鮮との交渉には強い忍耐力と高度の戦術性が求められる。日本は、「拉致」という重大な問題を北朝鮮との間に抱えている。日本人のすべてを救出することがまずは優先されなければならないが、北朝鮮の裏側には中国やロシアも存在しており、単純に圧力だけをかけて問題が解決するわけではない。

国際情勢を踏まえ、北朝鮮の暴発を回避しつつ、北朝鮮を話し合いの場に引き出して、主要国と連携しつつ、現実的な問題解決の方策を探ってゆく以外に有効な問題解決の道はない。

国際社会に正義と平和を希求する見解を表明し、国際世論を醸成することに取り組むことは正しい。しかし、感情的に軍事拡張路線に突き進むことは、問題の解決にまったく貢献しないことをしっかりと肝に銘じるべきである。

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