「かんぽの宿疑惑」に見る「郵政利権化」の深層
「かんぽの宿疑惑」は小泉竹中政治の基本問題の一端を示す事例であり、この際、徹底的な真相究明が求められる。
小泉竹中政治は、
①「企業の利益=効率」を最優先して、勤労者の生活の安定性を無視する制度変更を強行し、
②「特権官僚の天下り利権」を温存し、
③「民営化」を強行し、国民生活に直結する各種公的サービスを政府や国民の監視外に移設した。
「かんぽの宿疑惑」は上記した小泉竹中政治の第三の実績にかかる問題の氷山の一角である。
「かんぽの宿」全国70施設プラス首都圏9箇所の社宅施設が109億円でオリックス不動産に売却されることについて所管大臣である鳩山総務相が疑義を表明したことを契機に、「郵政民営化」に関連する国民資産売却の不透明な実態が明らかになりつつある。
鳩山総務相が不透明な日本郵政資産売却について疑問を提示したことについて、日本経済新聞、朝日新聞は総務相を批判する社説を掲載し、産経新聞は竹中平蔵元総務相の鳩山総務相批判を掲載した。また、日本テレビ系列の幸坊治郎氏なども同様のコメントをテレビ番組で示した。
しかし、本ブログでも記述してきたように、中立公平の視点から見て、鳩山総務相の問題提起は明らかに正当性を有している。
「かんぽの宿」の取得費用は約2400億円に達する。70施設のひとつである「ラフレさいたま」だけでも取得費用は300億円近くに達する。また、首都圏9箇所の社宅施設は土地の時価評価だけで47億円にも達することが明らかにされた。
日本郵政や竹中平蔵氏は、
①オリックスへの一括譲渡が2度にわたる入札結果として決定されたこと、
②政府の「財産評価委員会」による資産評価において「かんぽの宿」70施設の評価が142億円とされ、負債金額49億円を差し引いた純資産金額が93億円とされており、109億円の売却価格は適正である、
と反論している。
しかし、日本郵政の説明によると、入札情報は昨年4月1日に日本郵政HPに掲載され、5月15日に参加表明応募を締め切ったとのことだ。問題は、この告知がどのような形態で、どれだけの期間なされたのかだ。
日本郵政株式100%が政府に保有されており、現段階で日本郵政は完全な国有会社である。したがって日本郵政が売却しようとしている「かんぽの宿」は純然たる国有財産=国民資産である。
その売却にあたっては、国民に不利益を与えぬよう、最大限、高価格で販売されるように最善を尽くす必要がある。HPページに告知して、入札を実施したとしても、情報が広く行き渡り、多数の企業が入札に参加しなければ、適正な価格で売却することはできない。
銀行が保有する担保不動産を売却する場合でも、「競売」の形態を取りながら、実態としては「出来レース」で特定の買い手に資産が売却される事例は多数存在する。このような場合では、特定の顧客に利益を提供する目的で、「出来レース」の資産売却が実行されることが多い。
総務相が「入札の経緯」を精査したいとするのは当然のことだ。貴重な国民資産を売却するのであるから、少なくとも入札情報を広く告知することは不可欠である。日本郵政は巨額の費用を投入してテレビなどでの広告活動を展開している。テレビCMでの入札情報の告知は効果的であると考えられるが、そのような企業努力を注いだのかも検証されなければならない。
一方、日本郵政は政府の財産評価委員会による資産評価金額を売却価格算定の根拠とする説明を示しているが、財産評価委員会は事業の収益性を基準にした資産評価を示しただけではないのか。
売却条件に、利用料金や賃金条件などを含めて現状の事業形態を永遠に維持することを義務付けているのであれば、売却価格の基準に財産評価委員会の資産評価額を利用することも一案であると考えられる。
しかし、売却条件には再譲渡制限の期間が2年しか付されていないとのことだ。2年後には資産が売却される可能性すら存在する。
旧日本郵政公社が2007年3月に売却した鳥取県岩美町の「かんぽの宿」が土地代を含めて東京の不動産開発会社に1万円で売却され、半年後に鳥取市の社会福祉法人に6000万円で売却されたことが明らかにされた。
1万円で「かんぽの宿」を取得した東京の不動産開発会社はまさに「濡れ手に粟」の暴利を得たことになる。事業運営収支が赤字であることを根拠に、資産評価が「ゼロ」と査定されていたのではないか。査定が「ゼロ」だから、1万円で売却することが正当であると曲解したのではないか。
事業評価をベースにした資産価値評価が1万円だからと言って、売却する際の基準価格が1万円にはならないのである。
6000万円で売却できる資産を1万円で売却したなら、商法会社であれば「特別背任」の疑いさえ発生する。
竹中平蔵氏は産経新聞およびネット上で繰り返し稚拙な反論を提示しているが、その主張の中心は、
①「かんぽの宿」は年間40億円の赤字を生み出す「不良債権」である、
②日本郵政の事業における経営判断は民間に委ねるべきで、政治が介入するのは根本的に誤っている、
というものだ。
しかし、本ブログで記述し、鳩山総務相も発言したように、事業の赤字は料金設定などに大きな原因がある。減価償却費が過大に計上されている可能性もある。
事業収支だけを基準に売却価格が計算されるなら、事業に供されていない社宅の価値は「ゼロ」近辺となってしまう。「経済学」等の基礎知識を保持しているのかが極めて疑わしくなってしまう。
また、「政治が介入することは根本的に誤っている」との竹中氏の主張そのものが「根本的に誤っている」。
「かんぽの宿」は純然たる国有財産であり、その売却が適正に行われるように監視することは所管官庁、所管大臣、国会の責務である。竹中氏は「郵政民営化」関連法が成立したら、国民資産を好き勝手に、不透明で処理して良いとでも考えているのだろうか。
「かんぽの宿」1施設を1万円で売却することが適正であるとするなら、麻生内閣が実施しようとしている「定額給付金」を一人12,000円ではなく、すべての国民に、「かんぽの宿」1施設を提供してはどうか。「かんぽの宿」1施設は常識で考えて1万円以上の価値を有する。
全国紙では中日新聞(東京新聞)が社説で「かんぽの宿譲渡の不透明さ晴らせ」の論評を掲載した。日本郵政の「かんぽの宿」一括譲渡決定過程が不透明であるとの正論を示している。
産経新聞は1月31日「主張」で、「かんぽの宿日本郵政は情報開示せよ」と題する論評を掲載したが、偏向報道姿勢は是正されていない。
産経新聞は以下のように主張する。
「2400億円は長年にわたる取得額の累計である。建物の老朽化や土地の値下がり、年間50億円近くもの赤字を生み出す事業であることを織り込んだ現時点での評価額93億円と比較する議論は乱暴といえる。むしろ2400億円の責任は、採算を度外視して建設費用を投資してきた歴代の郵政公社幹部や、それを許してきた政治家に求められるべきだろう。」
この記事の表現は誤解を招くものである。1月28日に社民党と国民新党が実施した日本郵政に対するヒアリングにおける2400億円に含まれる建設費について、保坂展人氏は次のように記述している。
「ヒアリングでは、譲渡対象施設のかんぽの宿+社宅+ラフレさいたまの取得原価が明らかになった。土地が294億8千万円、建物が2107億4千万円、合計で2402億2千万円だという。ただし、建物は老朽化した施設を建て直した場合には、新たな建物だけの価格だとした。」
つまり、2400億円には老朽化して立て直された古い建物の建設費は含まれていないのである。現存する施設の建設費用だけが計上されているのが2400億円の意味であり、産経新聞の記述は誤りに近い。また、上記産経新聞記事の後半は問題のすり替えである。
産経新聞は、「鳩山氏側も、独自の鑑定結果を早急に提示すべきだろう」と記述して、鳩山氏側の責任を強調するが、現段階では、まず日本郵政が完全な情報開示することが求められるのであり、鳩山氏の責任を追及するのは筋違いだ。
こうしたなかで、適切な論評を掲示したのが北海道新聞である。北海道新聞は1月31日社説で、「かんぽの宿白紙に戻し見直しては」と題する論評を掲載した。同紙は記事のなかで次のように指摘する。
「問いたいのは、国民の目の届くところで事業譲渡が行われているかだ。日本郵政は施設ごとの資産評価額や入札参加企業などを公表していない。これでは譲渡が適正だったか、判断しようがない。
検討委では譲渡のあり方を論議するが、入札過程の検証までは踏み込まないという。 」
「一時凍結ということではなく、売却をいったん白紙に戻してはどうか。経緯や資産価値を洗い直し、国民の理解を得る必要がある。」
これが正論である。日本郵政は検討委員会を設置して譲渡のあり方を論議すると言うが、入札過程の検証を行わないとしている。
問題は入札過程の不透明性にある。この不透明性を明らかにすることで、問題の本質が初めて見えてくる。鳥取県および鹿児島県の1万円落札を含むこれまでの資産売却についても、徹底的な検証が求められる。
日本郵政はマンション用地の販売も進めているが、「利益を生んでいない社宅用地」が不当廉売されていないかも検証の対象になる。
「郵政民営化」の真相は「郵政利権化」であったとの疑いが日増しに増大している。国会は「かんぽの宿疑惑」を徹底検証しなければならない。また、日経新聞、朝日新聞、産経新聞は「過ちて改むるに憚ること勿れ」である。
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ことばはきちんと読む必要がある。そうしないと騙されるからだ。
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