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2009年1月28日 (水)

思慮を欠く小泉元首相一院制提言

衆参両院の統合による一院制移行を目指す自民党有志の議員連盟(会長・衛藤征士郎元防衛庁長官)の総会で、1月16日、同連盟顧問の小泉元首相が「この議連を一院制への原動力にしたい」とあいさつした。同連盟は次期衆院選での自民党の政権公約(マニフェスト)に盛り込むため、4月をめどに提言をまとめる方針を決定した。
 総会では、同連盟会長の衛藤氏が提示した、
(1)議員定数を現在の両院合計722から500に削減
(2)選挙制度を都道府県単位の大選挙区制度に変更
(3)2019年に移行
の案をたたき台に議論を進めることを決めた。

民主党元参議院議員である平野貞夫氏がメルマガ記事「小泉元首相らの気狂い騒ぎに直言する」で指摘するように、国会議員を3割削減する提言は、「不況に苦しむ国民にとって、役に立たない国会議員や政党を懲らしめる格好の主張」である。

提言は、現在の「ねじれ国会」に不満をつのらせている国民に結構支持を受けているが、平野氏はこの点について、「これがきわめて危険な政治の兆候であることが、マスコミ・有識者にわかっていないことが、日本の悲劇である」と指摘している。

「カナダde日本語」の美爾依さんも、1月17日付記事「1月の麻生内閣支持率と一院制」で、
「本来は、国民の僕である政治家の数を減らすことは、ますます官僚のやりたい放題になるわけで、全く賛成できない。これまでも、小泉の言うことに従ってきて、恐ろしい目にあっている国民が小泉の言うことに耳を傾けるとは思わない」、
「衆院選では一院制を主張する小泉チルドレンはみな落選させるべきだ」、
「議員数が722から500に削減されるということは、地方の議員数が減り、いまでさえ、地方の声が届きにくいのに、この上議員数を減らしたら、ますます届きにくくなる。逆に東京、大阪、神奈川などの大都市に議員が集中し、ますます都心と地方の格差が広がることになる」
と述べて、小泉元首相提案を批判している。

米国の「大統領制」に対して日本の政治制度は「議院内閣制」と呼ばれる。11月28日の党首討論で麻生首相は「議院内閣制」を「議会制民主主義」と間違えたが、日本では議会が内閣総理大臣を指名して内閣が組織される。この内閣が行政権を担う。

一般に「大統領制」における大統領は強大な権力を有すると理解される。大統領は国民から直接選出されており、強いリーダーシップを発揮しうる。大統領は議会決定に対する拒否権なども保持している。

しかし、「政治権力」に対する抑制力の面から捉えると、米国の大統領制が「権力を抑止する」側面を強く持つのに対して、「議院内閣制」は「権力を創出する」側面を強く持つと理解されている。

それはなぜか。

「大統領制」では大統領選出と議会議員選出が独立している。大統領が所属する政党が議会で多数を確保するとは限らない。オバマ政権の発足時点では民主党が上下両院で過半数を確保しているが、比較的珍しいケースである。

「大統領制」は強い権限を持つ大統領に対して、議会に大統領の権力を牽制(けんせい)する役割を担わせているのである。大統領制は「権力を抑制する」側面に配慮した制度である。

これに対して、「議院内閣制」では、通常、議会多数派から内閣総理大臣が選出される。議会の多数派と内閣総理大臣の所属会派は一致することが通常である。内閣の提案は議会で承認され、政治の運営が円滑に進む。「議院内閣制」は「権力を創出する」側面を強く持つ。

内閣総理大臣は裁判所の人事権を有している。したがって、内閣総理大臣が保持する権限を最大に活用すると、三権を掌握することも不可能ではなくなる。小泉元首相は自分の意見に反対する自民党議員を党から追放し、刺客を放つ行動を取った。民主主義政党の党首としての行動を逸脱していたと言える。

議院内閣制の下で「権力濫用者」が首相に就任することが、「民主主義の危機」とも呼べる極めて危険な事態を引き起こすことが判明した。

「権力を創出する」側面を強く持つ「議院内閣制」を採用する国では、何らかの形で「権力を牽制する」仕組みを備えることが重要である。

2005年9月の総選挙で国民は自民党に多数の議席を付与した。国民全体が集団催眠にかかったような、異常な状況下で自民党は多数の議席を確保した。マスメディアが集団催眠に大きく貢献したことも見逃せない。「権力を濫用する」首相は、電波をも支配し、政治権力に有利な情報操作を実行した。

一院制下の議院内閣制が採用されると、このような局面で、政治権力が暴走することを防ぐことができなくなる。国民が常に冷静に、最適な投票行動を示す保証はない。集団催眠、集団ヒステリーに陥れば、2005年9月のような選挙結果がもたらされることも生じ得る。

2007年7月の参議院選挙で、国民は参議院の過半数を野党に付与した。国民は2005年7月の投票行動が誤りであったとの意思を表示したのである。たった一度の選挙結果に国の運命をすべて委ねることには極めて大きなリスクが付きまとう。

こうしたことを踏まえると、議院内閣制を採用している日本が、二院制を採用していることは賢明である。特定の政治勢力に強い政治権力を付与するに際して、一定の時間的猶予が国民に与えられるからだ。

現在、衆議院では自公が、参議院では民主、共産、社民、国民の野党が過半数を確保している。次期総選挙で国民が野党に強い政治権力を付与しようとすれば、国民は野党に衆議院の過半数を付与するだろう。野党に強い政治権力を付与する選択をしなければ、野党に過半数の議席を付与しないだろう。

たしかに、現在のような「衆参ねじれ現象」の下では、政治の意思決定が遅れやすくなる。しかし、それは「政治権力の暴走を防ぐコスト」である。政治権力は議会で圧倒的多数を確保すれば、憲法改正を実現できる強大な力を保有することになる。憲法改正などの問題で誤りは許されない。

権力が暴走し、国民が不幸の地獄に引き込まれることを防ぐために、一定の安全装置を備えることは賢明な選択である。

一院制が実施されれば、政治が極端から極端に振れることが誘発されやすくなる。選挙がごく短期間の熱病的な空気の変化に大きく左右される現実を踏まえても、一度きりの選挙に国の運命をすべて委ねてしまうことは危険である。

衆参ねじれ現象を、時の政治権力に対して、野党の意向を十分に汲み取って政治を運営することを、国民が要請している局面と理解するべきである。福田首相も麻生首相も主権者である国民の意思を踏みにじる行動を示して窮地に追い込まれている。国民の6-8割が反対する政策を強行実施すれば、その咎(とが)は必ず自分に帰ってくる。

「衆参ねじれ」から次にどう進むか。それを選択するのは国民だ。次期総選挙で国民が野党に衆議院の過半数を付与するなら、それは覚悟の選択である。一時的な熱病による選択ではない。野党は国民の選択を受けて、本格政権を樹立する正当性を確保する。

「カナダde日本語」の美爾依さんが指摘するように、国会議員の数を減らすことの弊害を考慮するべきだ。膨大な無駄を生んでいる「天下り」は根絶するべきだが、国民にとって最も重要な機関である国会の機能強化を考えるべきだ。無駄を排し、重要な事項に資源を集中して配分する、メリハリが重要である。定額給付金政策を検討する際にもこの視点が問題になる。

参議院を有効に活用する知恵が求められている。

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