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2009年1月19日 (月)

「かんぽの宿」疑惑-竹中平蔵氏の稚拙な反論

Photo 日本郵政によるオリックスに対する「かんぽの宿」一括譲渡問題は「郵政民営化」の本質に関わる重大性を帯びている。私は1月10日付記事「「オリックスーかんぽの宿」疑惑の徹底検証が不可欠」でこの問題を取り上げた。

この問題に、「郵政民営化」の本尊の一人である竹中平蔵元総務相参戦した。竹中氏は1月18日放送のテレビ朝日番組「サンデープロジェクト」にも出演し、「市場原理主義」のもたらした経済の荒廃について必死の弁明を展開したが、まったく説得力のある説明を示すことができなかった。

竹中氏は
①「かんぽの宿」は毎年50億円の赤字を生み出す「不良債権」であり、早期売却は適正である。「民営化は民間の判断に任せることであり、経営判断の問題に政治が口出しすること、しかも機会費用の概念を理解しない政治家が介入することは、根本的に誤っている」。
②宮内氏は郵政民営化の論議には直接関わっておらず、「民間人が政策過程にかかわったからその資産売却などにかかわれない、という論理そのものに重大な問題がある」。
と主張する。

竹中氏の主張を読む限り、竹中氏が企業経営や経済学の基礎知識を持っているのかが極めて疑わしくなる。

「かんぽの宿」が毎年50億円の赤字を計上していると言うが、その理由は単純である。「かんぽの宿」の年間収入が年間支出を上回っているからだ。年間収入は「かんぽの宿」の利用者が支払う料金である。年間支出に減価償却費が過大に計上されている可能性もある。

保坂展人氏がブログ記事「「かんぽの宿」叩き売りを見逃せない」で指摘されているように、「かんぽの宿」は旧簡易保険法101条の規定に基づいて、「加入者の福祉を増進するために」創設されたものである。最終的に巨大な損失を生むことになった宿泊施設事業を簡易保険が手がけたことは間違いであったと考えるが、こうした経緯で生まれた「かんぽの宿」は赤字を生み出す低料金で「宿泊サービス」を提供してきたわけだ。

つまり「かんぽの宿」は「赤字出血サービス価格」の料金設定をしているから赤字を計上しているのである。竹中氏は、この施設を民間業者が買い取り、まったく同条件で事業を営めるとでも考えるのだろうか。民間事業者が施設を買い取った後は、事業が赤字を生み出さないように事業内容を見直すはずである。まさか施設を一括譲渡する条件に、「毎年50億円の赤字を今後も計上し続ける」との規定が設けられているとは考えられない。

現行の事業運営体制と料金体系を維持する場合に50億円の赤字が生まれるのであって、民間事業者が施設を購入すれば、料金体系などを見直して、事業の黒字化を図ることは間違いない。かんぽ会社がそのような事業見直しを実施すれば、赤字を解消することは不可能ではない。

施設売却の条件に雇用の確保義務が盛り込まれていると言うが、具体的内容が明らかでない。労働条件が完全に継続されるのか。また、雇用確保義務を負う期間は何年なのか。

竹中氏は「民営化は民間の判断にまかせること」だとするが、かんぽ会社は現状ではまだ民営化されていない。経営形態が株式会社形態に移行しただけである。政府保有株式が民間に完全に売却された段階で「民営化」が成立する。「民営化」されてしまえば、国民の貴重な資産が完全に「私的に」好きなように処分されてしまう。

「民営化」される前に、貴重な国民資産が「私的に」不透明に処分されることは許されないのである。この意味で、このようないかがわしい取引が実行に移される前に、国会の場で問題として取り上げられたことは、極めて意義深いことである。

現段階では「かんぽ会社」は民営化されていない。株式は100%政府が保有している、「正真正銘の」国有資産である。国有資産であるかんぽ会社の資産売却について、政府、国会、国民が、正当で透明な処理を求めるのは当然のことである。国会や内閣の閣僚が、国民資産の売却について、疑惑を解明しようとするのは当然の行動であり、こうした行動を批判するのは、売却決定のプロセスに重大な問題が存在したことを推察するようなものである。

オリックスの宮内義彦会長は小泉内閣の総合規制改革会議議長を務めた人物で、郵政民営化推進論者の一人でもあった。

総合規制改革会議は労働市場、医療など重点6分野の規制緩和を提言した。現在問題になっている派遣労働の自由化を推進した主力機関でもあった。

総合規制改革会議には宮内氏が会長を務めるオリックスと関わりの深い企業幹部が委員に名を連ねた。政府が推進した派遣労働拡大と密接な利害関係を有する企業経営者が会議のメンバーに数多く名前を連ねること自体、小泉構造改革の「利権体質」を雄弁に物語っている。

データ・マックス社が提供するサイト情報
「かんぽの宿」譲渡問題でオリックスにブーイングの嵐(上)(下)」が
、宮内氏のオリックスと小泉竹中政権が推進した規制緩和政策との関わりの一端を紹介している。1月10日付記事ではオリックスの保険事業と規制緩和政策および郵政民営化事業との関わりについて触れたが、上記サイト記事は

「宮内氏が享受する改革利権は、3つに分かれる。1つは、本業である金融部門の規制緩和による改革利権。2つは、行政に保護された統制経済の規制緩和による改革利権。ターゲットは農業・医療・教育の分野。3つは官業開放による改革利権である」と記述する。

竹中氏の反論と比較すると、はるかに大きな説得力を持つ説明である。村上ファンドもオリックスが出資母体であった。拙著『知られざる真実-勾留地にて-』に執筆したように村上ファンドへの出資者リストは検察が情報を隠蔽(いんぺい)したが、出資者リストを改めてチェックする必要もあると考えられる。

「かんぽの宿」70施設の一括譲渡価格が108億円というのは、いかにも安すぎる。現状では「かんぽの宿」は紛れもない国民資産である。「かんぽ資金」はかんぽ加入者の有償資金であり、利害関係者の利益を損なうような、不透明な資産売却は排除されなければならない。旧長銀がリップルウッド社に払い下げられたときも、形式的には入札が行われた。しかし、瑕疵(かし)担保特約まで含めると、リップルウッド社は日本政府にとって、最も有利な払い下げ先ではなかったはずだ。

一連の資産売却は明治の「官業払下げ」に通じるものがある。「官業払下げ」を取り仕切ったのは「悪徳政治屋」と「政商」である。いずれも、「公」の利益ではなく、「私」の利益を優先した。

「郵政民営化」全体が「現代版官業払下げ」の性格を強く有していると評価できる。竹中氏は「不動産事業」そのものを全面否定しているが、「日本郵政」は「不動産事業」に本格進出する行動を示しているのではないか。

「かんぽの宿」一括譲渡で見落とせない点は、雇用維持などの条件を付けることによって、破格の安値での政府資産売却が強行されようとしていることだ。「郵政」や「かんぽ」の株式売却などにおいても、株式売却当初のみ、さまざまな「付帯条件」が付けられる可能性が高い。「雇用維持」や「特定郵便局維持」などの条件の詳細が決定的に重要である。「期間についての規定」も重大な意味を持つ。瑕疵担保特約と同様に、付帯条件が付くことによって、入札が極めて不透明になっている可能性がある。

また、「付帯条件」が付せられているために、日本郵政株式が売却される際も、株式が安値で放出される可能性がある。株式を買い集めた外国資本などが経営権を取得した時点で、さまざまな制約を解き放して、巨大な利益を収奪する恐れが高い。「民営化」がこうした「利益動機」によって推進されている可能性が濃厚である。オリックスの発行済み株式の57.6%は外国人投資家が保有している。オリックスが外国企業であることも念頭に入れなければならない。

まずは、国会で「かんぽの宿-オリックス一括譲渡疑惑」の全容を解明する必要がある。入札および落札の最終責任者が誰だったのか。また、入札条件の詳細などについて、国会の国政調査権を活用して事実関係を明らかにする必要がある。その上で問題があれば、関係者を参考人として招致して適正な処理方法を再考しなければならない。

 

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