りそなの会計士はなぜ死亡したか(7)
拙著『知られざる真実-勾留地にて-』第一章第16節に「1・3・5の秘密」を記述した。2003年3月決算でりそな銀行の繰延税金資産を最終的にどう取り扱うのかが焦点だった。
1年:りそな銀行は破たん=一時国有化
3年:りそな銀行を救済=実質国有化
5年:りそな銀行は健全銀行として決算をクリア
という図式だった。
選択されたのは3年計上だった。3年計上すると自己資本比率は2.07%になる。健全銀行として決算をクリアできる自己資本比率は4%だった。自己資本比率がマイナスに転じれば、債務超過となり銀行は「破たん」する。
繰延税金資産計上がゼロないし1年であったなら、りそな銀行は「破たん」処理されていた。木村剛氏は、5月14日の時点でりそな銀行について言及したと読み取れるネット上のコラム記事で、繰延税金資産計上はゼロか1年しかありえないことを強く主張していた。
他の銀行同様にりそな銀行の繰延税金資産の5年計上が認められていれば、りそな銀行は2003年3月決算をクリアしていた。中立・公正の立場に立てば、この選択が最も順当であったはずだ。将来時点の収益見通しが不明確だったのはりそな銀行だけではない。
りそな銀行と同様の財務状況、収益環境にあった複数の大手銀行の2003年3月末決算では、繰延税金資産の5年計上が認められて、決算がクリアされている。りそな銀行は、何らかの理由により標的にされ、人為的に自己資本不足に追い込まれた可能性が高い。
りそな銀行を自己資本不足に追い込んだロジックを提示し続けたのは木村剛氏である。木村氏の主張は「将来の収益回復を前提に一定年数繰延税金資産計上を認める」との1999年11月の公認会計士協会指針第4項但し書きを認めないとするものだった。りそな銀行サイドは欠損金が出るとしても、それは合併や会計監査の厳格化といった特別な理由によるもので、5年を限度とする繰延税金資産計上は認められるべきだと主張した。
結果的に、りそな銀行の繰延税金資産計上は木村氏の主張に沿う形で否認された。木村氏は金融PT、金融問題タスクフォース、金融庁顧問として強い影響力を行使したと考えられる。りそな銀行の繰延税金資産計上を否認した朝日監査法人に対しても、直接的な接触を持ったことが確認されている。また、木村氏が代表を勤めていた企業は朝日監査法人、新日本監査法人の海外提携監査法人関連の日本法人であった。
木村氏の主張するロジックを根拠にりそな銀行の繰延税金資産計上が否認されたのであれば、最終的な着地はゼロないし1年計上しかありえなかった。木村氏は5月14日付のインターネット上のコラム記事で「破たんする監査法人はどこか」と題する主張を示した。りそな銀行の繰延税金資産がゼロないし1年以上計上されることがあれば、決定を下した監査法人が破たんに追い込まれるだろうと読み取れる内容だった。
ところが、決着は3年計上だった。3年計上は預金保険法102条第1項規定という「抜け穴」を活用できる着地だった。102-1は、金融機関への破たん前資本注入を認める規定だった。
りそな銀行は102-1の規定に基づいて約2兆円の資本注入を受けた。自己資本比率は一気に12.2%に上昇した。りそな銀行の所有者はりそな銀行の株主である。りそな銀行の株主は、いささかのペナルティーを払うことなく、国から2兆円の資金提供を受けて救済された。
「破たん」処理されれば株価はゼロになる。株主は出資した資金を失う形で責任を問われる。1998年に破たんした日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の株主は、株価がゼロになる形で出資責任を負わされた。
しかし、りそな銀行の株主は国から2兆円の資金提供を受け、その後の株価が猛烈に反発したことにより、国からの巨大な利益供与を受けた。りそな銀行の株価は2003年5月の47円から10月には185円に暴騰した。株価は3.93倍に暴騰した。りそな銀行の株主はペナルティーではなく巨大な利益供与を受けた。
竹中金融相は2002年10月以降、「大銀行破たんも辞さず」のメッセージを発して株価暴落を誘導した。2001年以降、超緊縮経済政策によって経済悪化を促進し、そのなかで「退出すべき企業を市場から退出させる」方針を示して企業の破たんを促進した。この政策が推進されれば、経済が大混乱に陥るのは当然だった。
大銀行が破たんすれば、企業破たんと金融機関の破たんが連鎖的に拡大する。いわゆる「金融恐慌」が発生する。竹中経済政策は日本経済を「金融恐慌」に誘導するものだった。私が2001年の小泉政権の発足時点から小泉政権の経済政策を強く批判したのはこのためだ。
「退出すべき企業を市場から退出させる」政策を基本に据え、りそな銀行を俎上(そじょう)に載せた以上、りそな銀行の処理は「破たん」処理以外にはなかった。金融行政の二大基本原則は「金融システムの安定確保」と「自己責任原則の貫徹」だ。責任ある当事者に適正な責任を負わせることが「自己責任原則の貫徹」である。
りそな銀行が失敗を犯して破たんするなら、責任ある当事者には責任を負わさなければならない。責任ある当事者の第一は企業の保有者である株主である。株主が出資した資金を失うことが適正な責任処理の第一である。
ところが、りそな銀行の「実質国有化」では、りそな銀行の株主は責任を問われるどころか、国から巨大な利益供与を受けた。責任ある当事者が国から利益供与を受けるのは理に反している。
この措置が認められるなら、各銀行は競って財務内容の悪化に努めるだろう。財務内容が悪化すれば、国からの巨大な利益供与を受けることができるからだ。政策が企業の適切でない行動を促してしまうことを「モラル・ハザード(=倫理の欠如)」と呼ぶ。りそな銀行の救済は典型的な「モラル・ハザード」を生み出す政策だった。
しかし、「金融システムの安定確保」の視点に立つと、2003年5月の段階でりそな銀行を破たんさせる選択はありえなかった。この時点でりそな銀行を破たんさせていたなら、日本経済が金融恐慌に突入したことは間違いない。大銀行破たんが一般企業、金融機関の連鎖的な破たんを一気に生み出すからだ。
竹中金融庁はりそな銀行を標的として定め、りそな銀行の決算数値を精査した上で、りそな銀行の繰延税金資産3年計上を決めたのだと考えられる。しかし、「3年」という不自然な決着にせざるを得なくなったために、人為的操作の印象がクローズアップされてしまった。
仮にりそな銀行の繰延税金資産計上がゼロないし1年で102-1が適用されたなら、人為的操作の印象をある程度、覆い隠すことに成功したかも知れない。木村氏が主張したロジックと「りそな銀行救済」の矛盾を表面化させずに済んだかも知れない。
しかし、「3年計上」では合理的な説明が不可能である。「3年計上」という不自然な決着が、「抜け穴規定」である102-1規定を活用するための人為的操作であるとの印象を際立たせる結果を生んだ。
2003年5月にりそな銀行が破たん処理されていれば、小泉政権はその後の総選挙で大敗して崩壊していただろう。しかし現実には、小泉政権は「退出すべき企業を市場から退出させる」基本方針を放棄して、税金による大銀行救済を選択した。
公的資金で大銀行を救済すれば株価が猛烈に反発するのは当然である。株式市場は「金融恐慌」の可能性を現実のものと判断し暴落していた。国内投資家は暴落価格で株式や不動産を投売りした。明らかに割安な価格であっても金融恐慌が発生すればさらに価格は下がる。この判断に立って貴重な資産を投売りした。
最終的に「自己責任原則」を放棄して税金で銀行を救済するなら、2003年にかけての株価暴落、経済混乱は不要だった。国民は絵空事の金融恐慌恐怖症に踊らされたことになる。
竹中氏はりそな銀行の責任処理が実行されたと言うが、実行されたのはりそな銀行の経営陣の入れ替えだけである。旧経営陣が追放され、小泉政権の近親者がりそな銀行経営陣に送り込まれた。りそな銀行はその後に何をしたか。
りそな銀行処理を取り巻く闇を明らかにしなければならない。闇に光を当てる三つの手がかりがある。
①2003年2月7日の竹中金融相による「絶対儲かる」発言
②2002年10月から2004年3月までの47兆円に達する日本のドル買い外為介入
③「りそな銀行から自民党への融資激増」スクープと朝日新聞編集委員の急死
である。
死亡したのはりそなの会計士だけではなかった。
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