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2008年12月15日 (月)

日銀短観が示す大不況下の政策サボタージュ

本日12月15日、日銀短観12月調査結果が発表された。
日銀短観は日銀が企業に対して実施しているアンケート調査で、企業部門の経済状況の変化を的確に示す。

業況判断DIの前回(9月)、今回(12月)、先行き見通し(3月)の推移は以下のとおりである。
大企業全産業     0→ -16→ -25
大企業製造業    -3→ -24→ -36
大企業非製造業    1→ - 9→ -14
中小企業全産業  -21→ -28→ -44
中小企業製造業  -17→ -29→ -48
中小企業非製造産業-24→ -29→ -42

業況判断DIは、景況感について全体で100となる回答のうち「良い」から「悪い」を差し引いた数値である。プラス100からマイナス100の間で数値が変動する。

大企業製造業の業況判断DIは9月調査比で21ポイント悪化した。悪化幅は第1次石油危機直後の1974年8月調査(26ポイント下落)に次ぎ、1975年2月調査と並ぶ過去2番目の大きさで、33年ぶりの大幅な落ち込みになった。

すでに大幅に悪化していた中小企業の業況判断も悪化が続き、製造業、非製造業、大企業、中小企業のすべてが深刻な不況に突入したことが明らかになった。

大企業製造業の業況が急激に悪化したのは、サブプライム危機に伴う海外経済の急激な悪化に加えて、日本円が主要通貨に対して急激な上昇を示したことが大きく影響している。

本年7、8月以降、日本円は主要通貨に対して大幅に上昇した。
1米ドル:110円 →  88円
1ユーロ:170円 → 113円
1ポンド:215円 → 132円
1加ドル:107円 →  70円
1豪ドル:104円 →  55円

海外経済の急激な悪化と急激な円上昇が輸出製造業の収益環境を急激に悪化させた。今回の日銀短観12月調査で企業が前提条件として設定している2008年度の想定為替レートは1米ドル=103.3円である。円ドルレートは1米ドル=90円を上回る円高・ドル安への推移を示しており、今後も円高傾向が持続すると、製造業の業況悪化がさらに強まる恐れがある。

2002年から2007年までの日本経済を牽引(けんいん)したのは輸出製造業だった。長期間持続した円安傾向と米国、欧州、中国などのアジア諸国の経済好調が日本の製造業の好調を支えた。

本年夏以降、この図式が完全に崩壊した。麻生首相は日本経済が諸外国と比較して堅調であると発言していたが、現状認識が甘い。本年夏以降、日本経済の状況は急変しており、一気に戦後最悪の経済状況に突入している。

また、金融機関の財務状況も急変している。株価の下落が金融機関の財務状況を直撃している。政府は金融機関が保有する有価証券を時価評価しない決算処理を容認する方針を示したが、問題を解決する施策ではなく、問題を隠蔽(いんぺい)するだけの措置であり、極めて不健全である。

株価下落と同時に、不動産価格の急激な下落も進行している。不動産業を中心に財務状況が著しく悪化する企業が多数発生しており、金融市場の重大な問題と化していると同時に、深刻な雇用不安を生み出している。

もっとも深刻な影響は、輸出製造業が操業率を一気に引き下げていることによって発生している。自動車の販売はグローバルな規模で前年比3割程度の減少を示している。その結果、生産水準の大幅引き下げが実施されている。

そのしわ寄せが非正規雇用労働者に集中している。低賃金、低保障、低福利厚生が非正規雇用労働者の処遇の特徴である。「資本」の論理だけを尊重し、「労働」に対する虐待を推進する新自由主義=市場原理主義の経済政策が、人間性を無視した冷酷な労働法制を日本社会に植え付けてきた。

政府は全力をあげて、戦後最悪の不況に突入する日本経済に対して、とりわけすべての労働者の生活を守る政策実施に取り組まなければならない。ところが、麻生政権は10月30日に約束した補正予算案の国会提出を2009年まで先送りして、政策運営サボタージュに徹している。

麻生政権は慌てふためいて追加景気対策を打ち出しているが、誠意の見られない国会運営の姿勢の下では円滑な国会審議を期待することもできず、実効性のある政策が実行に移されるのがいつになるのか、極めて不透明な状況が生まれている。

米国では自動車産業を代表するビッグスリーの経営不安が深刻化している。150億ドルのつなぎ融資を内容とするビッグスリー支援策が米国議会に拒絶された。責任ある当事者に対する責任処理が不明確であることが、その大きな要因とされた。

ブッシュ政権が金融安定化法で確保した7000億ドルの公的資金枠の一部をビッグスリー支援に充当することを検討しており、米国株式市場は小康状態を得ているが、ビッグスリーの経営不安が解消されたわけではない。

今週は日米で金融政策決定会合が予定されている。米国では15、16日にFOMC(連邦公開市場委員会)が開催される。米国の短期政策金利であるFFレートはすでに1%の水準にまで引き下げられているが、16日には0.5%ないし、0.25%の水準に引き下げられる可能性が高い。

日本では18、19日に金融政策決定会合が開催される。10月31日の政策決定会合で日本の短期政策金利の誘導目標が0.5%から0.3%に引き下げられた。19日の決定会合では短期政策金利が0.1%に引き下げられる可能性が高い。

不況に際しての金融緩和政策の景気支援効果は限定的である。後ろ向きの資金繰り目的の資金需要以外に資金需要が存在しないなかで、短期金利を引き下げても融資拡大を期待することはできない。財政政策の迅速な発動を伴わなければ、経済悪化を食い止めることは困難で、この意味で、麻生政権の政策サボタージュの弊害(へいがい)は甚大(じんだい)である。

それでも、金利引き下げ政策の決定は、経済悪化に対抗しようとする政策スタンスを表示することになり、心理効果の面からは重要である。日銀内部には利下げ慎重論が存在するが、日本経済を取り巻く状況を踏まえれば、日銀による利下げ拒絶は市場の強い失望を生むことになるだろう。日銀の柔軟な判断が求められる。

経済政策において最も重要な役割は、すべての国民に安定した雇用機会を確保することである。制度改革において最も重要な課題は、「所得分配」、「所得再分配」のルールを根本から変革することである。

12月12日付記事「市場原理主義に代わるもの」に記述したが、この問題について「BLOG版ヘンリー・オーツの独り言」主宰者のヘンリー・オーツさん、ならびに「私好みのimagination」様が見解を共有されていることを表明してくださった。日本の政治を根本から変革することが求められる。「政治屋」、「特権官僚」、「大資本」、「外国資本」、「マスメディア」の「政官業外電の悪徳ペンタゴン」の利権維持を目指す政府を打倒して、「一般国民」の生活、幸福を追求する政府を一刻も早く樹立しなければならない。

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