適切な日銀利下げと不適切な日銀批判
日銀は12月19日の政策決定会合で短期政策金利の誘導目標を0.1%に引き下げることを決定した。米国ではFRBが16日のFOMCでFFレートの誘導目標を0-0.25%に引き下げることを決めた。
12月15日付記事「日銀短観が示す大不況下の政策サボタージュ」に以下のように記述した。
「米国ではFFレートが0.5%ないし、0.25%に引き下げられる可能性が高い。日本では短期政策金利が0.1%に引き下げられる可能性が高い。」
予想通りの金融緩和措置が決定された。バーナンキFRB議長は大恐慌の研究を専門としており、積極的な金融緩和措置が米国の金融危機を回避するために不可欠であると判断している。FRBはFFレートの誘導目標を0-0.25%に引き下げた。
日銀は短期金利引き下げの経済効果に懐疑的であるが、グローバルに金利引き下げ措置が実行されており、日本円の主要通貨に対する上昇傾向が強まっていることを踏まえて利下げを決定した。
10月31日の政策決定会合で日銀は短期政策金利を0.5%から0.3%に引き下げた。引き下げ幅を0.2%ポイントとするか0.25%とするかで意見対立があったが、0.2%ポイントの引き下げになった。このことから、今回は0.1%への利下げになると予想した。
日銀の政策対応は妥当である。元財務省職員の高橋洋一氏などが日銀の政策対応を批判しているが、政治的な背景を伴ったものであり、妥当な批判でない。
「上げ潮派」と自称する勢力と「小泉一家」、「偽装CHANGE集団」はほぼ重なっている。小泉元首相-中川秀直氏-武部勤氏-小池百合子氏-渡辺喜美氏-小泉チルドレン-竹中平蔵氏-高橋洋一氏に連なるグループである。「脱藩官僚の会」および橋下徹氏とも連携する可能性がある。
「政官業外電の悪徳ペンタゴン」の利権互助会は利権を死守するため、政権交代の阻止に全力を注いでいると見られる。麻生内閣の支持率が暴落し、次期首相にふさわしい人物として民主党代表の小沢一郎氏を支持する国民が急激に増大している。
このまま総選挙が実施されれば本格的な政権交代が実現し、日本の政治が本当の意味で「CHANGE」することになる。既得権益は破壊され、特権官僚が死守してきた「天下り利権」も根絶される可能性が高い。
民主党を中心とする野党による政権樹立を阻止することが悪徳ペンタゴンの至上命題である。「小泉一家」を中心とする「偽装CHANGE勢力」は年内に「偽装CHANGE新党」を創設する可能性がある。
「偽装CHANGE勢力」は官僚利権抑制を主張しているが、信用できない。小泉政権は5年半も政権を担いながら、天下り利権の根絶に注力しなかった。財務省の「天下り御三家」である日本政策投資銀行、国際協力銀行、日本政策金融公庫への天下りは完全に温存されて現在に至っている。
「上げ潮派」は金融緩和政策の強化を主張してきた。しかし、2002年から2006年にかけての日本の行き過ぎた金融緩和政策が、米国の不動産バブル生成の遠因になった点を見落とせない。
2002年から2006年にかけての米国の超金融緩和政策は米ドルの下落圧力を招いた。日本が超金融緩和政策を維持しなかったなら、米国は早期の金利引き上げ政策実施を迫られたはずである。
ところが日本政府は2002年10月から2004年3月にかけて47兆円ものドル買い介入を実施し、超金融緩和政策を強化した。その結果として米国は低金利政策を維持できたが、この超金融緩和政策が米国の不動産価格バブルを生み出した。
日本政府は外貨準備残高を100兆円にまで膨張させたが、その外貨準備のドル資産がいま、円高進行によって巨額損失を発生させている。外貨準備の為替評価損失は円ドルレートが1ドル=95円の段階で24兆円にも達している。1ドル=88円にまで円高が進行した現段階では為替評価損失が30兆円程度に拡大している可能性がある。
これだけの資金があれば、雇い止めの暴挙に直面した非正規雇用労働者のすべてを救済し、障害者、高齢者、生活困窮者のすべてを救済することができる。外貨準備での巨額損失の責任を厳正に追及しなければならない。
日銀の金融緩和政策強化を主張する高橋洋一氏、竹中平蔵氏、中川秀直氏、渡辺喜美氏は、外貨準備や郵貯資金をサブプライム金融危機対策に流用することを主張してきた。彼らの主張を取り入れて日本政府がさらに巨大な資金を米国金融機関救済資金に充当してきたなら、日本国民が負担する損失金額はさらに膨張していたはずだ。「亡国の売国政策」と言わざるを得ない。
日銀への過度の金融緩和政策の要求は、ハイパーインフレ発生によって政府債務の帳消しを狙う財政当局の意向と一致する。高橋氏は財務省と敵対する装いを凝らしながら、実は財政当局の意向を実現するために行動していると考えられる。日銀に対するまったく説得力のない攻撃は、日銀プロパー職員が日銀幹部に就任したことに対する財務省の腹いせを代弁しているに過ぎないと判断される。
「偽装CHANGE集団」は、①市場原理主義に基づくセーフティーネット排除、②官僚利権温存、③対米隷属、を基本政策に据えていると考えられる。中川秀直氏、小池百合子氏、渡辺喜美氏などが「官僚利権打破」を唱えるが、これらの人々の「官僚利権排除」は偽装に過ぎないと判断される。渡辺氏が主導した公務員制度改革も、方式を変更するだけで天下り制度を温存するものであり、「改革」ではない「偽装改革」である。
深刻な不況を打破するには財政政策を活用することが不可欠である。高橋氏は財政政策の活用は円高をもたらし、景気拡大効果を減殺(げんさい)すると主張するが、諸外国が財政政策を活用している現状では、この指摘は妥当性を欠いている。
高橋氏は財政政策を活用する際の財源について、新規国債発行と政府資産取り崩しの相違を論じるが、経済学的にまったく無意味な主張である。政府資産取り崩しと政府債務増大は政府の純債務金額に与える影響が同一である。「埋蔵金取り崩し」と「国債発行」の差異の論議は意味がない。
重要なことは、財政政策を活用して「セーフティーネット」を強化するかどうかである。「弱肉強食奨励」=「セーフティーネット破壊」を推進してきた「市場原理主義」=「新自由主義」の政策路線を否定し、「セーフティーネット強化」=「人間尊重主義」の政策路線を基本に据えるのかどうかが問われている。「偽装CHANGE勢力」が「セーフティーネット強化」に反対する存在であることを確認しておく必要がある。
米国ではビッグスリー救済、ゼロ金利政策実施で、政策メニューが出尽くしてしまった。経済の悪化は加速しており、今後の株価下落、経済悪化に十分な警戒が必要である。経済金融情勢および投資環境分析については『金利為替株価特報081号』(=2008年12月24日号)に掲載する。(なおスリーネーションズリサーチ株式会社のHPは現在メンテナンス中のため開けない状態になっておりますが、週明け24日までには復旧する予定です。ご迷惑をおかけ申し上げますが、何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。)
2009会計年度の米国財政赤字は1兆ドルを突破する可能性が高い。米国は最終的に中央銀行が政府赤字をファイナンスすることになるだろう。米ドルの下落傾向は持続することが予想される。
日本政府は外貨準備の為替評価損失を縮小させるために、保有ドル資産の売却を検討するべきである。趨勢的な円高進行が予想される局面でのドル買い為替介入には慎重でなければならない。今後の「偽装CHANGE勢力」の行動に対する監視が重要である。
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