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2008年11月10日 (月)

言葉への信用を失う麻生首相と細田幹事長

自民党の細田博之幹事長が解散総選挙について、11月9日のフジテレビ番組で「年内は今やない。もうちょっと先に延びた」と述べた。この幹事長はつい最近まで、11月に総選挙があると吹聴していた人物だ。

日本国憲法第7条:天皇の国事行為に衆議院の解散が規定されている。天皇の国事行為は内閣の助言と承認によって行われることから、内閣に解散を決定する権限があると「解釈」されている。

しかし、衆議院解散は内閣総理大臣の私的な権利ではない。衆議院議員の任期は4年であり、原則としては4年の任期が全うされるべきである。衆議院の解散は国政に重大な問題が生じ、主権者である国民の意思を問わねばならない事態が生じたときに、公共的な利益を満たすために実行されるべきものだ。

政権与党が政権維持という党利党略を満たすために解散権を利用するのは権利の濫用と言わざるを得ない。自民党は安倍晋三政権、福田康夫政権が二代続けて政権を無責任に放り出した。政権担当能力がないことを自ら表明したに等しい。

憲政の常道に従えば、自民党が野党に政権を引き渡し、野党が政権を引き継いだうえで国民の審判を仰ぐ総選挙を実施することが正しい対応である。政権与党の政権担当能力の欠落との国政運営上の重大な事態が生じたのであるから、いまこそ、総選挙を行わなければならない局面である。

昨年7月の参議院選挙では安倍晋三首相が「安倍政権と小沢政権のどちらを選ぶかの政権を選択する選挙だ」と明言した。自民党は惨敗し、野党が参議院の過半数を制した。国民は小沢政権を選択した。

衆議院と参議院の多数政党が異なる事態が生じ、国会での意思決定が円滑に進まなくなった。直近の国政選挙で国民が野党を信任して参議院の多数を野党が確保したのであるから、与党が政策運営において野党の意向を尊重すべきことは当然だ。それにもかかわらず福田政権は、野党の意向を無視した政策運営を強行した。

インド洋での自衛隊による給油活動、ガソリン暫定税率の復活強行など、自公政権は独断専行を貫いた。日銀首脳人事が混迷の極みを示したのも、福田首相が野党の提示した財務省からの天下り人事排除という明確な方針を拒絶しつづけたために生じた失態だった。

自民党が政権担当能力を失い、二代にわたって政権を放り出したことは紛れもない事実である。福田首相は新政権樹立後に直ちに解散総選挙を実施することを含んで首相を辞任した。後継首相に就任した麻生首相は、月刊誌に臨時国会冒頭での衆議院解散を明確に宣言した。

米国のサブプライム金融危機に端を発する世界的な金融市場の動揺が広がっている。機動的な政策対応が必要であることは事実だが、本格的な政策対応を実行するには本格的な政治体制が確立されていることが必要だ。米国は金融危機の震源地であるが、大統領選挙を実施し、政治体制大転換の方向を確定した。

日本の政治運営における最重要の政策決定は予算編成と決定である。2009年度予算の国会審議を始める前に政治の新体制を確立することが不可欠だ。衆参ねじれ状態が持続する以上、国会審議が紛糾することは避けられない。迅速な政策決定、強力な政策実行体制が求められる局面で、国政の混迷が持続することは国民に大きな不利益をもたらす。

麻生首相は自分の言葉に責任を持つべきである。小泉元首相が政権公約を守らなかったことについて、「この程度の約束を守れなかったことは大したことではない」と開き直って以来、日本の政治責任者の言葉は重みを完全に失ってしまった。

麻生首相は臨時国会冒頭での衆議院解散を実行しなかったことで、出鼻から「有言不実行」の行動様式を示してしまった。「全世帯に」給付すると断言した給付金に、所得制限を設けるかどうかで紛糾している。3年後に消費税増税を実施すると明言した直後に、曖昧な言い回しをし始めた。

このような言動を繰り返せば、何を発言しても信用されなくなるだろう。政治に求められる最大の資質は信用と信頼だ。参議院の予算委員会で民主党の石井一副代表が麻生首相の言行不一致を糺したが当然の追及である。

細田自民党幹事長が11月の総選挙実施を示唆する発言を繰り返したのは、野党議員が総選挙への準備態勢に急傾斜することをあおるためであったと考えられる。選挙への準備態勢を整えるには経済的負担を伴う。野党議員の資金を枯渇させるための三文芝居が演じられたのだとすると、その姑息さには論評する言葉もなくなる。

その細田幹事長が来年4月以降の総選挙と言い始めたことから、逆に年末解散の可能性が強まりつつあるのかとも感じられる。

言葉に対する責任感を失い、国民の幸福ではなく、政権維持という私的な利益だけを追求する政治姿勢を国民は冷静に見極めなければならない。麻生首相が説明した追加景気対策からは、国民生活の詳細を見つめ、真に必要とされる政策をきめ細かく実行しようとする政府の姿勢はまったく感じられない。

「村野瀬玲奈の秘書課広報室」様が、10月30日の景気対策発表の麻生首相会見の詳細について、的確な論評を示されている。

2兆円もの国費を投入するなら、日本経済の現状のなかで本当の苦しみに直面する人々の生存権をしっかり支える施策に、集中的に政策を対応すべきである。

障害者自立支援法が障害者の生存権を脅かしていることは、最近提訴された訴訟でも明らかにされている。医療を必要とする国民に医療が提供されない非情な状況が日本全体に広がりつつある。生活保護に対する締め付けが強化され、多くの国民が経済苦を原因とする自死に追い込まれている。

麻生首相は10月26日の秋葉原街頭演説で非正規雇用から正規雇用への移行を推進する方針を示したが、抜本的な施策は示されていない。村野瀬玲奈さんも指摘しているが、10月7日の衆議院予算委員会での志位和夫共産党委員長が提起したトヨタ自動車の派遣期間3年規制に関する偽装疑惑に対しても明確な答弁は示されていない。

限られた財源を活用して、労働者の生活向上、生活安定化に向けた施策を最大限工夫することが求められる。1回限りの給付金が支出され、3年後には消費税が大増税されるのでは、生活は安定化するどころか疲弊するばかりだ。

麻生政権はその一方で、法人税減税の方針を提示し始めた。自公政権が「政治」、「特権官僚」、「大資本」、「外国資本」、「メディア」の「政官業外電の利権互助会」の利権維持、拡大を指向していることが鮮明に示されている。

麻生首相は11月9日に渋谷の居酒屋で若者との会食に出席したパフォーマンスをテレビメディアに放映させたが、会食の話題は相も変らぬマンガ談義だった。世界経済が激動する局面では、寸暇を惜しんで情勢分析する机上での仕事や情報収集が必要と推察されるが、そのような時間を確保しているようには見えない。因みに居酒屋会合の若者は自民党学生部からの動員だった。

 

麻生首相は自公政権が無責任に政権を放り出した不祥事を背負って発足した政権の首相であるとの出発点を肝に銘じるべきである。政権発足時に国民に対して解散総選挙を宣言した事実は厳然と残っている。無責任な言動を繰り返し、解散総選挙実施という最優先の課題を疎(おろそ)かにする行動に対して、国民が厳しい視線を向けていることに気付くべきだ。「公」の国政を「私」にしてはならないと感じる。

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