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2008年11月30日 (日)

評価できる麻生首相の分かりやすさ

「カナダde日本語」の美爾依さんが「党首討論:小沢の圧倒的勝利で終わる」で、党首討論の総括を示してくださった。「きっこのブログ」様が実施した緊急アンケートを紹介されたが、11月30日午前10時45分時点で、アンケート結果は5660票対484票で小沢一郎民主党代表の圧勝を示している。

麻生首相は首相に就任した直後の臨時国会冒頭での衆議院解散に合わせて月刊誌で解散総選挙を宣言する小細工を施していた。実際、自民党はお祭り騒ぎに仕立てた自民党総裁選の勢いに乗って総選挙を実施する判断を固めていた。

ところが、自民党が実施した選挙予測調査で自民党惨敗予想が示されたために、麻生首相は一転して総選挙から逃げの一手に転じた。たまたま深刻化した世界的な金融市場の激動の流れに、「渡りに船」と飛び乗った。10月30日には追加景気対策を発表して、「政局より政策」の大義名分を掲げて総選挙を先送りする方針を示した。

総選挙を先送りする体裁を整えるためには、景気対策に全力をあげる政策運営スタンスが不可欠だった。麻生首相は記者会見で「ポイントはスピード、迅速に」と強調した。当然、臨時国会への第二次補正予算案提出が求められた。

ところが、補正予算案の目玉と位置づけた定額給付金に対する国民の評価が最悪だった。定額給付金政策の迷走に麻生首相の問題発言が重なり、また、麻生首相の首相としての能力不足が鮮明になり、自民党は臨時国会での麻生首相失脚、追い込まれ解散を警戒した。

大島理森国会対策委員長、細田博之幹事長、菅義偉選挙対策副委員長などの強い誘導で、麻生首相は補正予算案の国会提出を来年にまで先送りすることを決定した。麻生首相の決断の根拠は「政策より政局」=「公より私」だった。

党首討論はこの事実関係を誰の目にもはっきりと示すものだった。麻生首相がどのように言い逃れしようとも、麻生政権が国民生活を二の次にして、政治の責任をかなぐり捨てて政権の延命だけを追求していることが鮮明に示された。

「きっこのブログ」様が実施した緊急アンケート結果には、党首討論の客観的評価が明確に示されている。党首討論の内容については、「晴天とら日和」様が情報を分かりやすく整理してくださっている。

国民は政治の主権者だが、総選挙で誤った判断を下してしまうと、最長4年間、悪政に苦しむことになる。2005年9月の劇場型郵政民営化選挙で自民党に多数の議席を与えてしまったために、日本社会は根底から改悪されてしまった。自民党の首相が無責任に政権を何度も放り出しても、低次元の発想しかできない首相が国民の幸福実現を目指さずに首相の地位に居座ることだけに執着しても、国民にはなす術(すべ)がない。

こうした深刻な経験を踏まえて、次期総選挙では誤りのない選択を示さなければならない。政権を選択する基準は政策であり、基本政策に三つの対立軸がある。以下に示す対立軸を改めて確認する必要がある。

①弱肉強食奨励VSセーフティーネット重視
②官僚利権死守VS官僚利権根絶
③対米隷属外交VS自主独立外交

このことは以下のように置き換えることができる。
①は「大資本の利益VS国民の利益」
②は「官僚の利益VS国民の利益」
③は「外国(資本)の利益VS国民の利益」

第一は、「弱肉強食奨励」VS「セーフティーネット重視」である。小泉竹中経済政策が推進した弱肉強食奨励政策。大資本の労働コスト削減への猛進を小泉政権が全面支援した。その結果、分配における格差が拡大した。2002年から2007年の景気回復期に大企業は史上空前の利益を獲得したが、勤労者の所得は減少した。非正規雇用労働者、年間所得が200万円以下の世帯が激増した。

11月30日のテレビ朝日番組「サンデープロジェクト」に出演した竹中平蔵氏は、格差拡大の各種データを突きつけられたが、「改革を継続しないからこのような問題が起こるんだ」と訳の分らない言葉を繰り返すだけで、質問にまったく答えられなかった。

麻生首相は、この状況を放置したまま、2012年度に消費税率を大幅に引き上げる方針を発表した。官僚利権を温存したまま、国民に巨大な負担を押し付ける方針を示している。その一方で、法人税を引き下げる方針を示唆している。

小泉政権が日本社会に強制した「市場原理主義」=「弱者切捨て」=「新自由主義」が日本社会を変質させた。「セーフティーネット」を強化し、すべての国民の生活安定を重視する「福祉社会」重視の方向に政策を転換することが求められている。

第二は、「官僚利権死守」VS「官僚利権根絶」だ。麻生政権は財務省の天下り構造をそのまま温存する姿勢を示している。財務省にとっての天下り御三家は日本政策投資銀行、国際協力銀行、日本政策金融公庫である。麻生政権はこれらの機関への財務省からの天下りを完全に容認している。

また、政府は公務員制度改革の具体化を進めているが、内閣人事局の設置を2010年度に先送りすることを決定した。各省庁に付与されてきた人事権を内閣人事局に移管し、内閣府が人事権を確保する制度変更だが、実施が先送りされた。

先送りのポイントは、制度変更を総選挙後への先送りにある。選挙が終わってしまえば、内容の修正が可能になる。つまり、人事権の移管を実行する意思がないことを示している。

第三は「対米隷属外交」VS「自主独立外交」だ。小泉政権の経済政策は外国資本に巨大な利益を供与する政策だった。詳細は拙著『知られざる真実-勾留地にて-』をご高覧賜りたいが、日本の資産価格暴落誘導、不正と欺瞞の「りそな銀行救済」、優勢民営化政策は、すべて外国資本への利益供与政策であったと考えられる。

自公政権の対米隷属スタンスは、その後の政権も継承している。麻生政権は日本国民に巨大な損失を強制している100兆円のドル建て外貨準備資産を放置し、さらに、外貨準備から10兆円をIMFに拠出する方針を国会の了解も取らずに発表した。

サブプライム金融危機が市場原理主義の帰結であることは明らかであり、欧州を中心に金融市場に対する監視強化論が唱えられているにもかかわらず、麻生首相は米国の飼い犬のように市場原理主義への擁護発言を示した。

麻生首相はサミット議長国首相として、日本での金融サミット開催を提唱したにもかかわらず、11月開催は米国、来春開催は英国となり、発言が完全に無視されている。米国のイラク軍事侵攻の正当性が否定されているにもかかわらず、日本政府は米国にものを言えない状況を維持している。

日本国民の利益を最重視した外交が求められているが、自公政権は対米隷属を修正しようとしない。郵政会社株式が上場され、売却される株式が外国資本に支配されれば、日本国民の貴重な優良資産、350兆円の金融資産が根こそぎ外国資本に収奪されてしまう。日本郵政株式の上場および株式売却をまず凍結しなければならない。

麻生首相の政治姿勢の最大の問題は、「国民の利益」を重視していないことだ。「国民の利益」=「公」ではなく、「私」の利益が優先されている。不況が深刻化し、追加景気対策が論議されると、国民は目先の景気対策に惑わされて本質を見失いがちになるが、総選挙で正しい判断を示さないと、また苦しみの4年間を迎えてしまうことになる。

麻生首相を評価できるのは、麻生首相が国民の利益を重視していないことを、言葉の端々に分かりやすく表している点だ。国民の利益をまったく考えていないのに、国民の利益を優先しているかのような言葉の偽装を巧みに演じる過去の首相の方がたちが悪い。麻生首相が今後も、「公よりも私」の基本姿勢を率直に表出し続けてくれれば、次期総選挙で国民が再び判断を誤ることを防止できる。

政権交代を実現しなければ日本の世直しは進まない。国民は総選挙まで気を緩めずに対応し続けなければならない。

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