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2008年11月28日 (金)

党首討論が示した麻生首相「公より私」の政治姿勢

11月28日午後3時、麻生太郎首相と小沢一郎民主党代表による党首討論が、衆議院第一委員室で開催された。

麻生首相は質問に対して正面から答えず、筋の通らぬ主張を最後まで押し通した。客観的に見て、小沢代表の主張が理に適(かな)っていることが明確になった。麻生首相は国民の幸福でなく自分の幸福だけを考えていることが鮮明になった。

国民は麻生首相の政治姿勢を冷静に見つめ、日本の命運を決することになる次期総選挙で誤りのない審判を下さなければならない。麻生首相が解散権を私物化してしまっている以上、衆議院の解散、総選挙が実施される時期は不透明である。

麻生首相は国民生活よりも、自分自身の私的な利益を優先して、政権に最も有利なタイミングを見計らって総選挙を実施するのだと考えられるが、総選挙の時期がいつになろうとも、国民は冷静で的確な判断を示さなければならない。

党首討論での論点は以下の3点だった。
①麻生首相が「世界で一番早く景気対策に手を付けた国である」と述べた問題
②年末までの対応について、麻生首相が「今回の9兆円で年末は一応できるのではないか」と述べた問題。
③小沢代表が「来年に2次補正を送っているわけですから、12月に十分選挙できるじゃないですか」と述べた問題。

第一の「世界で一番早く景気対策に手を付けた国である」との麻生首相の発言は事実に反する。米国のブッシュ政権は本年1月18日にGDP比1%規模の緊急景気対策の骨子を発表し、2月13日に2年間で1680億ドル規模の、戻し減税を中心とする景気対策を成立させた。本年春から実施されている。これが、「世界で一番早く景気対策に手を付けた事例」である。

日本の対応は8ヵ月以上遅れている。補正予算の規模は1.8兆円で米国の10分の1である。麻生首相が自慢して発言する内容でない。

第二の「9兆円の対策で年末の対応ができる」の発言は、信用保証協会を活用した特別保証制度の資金枠を9兆円設定したことを指しているが、この施策で年末に向けての経済困難が解消されると考える者はいない。

小沢代表が指摘したように、中小企業の資金繰りが一段と深刻化しているだけでなく、不況進行によって国民生活の困窮が日を追うごとに深刻化している。

厚生労働省は本年10月から来年3月までの期間に非正規雇用労働者が3万人、雇用を喪失するとの見通しを公表した。調査対象に含まれない雇用喪失者も多数発生すると見込まれる。

2008年の上場企業倒産はすでに30社に達し、戦後最多になった。日本IBMが正規社員の1000人削減方針を打ち出すなど、雇用削減の動きは正規雇用にまで波及し始めている。

年末を控えて、どれほど多くの国民が経済悪化に心を痛めているのかを、麻生首相は少しでも考えたことがあるのか。安心できる生活の基礎は雇用の確保だ。中小零細企業経営者にとっては、企業を倒産させずに存続させることが死活問題だ。

首相は、国民生活を守るために全身全霊を注ぐべき存在だ。自分は安全な場に居座り、バー通いしつつ、国民生活を守るための行動をサボタージュするような首相には、直ちに退場してもらいたいと思うのが、不況に苦しむ一般国民の心情だ。

臨時国会に提出できる補正予算案をたなざらしにして、来年まで先送りする理由は皆無(かいむ)である。小沢代表は麻生首相に補正予算案提出を来年まで先送りする理由を繰り返し尋ねたが、麻生首相から説得力のある説明は一切示されなかった。

第三の、総選挙先送りについて、小沢代表は「初心に帰る」べきだと述べた。おそらく「初心」は「所信」への掛け言葉なのだろう。麻生首相は10月10日に発行された月刊誌に臨時国会冒頭での解散を明確に宣言した。

自民党の首相が二代にわたり政権を放り出し、国民の審判を受けずに3人目の首相が政権を組織した。政権を放り出した2人目の首相である福田前首相は、後継の麻生首相に早期の解散総選挙実施を申し送った。麻生首相自身が「総選挙に勝利して初めて天命を担える」と明言した。

自公政権が二代にわたって政権を放り出し、主権者である国民に大きな迷惑をかけたのは紛れもない事実だ。これらの不祥事を通じて、自民党自身が国民に対して、総選挙で国民の審判を受ける必要があるとの明確なメッセージを示してきたのではないか。

麻生首相は、首相に居座り、総選挙を先送りしていることは、議会制民主主義のルールに則(のっと)る正当な行動で、問題があると言われる筋合いはない、との主張を示した。

麻生首相は指摘された問題に対して正面から回答することを避けた。逃げた。麻生首相が自ら発した言葉で、また、自ら記したのかは分からないが少なくとも自らの氏名を冠して発表した文章で、早期の解散総選挙実施を宣言した。小沢代表が政治家は言葉の重みをかみしめるだと諭(さと)したのは当然のことだ。しかし、麻生首相が小沢代表の言葉の意味を理解できたかは定かでない。

麻生首相は、第1次補正予算で年末までの景気対策が十分であるとの趣旨の発言を繰り返した。小沢代表は、麻生首相がそのように判断するなら、12月に総選挙を実施できるではないかと指摘した。

麻生首相は100年に1度の暴風雨が荒れているから景気対策を優先したという。第1次補正予算で年末までの対応が完了したと判断し、第2次補正予算案の国会提出を2009年に先送りしても問題がないと判断するなら、早期の解散総選挙実施を宣言した麻生首相が12月に総選挙を実施することが、矛盾のない行動である。

麻生首相は年末資金の貸し手の行動に影響を与える「金融機能強化法」の採決を民主党が先送りしたことに対して、この法律成立を求めることを執拗に繰り返した。しかし、麻生政権が言葉に責任を持つ行動を示すなら、問題はたちどころに解消するはずだ。民主党は、審議をいたずらに引き延ばす対応をしないことを確約している。

結局、麻生首相は自民党惨敗の可能性に脅(おび)えて、自分が高らかに宣言した解散総選挙から逃げ回っているだけである。問題は、麻生首相の「私」的利益を追求する行動が、罪なき国民の生活を深刻に脅かし、苦しめていることだ。

不況深刻化に対して、すべての「私」を取り払い、「公」のために、「国民」のために全身全霊を注ぐのが、あるべき為政者(いせいしゃ)の姿だ。麻生首相の政治姿勢は「政局より政策」でなく、「政策より政局」=「公より私」である。

歪んだ現状を是正できる唯一の方法は、次期総選挙に際して、国民が正しい判断を下すことである。国民は今日の党首討論で改めて確認した麻生首相の「公より私」の政治姿勢を忘れてはならない。

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