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2008年11月13日 (木)

憲法違反の外国為替資金特別会計

麻生政権が外貨準備から10兆円の資金をIMFに拠出する方針を決めたことが報道された。外貨準備は麻生首相のポケットマネーではない。理念も哲学もない定額給付金支給も外貨準備の流用も、国民の貴重な財政資金を私有物と勘違いしているとしか思えない。

日本国憲法第7条の天皇の国事行為に列挙されている衆議院の解散を根拠に、内閣総理大臣に衆議院の解散権があるとの解釈は存在するが、与党の党利党略を満たすために解散権が行使されることが容認されているわけではない。衆議院の解散は国民の利益を満たすために実施されるもので、「私が決めさせていただきます」と私的な権利として取り扱うことは権力の濫用である。

外貨準備は為替レートの安定を確保するために活用されるものだ。ドルが急上昇する場合には、外貨準備で保有するドルを為替市場で売却し、急激なドル上昇を回避する。ドルが急落し、円が急上昇する局面では、外為市場でドルを買い入れ、ドル安進行を回避する。その蓄積が外貨準備である。

均衡の取れた為替レートを想定し、現実の為替レート変動において、ドルが下落しすぎる局面でドルを購入し、ドルが上昇しすぎる局面でドルを売却する。適正な外貨準備の保有量を念頭に入れて、安く購入したドルをドル上昇局面で売却するのが本来の姿だ。このように対応すれば、外為会計で利益を計上することはあっても、損失を生むことは限定的になる。

したがって、外貨準備を膨大な規模で蓄積する理由は存在しない。膨大な外貨準備を保有することは、巨大な為替リスクを野晒(ざら)しにすることを意味するから、外貨準備の規模は極力圧縮すべきである。とりわけ、中期的にドル下落が予想されるなら、なおさらドル保有量を極力圧縮すべきだ。

日本政府は約100兆円もの外貨準備を保有している。竹中平蔵氏が金融相を兼務することになった2002年10月から2004年3月までの1年半に外貨準備残高は一気に47兆円も増加した。理解不能な巨額の資金が米国に提供されたことになる。

財務省が10月29日に明らかにしたところによると、円高進行により、外国為替特別会計の評価損が23.9兆円に達したとのことである。外為特会の剰余金の積立金が19.6兆円存在することも明らかにされたが、両者を差し引いても14.3兆円の損失が発生している。

国家財政が疲弊し、国民に対するセーフティネットが次から次へと切り込まれ、国民負担増加策が激しい勢いで実施されるなかで、外為特会での巨額損失が容認されるわけがない。これだけの損失を計上しながら、10兆円もの資金を海外の金融危機への対応に流用することを政府が独断で決定することも無論容認されない。

外国為替資金特別会計の運用そのものに重大な問題が存在する。国民資金を扱い、巨大な損失を発生させる可能性がある以上、その取り扱いには国会による厳重な監視が不可欠である。しかし、現状の法制では、このことが十分に担保されていない。

日本国憲法には次の規定がある。

83条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

85条 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。

これに対して、外国為替資金特別会計法に以下の規定がある。

(設置)

第一条 政府の行う外国為替等及びこれに伴う取引を円滑にするために外国為替資金を置き、その運営に関する経理を一般会計と区分して特別に行うため、特別会計を設置する。

(外国為替資金の運営)
第五条 外国為替資金は、外国為替等の売買に運用するものとする。

外国為替資金を管理する主務大臣は財務大臣で、財務大臣が「政府の行う外国為替資金及びこれに伴う取引を円滑にする」ことを目的に、外国為替資金を保有して運営しているのである。

この規定に従い、財務省は、全額日銀からの借金で、100兆円の外貨準備を保有し、財務大臣、内閣の一存で、10兆円の資金のIMFへの拠出などの流用を決定している。

外国為替資金特別会計の運用の実態は、日本国憲法第83条、および第85条に反していると言わざるを得ない。これだけの巨額の財政資金の取り扱いが、国会議決事項でなく、財務大臣、内閣の一存で決定されてしまうのでは、財政資金に対する国会の監視が届かない。

10月27日付記事「森田実氏が入手した「米国国債を売らない約束」」に記述したように、小泉元首相はブッシュ大統領に「米国国債を売らない約束」をした可能性がある。小泉政権下の2002年10月から2004年3月にかけての47兆円におよぶドル買い介入は、日本政府から米国への47兆円もの資金提供であった可能性が高い。

「返済のない融資」は「贈与」と同一である。日本国民に100兆円の資金を米国に贈与する意思はまったく存在しない。国会のチェックが入らない制度の抜け穴を利用して、日本政府が100兆円の資金を米国に供与したのであれば、日本国民に対するとてつもない背任行為になる。

財務省が外貨準備で23.9兆円の評価損を計上したことを発表した直後に、10兆円の外貨準備を国際金融危機対策に流用することを発表するのは、麻生政権が日本国民をなめきっている証左としか言いようがない。

10月10日のワシントンG7、11日のIMFCで、中川財務相兼金融相が日本の外貨準備を活用した金融危機対策発動の意向を表明したが、先述した通り、日本国憲法の規定に反する行動と言うべきものだ。国会の議決を経ずに、外国政府と条約を締結するような行為は認められるべきでない。

外国為替資金特別会計は独自に事務経費を計上し、官僚が経費を使用している。巨額の海外渡航費用が計上され、財務省官僚が海外渡航に利用している。外為特会の規模拡大、予算拡大は、財務官僚の利権拡大を意味している。

日本国民に対する社会保障政策が、国民の生存権を脅かす程度にまで切り込まれ、国民が耐乏生活を強いられているときに、ざるに水を注ぐような杜撰な資金管理が許されるはずがない。野党は、外為資金特会の巨額損失の責任を徹底追及しなければならない。

非正規雇用労働者、働く貧困層、障害者自立支援法に苦しめられる障害者、高齢者、母子世帯、中小企業、生活保護圧縮、など、国内で必要不可欠な施策が冷酷に切り込まれている。麻生首相が国際会議で得点を稼ぐために、国会の了承も得ずに国民に犠牲を強いることは許されない。

今回の20ヵ国首脳会議に向けて、欧米首脳は日本政府に外貨準備資金を拠出させる相談を公然と進めてきた。いじめ問題で取り上げられる「いじめる者によるいじめられる者に対するかつあげ」の構造が透けて見える。日本の金融機関も株価下落が進行すれば、深刻な自己資本不足に直面する。海外諸国に資金贈与する余裕は存在しない。

直ちに求められることは、外国為替資金特別会計法の改正である。100兆円規模のリスク資金を扱う外為資金が国会の議決を経ずに運用される現状は、明らかに日本国憲法に反している。外為資金の取り扱いの全体を国会監視下に移さなければならない。また、麻生首相は国際社会で10兆円の外貨準備流用を表明する前に、国会での了解を取ることが不可欠だ。

野党は国会で、この問題を最優先事項として審議するべきだ。また、100兆円の外貨準備残高を、損失を生じさせずに、20兆円程度の規模に圧縮すべきである。日本国民が100兆円の資金を米国に供与するいわれはまったく存在しない。

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