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2008年10月13日 (月)

デリバティブ金融危機の津波は残存する

10月10日に開かれたG7主要7ヵ国財務相・中央銀行総裁会議は行動計画を決定し、公表した。共同通信が配信した行動計画の要旨は以下の通り。

一、現在の状況は緊急かつ例外的な行動を必要としている。世界経済の成長を支え、金融市場の安定と資金の流れを回復するため共同作業を続けると約束。

一、金融システムで重要な金融機関の破たんを避けるため断固とした行動を取り、あらゆる利用可能な手段を活用。

一、金融市場の機能を回復し、金融機関が資金調達するのに必要な手段を講じる。

一、金融機関が信用を回復し、家計や企業への貸し出しを継続できる十分な量で、公的資金と民間資金により資本を増強できるようにする。

一、預金者が預金の安全性への信認を保てるよう、各国の預金保険制度を強化する。

一、証券化商品市場の再開に必要な行動を取る。適正な資産評価、透明性の高い情報開示、質の高い会計基準が必要。

一、マクロ政策手段を活用。金融危機の影響を受ける国を支援する国際通貨基金(IMF)の役割を強く支持。金融安定化フォーラムの提言実行を加速。

一、計画完遂へ協力を一層強化、他国と協働。

G7行動計画を受けてユーロ圏15ヵ国は10月12日にパリで緊急首脳会議を開催し、包括的行動計画を決定した。以下は共同通信配信の報道内容だ。

【パリ13日共同】

欧州で拡大する金融危機への対応をめぐり、ユーロ圏(15カ国)首脳は12日、パリで緊急会議を開き、経営難の金融機関に公的資金などを使って資本注入することや、来年末まで金融市場での銀行間取引を政府保証することを明記した包括的な共同行動計画を策定した。

欧州連合(EU)議長国フランスのサルコジ大統領は会議後の記者会見で「例外的な金融危機にためらいは許されない」と述べ、ドイツ、フランス、イタリアのユーロ圏主要国が今回の計画に沿った個別の対応策を13日中に公表し、各国が早期に実施に踏み切るとの見通しを強調した。

サルコジ大統領はブリュッセルで15、16の両日に開くEU首脳会議後に、主要国(G8)に中国、インドなど新興国を加えた緊急首脳会議を開くことで米国の理解を得ていることも明らかにした。

行動計画は金融機関の資本増強に関し「民間資本による増強を優先する一方、政府自身も資本注入に関与する」と表明。資金繰りが苦しい金融機関の資金調達支援や、資本注入を受けた金融機関の経営責任の明確化、リストラ計画策定も盛り込んだ。

(ここまで転載)

金融危機が深刻化すると、「金融恐慌」と「自己責任原則放棄」の二者択一を迫られることになる。「究極の選択」である。通常の政治判断では「金融恐慌」を選択できないから、「自己責任原則放棄」が選択されることになる。

金融機関に対する「破綻前資本注入」がモラルハザード(=倫理の崩壊)を引き起こすことを見落としてはならない。一般の事業会社が経営に失敗し、破たんの危機に直面しても、政府から資本増強の支援を得ることはない。米国のGMなどの大企業が今後どのように取り扱われるのかは不透明だが、企業の経営破たんの責任は、当事者が負うことが基本原則である。

金融機関に対する無制限、無尽蔵の資本注入が実施されれば、金融危機は回避される。しかし、この措置が「自己責任原則の崩壊」をもたらすことを忘れてはならない。

各国当局の資本増強策推進についての合意を受けて、世界の株式市場は一時的に株価反発の反応を示すことが予想される。金融機関の破たんの連鎖が、当面は、政府による資本増強策によって回避されるとの見通しが広がるからだ。

しかし、事態を楽観視することはできない。理由は三つある。

第一は、問題の根源である米国の不動産価格下落が今後も持続する可能性が高いことだ。米国の住宅価格はS&Pケースシラー住宅価格指数によると、全米主要10都市で、2006年6月から本年7月までに21.1%下落した。しかし、米国の住宅価格は本年7月までに1994年2月から3倍に、2000年1月からは2.26倍に上昇しており、価格下落はまだ4合目に差しかかったところである。

2010年にかけて、米国の不動産価格はさらに2-3割程度下落する可能性が高く、住宅価格下落に伴う証券化金融商品価格下落に伴う損失が拡大し続ける可能性が高い。10月8日付記事「日米株価急落と金融危機の深層」10月10日付記事「日米株価暴落と公的資金投入のあり方」に記述したように、「デリバティブ金融」で創出された「バーチャルな投資元本」は幾何級数的に拡大しており、金融機関の最終損失の規模がどこまで拡大するのかが、現段階では十分に把握されていない。巨大損失の津波到来が、幾重にも残されている可能性が高い。

第二は、金融機関に対する「破たん前資本注入」が金融機関救済を意味するため、議会や国民の反発を生む可能性が高いことだ。国民は金融システムの安定確保を望むけれども、責任ある当事者を税金で救済することには賛成しないからだ。

実質破たん金融機関を存続させる基本手法は一時国有化である。金融危機に対する対応の基本原則として、かつては“TOO BIG TO FAIL”=「大きすぎるから潰せない」の原則が掲げられた。1984年のコンチネンタル・イリノイ銀行の救済はこの考え方に基づいた。

しかし、この原則では、責任ある当事者が税金により救済されることになるため、「モラルハザード」を引き起こすとして、強い批判が生まれた。

“TOO BIG TO FAIL”に代わり、新たな基本原則とされた考え方は、“TOO BIG TO CLOSE”=「大きすぎるから閉鎖できない」の原則である。「経営体としての金融機関の破たんを容認するが、金融システムに組み込まれている金融機関の活動は存続させる」との考え方である。

株式価値を「ゼロ」として、政府が金融機関を国有化し、必要な資本増強等の措置を講じたうえで、金融機関の活動を存続させる。「一時国有化」の措置は、自由主義経済の根本原則である「自己責任原則」を維持するとともに金融システム崩壊を回避するための方策である。

米国では、コンチネンタル・イリノイ銀行救済への反省から、“TOO BIG TO FAIL”の原則が放棄されてきたはずである。3月のJPモルガン・チェースによるベア・スターンズ社買収に際しても、買収価格は下落した株価を基準に設定されており、株主責任が問われている。

米国において「破たん前資本注入」が実際に実施されるのかどうかは予断を許さない。仮に実施されるとしても、その手法決定には、十分な論議が必要になるだろう。

第三は、銀行間信用に政府保証を付けることが打ち出されたが、この措置も、典型的なモラルハザードの問題を引き起こすことだ。信用リスクの高い金融機関は短期金融市場での資金調達が困難になっている。資金を調達しようとすれば高い金利を支払う必要が生じる。

政府保証がつけば、政府の信用リスクに見合う金利で資金を調達できることになる。たしかに、資金繰り倒産発生のリスクは低下するが、金融機関の経営健全化への努力は不要になってしまう。これを「モラルハザード(=倫理の崩壊)」と呼ぶ。

個人に置き換えれば分かりやすい。多重債務を抱えて、普通の金融機関ではお金を借りることのできなくなった個人の借金に、政府が保証を付けるというのだ。多重債務者で、返済に対するリスクが限りなく高くても、貸金業者は政府が保証してくれるなら、無制限、無尽蔵に融資を実行するだろう。多重債務者は政府保証による借金を激増させるだろう。これで、金融市場の健全性は確保できるのか。

世界の主要国は「金融恐慌」のリスクに怯(おび)えて、税金による金融機関救済の道に大きく一歩足を踏み入れた。「金融システムの安定」を確保しなければならないのは当然だが、「モラルハザード天国」を創り出すことの弊害も大きい。両者を両立させる対応策が十分に検討されていないことが、重大な問題である。このことが、今後の金融問題処理において大きな障害になることが予想される。

日本政府は1兆ドルの外貨準備を活用した問題解決への取り組みを表明しているが、外貨準備は国民資産である。政府の私有物ではない。米国は問題処理に際して、日本の拠出する資金を念頭に置いていると考えられる。日本政府が米国の言いなりになって、外貨準備を国民の同意を得ずに流用することは許されない。

学費や渡航費として預かった顧客資金を、破たんしそうな企業経営の運転資金に流用した外国留学斡旋会社が破たんしたが、同じような行動になる。

小泉政権以来、日本外交は対米隷属、対米従属を基本路線に据えてしまっているが、この政策路線が日本国民の利益を喪失させてきた。郵政民営化、大義なきイラク戦争への加担、北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除の米国独断での決定、など、日本は米国に隷属するだけで、重要問題での連絡も受けず、協議にも関与できす、国民の利益を喪失させ続けている。

米国は、日本の350兆円の郵貯・簡保資金、日本郵政保有の巨大不動産、日本の1兆ドルの外貨準備に食指を動かしている。米国に隷属し、日本国民が米国に搾取される構造に対して、早急に歯止めをかけなければならない。この点に関しては、民主党内部にも対米隷属勢力が存在することを指摘しておかなければならない。

日本の外貨準備の位置づけ、これまでの経緯、今後の方策については、十分な論議が強く求められる。この問題については、改めて論じる。 

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