« 国会論戦で表出する麻生政権の問題点 | トップページ | 文藝春秋麻生首相解散宣言で11月23日総選挙へ »

2008年10月 8日 (水)

日米株価急落と金融危機の深層

10月8日の日経平均株価が前日比952円下落して9203円に達した。2003年12月以来、4年10ヵ月ぶりに1万円の大台を割り込んだ。10月7日のNY株式市場ではNYダウが508ドル下落し、9447ドルに達した。2003年9月以来、約5年ぶりの安値を記録した。

日米市場だけでなく、アジア、欧州を含め、グローバルに株価下落が連鎖している。米国では10月3日に7000億ドルの公的資金投入を柱とする金融安定化法が成立したが、株価下落に歯止めをかける効果を発揮していない。

日本円に換算して70兆円もの巨額の公的資金を注入する方針が示されているのに、株価が下落し続けているのはなぜか。日本では、米国のような金融不安が広がっていないが、株価は米国に連動して下落している。
 日経平均株価は昨年7月9日の18261円から、本日10月8日の9203円まで、9058円、49.6%下落した。NYダウの下落は、昨年10月9日の14164ドルから10月7日の9447ドルまでの4717ドル、33.3%である。日本の株価はピークから半値になり、米国の株価はピークから3分の1下落した。金融不安の震源地の株価下落率が小さい。

グリーンスパン前FRB議長は、100年に一度の金融危機であると述べている。1929年に始まったNYの株価暴落では、株価が約9割下落した。今回の金融危機が1920年代の危機の再来になるのだろうか。

現段階では、目に見える混乱は株式市場に限定されているが、金融恐慌の恐ろしさは、金融市場の混乱がタイムラグを伴って実体経済に確実に波及する点にある。「資産価格下落-金融不安-経済悪化」が、断ち切れない「魔の悪循環」を形成する。実体経済の悪化は、倒産、失業、所得減少の形で、一般国民の生活をも直撃する。

「責任ある当事者が責任を負う」ことが、自由主義経済の基本ルールであり、問題発生源の金融機関が破たんするのは「自業自得」、「因果応報」ではあるが、金融恐慌の連鎖が罪なき一般国民の生活を直撃することに十分留意しなければならない。「責任論」を重視しながら、「一般国民を守る対応策」を考えなければならない。

米国の金融危機の基本背景は住宅価格の下落である。S&Pケースシラー住宅価格指数によると、全米主要10都市の住宅価格は1994年2月から上昇し、2006年6月までに、ちょうど3倍になった。2000年1月を起点とすると、2006年6月までに2.26倍になった。

米国の不動産価格は名目GDPの成長率に連動して上昇するトレンドを描いてきたが、2000年代に入ってからの上昇速度は極めて速かった。米国の政策金利であるFFレートは2003年から2004年にかけて、1%の低水準で推移した。2004年6月から、FRBは金利引き上げを開始したが、利上げのスピードは遅く、2006年にかけて、巨額の住宅融資が実行され、不動産価格が急騰した。

1980年代後半の日本と類似する「不動産価格バブル」が生まれたのだ。「バブル」は破裂する宿命を負っている。米国の住宅価格は2006年6月から下落し始め、本年7月までに21.1%下落した。

この不動産価格の下落に連動して問題が噴出している。

日本では1980年代の後半に株価、地価が急騰した。株価は1986年の年初から89年の年末までに、約3倍に上昇した。不動産価格は株価に対して約1年遅れて、87年年初から90年の年末にかけて、やはり3倍程度に上昇した。商業用不動産では5倍から10倍に上昇したものも多かった。

1987年から1990年までの4年間に金融機関の融資残高は100兆円から200兆円増加した。「銀行」と名の付く金融機関からの融資が100兆円、銀行と名の付かない金融機関およびノンバンクからの融資が約100兆円増えた。

この200兆円の資金が不動産や株式などの資産の取得に向けられた。ところが、1990年代に入り、資産価格が暴落した。200兆円で購入した資産が100兆円になれば、100兆円の損失が発生するし、70兆円になれば130兆円の損失が生まれる。

日本の場合、100兆円から150兆円の損失が発生したと考えられる。不良債権の処理が一段落したのは2005年ころで、仮に損失合計額が150兆円だったとすれば、1年あたり10兆円の資金を投入して問題を処理したことになる。それでも日本の株価は2003年まで下落し続けたから、2003年までは新たな不良債権が生まれ続けた。株価や地価が上昇に転じて、初めて不良債権処理は加速する。

この意味でも小泉政権が2001年から2003年にかけて景気悪化を推進して資産価格を暴落させたのは、最悪の政策対応だった。この政策で、日本経済は激しいいエネルギー消耗に直面し、日本の優良資産の大半を外国勢力に掠(かす)め取られてしまった。正確に言えば、小泉竹中経済政策は、外国勢力に日本を贈与するために、上述した経済破壊政策を実行したのだと考えられる。

話を本題に戻すと、資産価格下落に伴う損失処理額は、バブル価格での資産購入総額と資産価格下落率で、およその見当をつけることができるのだ。私は1996年段階で、不良債権の規模が100兆円から200兆円存在し、損失処理として50兆円から100兆円程度の資金が必要になるとの概算を念頭に置いて、問題処理の方策を提言した。

1997年2月のNHK「日曜討論」でも、この見解を表明した。番組に出演した吉冨勝経済企画庁調整局長(当時)は、「不良債権の規模が100兆円などとの冗談を言ってもらっては困る」、と鼻先でせせら笑った。当時の大蔵省は不良債権の規模を20兆円程度としていたのだ。

しかし、1997年に北海道拓殖銀行、山一証券などの経営破たんが表面化したのち、政府は不良債権規模が100兆円であることを認め始めた。

こうした基準に照らして考えると、米国の金融問題噴出を簡単には説明することができない。米国の住宅不動産価格は2006年6月をピークに下落に転じたが、本年7月段階でも、21%しか下落していない。サブプライムローンの残高は1.3兆ドル、約140兆円であり、すべてをピークで購入したとしても、その損失は30兆円に満たないのである。

米国政策当局は、ベア・スターンズ社買収に290億ドルの特別融資を実行、政府住宅公社救済に2000億ドル、AIG救済に850億ドル、金融安定化法で7000億ドルの公的資金枠をすでに用意した。これだけで100兆円を優に上回る。また、アブダビ、クウェート、サウジアラビア、シンガポール、中国などの政府系ファンドも昨年11月以来、兆円単位の資金を米国金融機関に投入してきている。

それにもかかわらず、金融市場の動揺がまったくおさまらない。その最大の理由は、「レバレッジ」である。「レバレッジ」とは「てこ」のことだ。「デリバティブ」と呼ばれる金融派生商品が急激に拡大した。「デリバティブ」の最大の特徴は、「投資元本」に対する「想定元本」が幾何級数的に大きいことである。サブプライムローンを原商品として、デリバティブが組成されることによって、巨大なポジション=想定元本が生み出されたのだ。その結果、金融商品の価格下落に伴う発生損失額が幾何級数的に拡大しているのだ。

「デリバティブ」に順風が吹くときに問題は顕在化しない。途方もない巨大利益を金融機関、トレーダーが謳歌したのだ。しかし、逆風が吹けば、惨事が発生する。その惨事がいま、少しずつ姿を表し始めている。

日本政府が日本の経験をもとに、「資本注入」を提言すべきとの意見が散見されるが、問題の属性が日本の金融危機と欧米の危機とで、まったく異なることを認識しなければならない。巨額の公的資金も「デリバティブ」の幾何級数的な損失の海においては、「大海の一滴」にしか過ぎない危険がある。

ゴールドマン・サックスの会長を務めたポールソン財務長官が、資本注入の必要性を認識していないはずがない。CDS(クリジット・デフォルト・スワップ)の市場規模だけでも60兆ドルに達していると見られる。金融派生商品の大海に、どれだけの魔物が棲み、潜んでいるのかが定かでないことが、問題解決の道筋を不透明にしている

2003年の日本で意図的に作られた金融危機では、問題が非常に単純であるなかで、最終的に「税金で銀行株主を全面救済する」との、「不正と欺瞞」に満ちた「自己責任原則を完全に放棄する」金融処理策がまかり通ってしまった。その結果、金融行政に取り返しのつかない「汚点」が残されたが、「金融恐慌」発生が回避された。

米国議会が安易な銀行救済を認めないことは、健全である。米国の問題処理に際しては、今後も「金融システムの安定確保」と「適正な責任処理」の両者が重視されながら、対応策が検討されてゆくものと考えられる。

しかし、金融問題の闇は深く、問題解決は容易でない。「市場原理主義」は「市場における自由放任」を容認してきた。この「自由放任」がコントロール不能の「デリバティブ金融商品の大海」を生み出す原因になった。

「市場原理主義」は「弱肉強食」を奨励し、金融市場の特殊な技法を活用して、労力を使わない「濡れ手に粟」の「一獲千金」の巨大利益獲得を「賞賛の対象」に祭り上げてきた。日本における「六本木ヒルズ族」に対する賞賛も同じ文脈上に位置付けられるだろう。

破たんしたリーマン・ブラザーズ社の旧経営者が2000年以降に494億円の報酬を得てきたことが明らかにされているが、こうした状況に対する素朴な疑問が否定されるところに、「市場原理主義」による「感覚の麻痺」が広がっていたことが表れている。

法外な巨大利得の裏返しが、逆境における、処理不能の巨大損失の発生なのだ。本来、自己責任での処理が求められるが、当事者に処理能力が存在しない。米国の金融危機に対して、米国政策当局は、時間をかけて、個別問題に丹念に対応してゆくしかないと考えられる。証券化商品の時価評価を緩め、問題を先送りしつつ、処理を進めてゆかなければならないのではないかと考える。問題解決の道筋は見えていない。

「市場原理主義」がもたらした「強者」と「弱者」の二極分化が問題発生時の利害調整を困難にしている点も見落とせない。納税者である「弱者」は、バブルに踊り、利得にとっぷりと浸かってきた「強者」のために公的資金を使うことを、決して許せないはずだからだ。

米国金融危機が「市場原理主義」=「新自由主義」に終焉をもたらす契機になることは間違いないだろう。しかし、その前に、いま存在する問題に対処しなければならない。米国の問題処理には、まだ多くの時間と多くのプロセスが求められると考えられる。株価下落がさらに進行するリスクは依然、小さくない。

日本が米国の言いなりになり、尻拭いさせられることを、十分に警戒しなければならない。安易なドル買い介入が巨額の国民負担を生み出してきた事実を忘れてはならない。日本の金融市場は現段階では相対的には安定しているが、世界の金融市場が不安定化すれば、当然強い影響を受けることになる。また、ドル建て金融資産の動向には最大の警戒が求められる。

 日本経済の悪化が加速している。不況深刻化の下での国民生活支援が政策の急務である。総選挙を早期に実施し、民主党中心の本格政権を一刻も早く発足させ、国民生活を防衛する万全の政策を早急に実行することが望まれる。

人気ブログランキングへ

ランキング

« 国会論戦で表出する麻生政権の問題点 | トップページ | 文藝春秋麻生首相解散宣言で11月23日総選挙へ »

サブプライム危機・金融行政」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 日米株価急落と金融危機の深層:

» 日経平均終値でも1万円割れ 株価はどこまで下がるのか&米国債は大丈夫なのか? [タクシードライバーの資格(司法書士&社労士)挑戦日記+α]
アメリカの金融安定化法案が下院で可決されも株価の下落は止まりません。 ニューヨーク市場のダウ工業株平均が10,000ドルを割り込み、ついに日経平均も1万円を割り込みました。 与謝野馨経済財政大臣は、日本経済は底固いとアメリカ発の金融危機を対岸の火事のように言ってまし... [続きを読む]

» デリバティブという同一性主義金融主義の幾何級数的バブル:近代主義の終焉とトランス・モダン自由主義 [Japonesian Trans-Apocalypse:Trans-Modern New Platonic Trans-Creation]
以下の「サブ プライムローンを原商品として、デリバティブが組成されることによって、巨大なポジション=想定元本が生み出されたのだ。その結果、金融商品の価格下落に 伴う発生損失額が幾何級数的に拡大しているのだ。」の説明が重要である。  「巨大なポジション=想定元本... [続きを読む]

» blogosphere で 奇跡をおこして [とくらBlog]
 もう3年前になるのでしょうか?  郵政民営化の是非を問う9.11選挙の結果にショックを受けて、世間が小泉劇場にわきかえる中、私たちは超少数派なのか、という絶望的な思いを共有し、励まし合うために、多くの方々とブログで、意見交換してきました。  その流れの中で、世に倦む日日がSTOP THE KOIZUMI をたちあげられました。そこに多くのブログが名前をつらね、私もいっしょにネット上で運動を続けていきたいと願ったけれど、さまざまなことがあり、今日に至っています。  それは、私たちが... [続きを読む]

» 米破綻劇の背後にあるもの~米国債暴落を仕掛ける勢力VS防戦一方のFRB [日本を守るのに右も左もない]
一般企業の発行するコマーシャルペーパー(CP)の直接買い取りをFRBが始めた。C... [続きを読む]

» ネットウヨを斬る!PART3 [歴史文化-宙水の視点]
ネットウヨは日本を駄目にする  本日未明にIMF国際通貨基金が、来年の主要国の経済見通しを発表した。金融危機に見舞われているアメリカ経済は、今年中はマイナス成長、来年は0.1%という実質ゼロ成長になるという。日本は0.5%成長であり、欧州も同程度の実質ゼロ成長になる見込みという。  一方、中国の経済成長は来年も9.6%の成長をするという。中国製の食品にメラニンなどの有害物質が含まれているなどの問題があっても、依然として高い成長をする見込みである。世界経済の大きな流れが、欧米から中... [続きを読む]

» ネットウヨを斬る!PART4 [歴史文化-宙水の視点]
日本株の大暴落  本日午前の東京株式市場は,一時,下げ幅が1000円を超す,歴史的な大暴落となった。日本の政治経済全体が先行き見通しくらいと市場は見ている。その原因は,ネットウヨが連日叫んでいる「シナ,韓国はけしからん。日本は強力で,神州不滅である。」とアジテーションを行い,いかにも中国や韓国が,すぐに破滅するような言動を繰り返し,日本がスピード感をもって行うべき,反省や改革から眼をそらし,ミスリードしてきたのも一因になっていると感じる。  本日10月10日付けの新聞各紙の報道に... [続きを読む]

» ネットウヨを斬る! PART5 [歴史文化-宙水の視点]
開かれた帝国へ  昨日来、皆様方から貴重なコメントをたくさん頂き、大変に勉強させていただいております。基本的にどのようなコメントをいただいても、原則、削除することはしないようにしております。また、なるたけ迅速に質問については答えようと思っておりますが、小生の言葉使いも悪くなっているのについては反省しております。が、あえて削除いたしません。  昨日というか今日の未明にネット右翼と名のられる方から、一昨日のブログについて、移民の受け入れについては、「ドバイのように,数年の期間限定... [続きを読む]

» ネットウヨを斬る!PART6 [歴史文化-宙水の視点]
ネットウヨの利敵行為   アメリカが北朝鮮のテロ国家指定を解除した。反日外交官ヒル次官補の思いどおりのシナリオだ。アメリカの世論と国務省の多くは、中国の謀略、宣伝に知らず知らずのうちに洗脳されている。先日もニューヨークタイムスの社説で、麻生総理大臣は喧嘩好きの極右で植民地支配を正当化する人物であるという見解を公にし、日本外務省はこれに抗議した。 このような、中国の反日プロパガンダに一役買っているのが、日本のネット社会に蔓延しているネットウヨたちである。時代錯誤の暴支膺懲,外国人... [続きを読む]

» 大恐慌を読み解く [文系ネットワーク屋のぼやき]
今回の大恐慌は、単なる株価の値下がりとは大きく違う。通常、株が下がると上がるはずの債権や商品先物まで下がっているのだ。最悪のケースではアメリカという国が債務不履行になる危険性が否定できない。厄介なことに、麻生内閣に対応力はない。... [続きを読む]

» 中国経済は破綻するか? [歴史文化-宙水の視点]
中国の貿易黒字が過去最大 9月は293億ドル   今日の東京株式市場は,史上最高の値上がり率を記録した。証券会社筋の話によると,個人投資家が底値圏と見て,一斉に買いに入ったのではないかとのこと。ダウの値上がりもすさまじかったが,日経平均の上昇もすさまじい。14.5パーセントの上昇率は,短期トレーダーでも一日で一年分の利益を確保できる率である。先週の下落がひど過ぎたのかもしれないが・・・。   今朝のNHK総合TVニュースが伝えたところによると,中国の9月の貿易黒字が,... [続きを読む]

» 「“株暴落”の続くかぎり、おれたちゃしあわせだね」と、荒川河川敷の、とあるホームレス。 [ルンペン放浪記]
夢ではないのか? ここここにいたって、小金持ち、中金持ち、大金持ちが、みんなそろってあたふたしているのを眺めることが出来るなんて! この世の最高の価値と見なされていたものが、紙くずとなっていくのを眺めるなんて、何とすばらしいことか。 百年に一度の大恐慌をおが... [続きを読む]

« 国会論戦で表出する麻生政権の問題点 | トップページ | 文藝春秋麻生首相解散宣言で11月23日総選挙へ »

有料メルマガご登録をお願い申し上げます

  • 2011年10月より、有料メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」の配信を開始いたします。なにとぞご購読手続きを賜りますようお願い申し上げます。 foomii 携帯電話での登録は、こちらからQRコードを読み込んでアクセスしてください。

    人気ブログランキング
    1記事ごとに1クリックお願いいたします。

    ★阿修羅♪掲示板

主権者は私たち国民レジスタンス戦線

  • 主権者は私たち国民レジスタンスバナー

    主権者は私たち国民レジスタンスバナー

著書紹介

サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想
2019年4月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        

関連LINKS(順不同)

LINKS1(順不同)

LINKS2(順不同)

カテゴリー

ブックマーク

  • ブックマークの登録をお願いいたします
無料ブログはココログ