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2008年9月21日 (日)

米国金融市場混乱の背景と今後の展望

 米国金融市場の不安感がやや後退したように見える。9月15日の週は激動の週だった。内外の株式市場は波乱の連鎖に動揺した。米国第4位の証券会社リーマン・ブラザーズ社破綻は米国での史上最大の倒産である。負債総額は6130億ドル(約63.7兆円)に達する。

金融市場には疑心暗鬼が渦巻き、第2、第3のリーマン社を警戒する空気が広がった。金融市場の動揺に対して、米国政策当局が最大で7000億ドル(約75兆円)の公的資金を投入して、不良資産を買い取る総合的金融安定化対策をまとめたことが報道された。

私は、9月18日付記事「自民党は「話し合い解散提案」に同意すべし」に、米国政策当局が「建設的な曖昧さ(constructive ambiguity)」の概念を踏まえて、問題に対処しているとの論評を掲載した。

9月19日付日本経済新聞「経済教室」に、東大教授の植田和男氏が『事態急転、当局大きな賭け』と題する論考を寄稿した。植田氏も「一連の当局の判断が「建設的なあいまいさ」という評判を得るのか、結局苦し紛れの行き当たりばったりだったということになるのか、今後の展開次第である」と記述し、「建設的なあいまいさ」の概念を用いて米国政策当局の対応を論評した。植田氏はその上で今後の金融市場の推移を見守る必要性を強調した。

植田氏は金融危機に対する政策対応における、「金融不安沈静化」と「自己責任原則の貫徹」との間での「トレードオフ」を考慮して当局の対応が評価されるべきことを強調している。私は、金融問題処理における二つの目標を両立させることの重要性を一貫して主張してきた。

米国と比較される1990年代後半の日本の金融市場不安定化についても、1997年11月の三洋証券のコール・債券レポ市場でのデフォルト(債務不履行)発生が、その後の波乱の引き金を引いた事実を指摘した。私は大蔵省財政金融研究所研究官を務めていた時期に、同じ部署で主任研究官を務めた植田氏と日本の短期金融市場における金利決定メカニズムについての共同論文を執筆した。

植田氏は最近まで日銀審議委員を務めたが、現日銀総裁の白川方明氏などを含め、金融政策のエキスパートが日銀幹部として政策運営にあたる体制が徐々に確立されつつあることは望ましい傾向だ。植田氏は白川氏と同様に、金融システムの問題についても造詣が深い。

米国政策当局の対応を観察するとき、米国政策当局は「リーマン社破綻容認」というリスクの大きな選択をしたが、その後の矢継ぎ早の対応を含めて考えると、全体として巧妙な采配を振るっていると評価することができる。金融不安をもたらしている資産価格下落という背景が大きいため、米国金融市場の不安定性は今後も持続するだろうが、かつての日本と比較すれば、政策当局は、はるかに迅速な対応を示している。

私は『金利・為替・株価特報』2008年9月8日号に、「(NYダウの)7月から9月にかけての推移は、本年1月から3月にかけての推移に類似して(おり)」、「NYダウは本年3月から5月にかけての上昇と類似する形で(、9月中旬以降)上昇する可能性が高いと考えられる」と記述した。

金融市場の混乱は広がるが、政策当局の対応により、当面の混乱が収拾され、不安心理が後退し、株価が一時的に反発するとの見通しを示した。9月から11月にかけて、内外株式市場で株価が上昇することは十分に考えられると判断している。

米国では2000年から2006年にかけて、不動産価格バブルが発生した。2006年央を境に不動産価格は下落に転じた。不動産価格下落に連動して不良債権問題が発生し、2007年央以降、金融機関の巨額損失として表面化した。

米国の1戸建て住宅価格は、2000年から2006年央までに、全米主要都市の平均で約2倍に上昇した。米国では70年間不動産価格は下落したことがなかった。その延長上に2006年にかけて「不動産価格バブル」が生まれた。

2006年央から2008年央までの不動産価格下落率は約20%である。この不動産価格下落を背景に、サブプライムローンの不良債権化が進行し、巨額の金融機関損失が発生した。米国株価は2007年10月以降に下落し、本年1-3月に1度目の金融混乱が生じた。

本年3月のベア・スターンズ社危機に対して米国政策当局は、290億ドルのFRB融資を提供し、JPモルガンチェースによるベア・スターンズ社買収を主導した。金融市場の不安心理が後退して株価は5月にかけて上昇した。

しかし、5月から7月にかけて原油価格が急騰し、インフレ懸念が強まったため、株価は反落した。株価下落に連動して金融市場の動揺が再び表面化した。金融市場波乱第2波と表現することができる。

金融市場波乱第2波では、GSEと呼ばれる政府系住宅金融公社、リーマン・ブラザーズ社、全米第1位の保険会社AIGの危機が表面化した。米国政策当局はリーマン社の破綻を容認する一方で、GSEとAIGに対する公的資本投入の方針を示した。

しかし、リーマン社破綻を容認したために、金融市場の疑心暗鬼は広がり、株価はさらに下落する気配を強めた。金融市場の動揺拡大に対して、米国政策当局は最大で7000億ドルの公的資金投入する不良債権買取機構設立の方針を提示した。

今後の展望の詳細は『金利為替株価特報』2008年9月24日号に記述するが、米国政策当局は、「金融システムの安定性確保」と「自己責任原則の貫徹」の二つの課題のはざまで困難な政策対応を迫られている。

すべての問題に対して「救済」の方針を示すならば、金融機関の問題解決への真剣な姿勢は後退するだろう。「モラル・ハザード(倫理の崩壊)」の問題が発生する。しかし、政府が問題に関与しないとの姿勢を示せば、金融市場の混乱は間違いなく拡大する。

ベア・スターンズ社の救済に対して、米国の一般国民の批判が極めて強かったことも影響した。サブプライムローンの返済が困難になった債務者は、片端から住宅を差し押さえられている。末端のローン利用者は救済されず、証券会社が救済されたことに対する批判が米国社会で拡大した。

リーマン社の破綻容認は「金融機関の破綻容認が経済全体に重大な影響を及ぼすこと」を一般国民に認知させるために、意図的に実施された可能性が高い。公的資金投入による問題収束を実施するための、「地ならし」として、リーマン社破綻が容認された可能性が高い。

巨額の公的資金投入を含む金融問題処理策が提示されたことで、当面、金融不安は後退する可能性が高い。しかし、問題の根源にある不動産価格下落には、依然として歯止めがかかっていない。米国の住宅価格は2倍に上昇して2割下がったが、依然として割高である。なお、2-3割程度下落する可能性が高いと考えられる。

昨年10月以降に表面化した米国の金融市場波乱の第3波が11月以降に表面化するリスクは高い確率で残存することになるのではないか。事態が短期的に改善するように見えても、手放しの楽観はできないと考える。

それでも、米国では問題が表面化してまだ1年の時間しか経過していない。そのなかで、金融機関の巨額損失計上、100兆円単位の公的資金投入策検討が具体化している。日本の事例では、1990年にバブル崩壊が始動したが、株価や地価が底値を確認したのは2003年だった。13、4年の時間が費やされた。日本の政策対応はあまりにも稚拙だったが、米国政策当局がはるかに迅速に対応していることは間違いない。

経済政策運営上の大きな教訓として、「バブル発生を未然に回避することの重要性」を再認識する必要がある。結果論ではあるが、2004年から2006年の米国金融引締めが、早期にかつ、迅速に実施されていたなら、米国での「不動産価格バブル」発生を防止出来ていた可能性がある。

2002年から2004年にかけて、日本政府が50兆円近い資金を外為介入で米国に供給した。この大量資金供給が米国の金融引締めを遅らせる効果を発揮したことは間違いない。「上げ潮派」の主張に連なる日本の政策対応が、米国の「不動産価格バブル」を生み出す遠因になったのだ。話が複雑になるので、この問題についての考察は機会を改めるが、行き過ぎた金融緩和政策の弊害を常に念頭に置く必要がある。

「市場原理至上主義」は金融市場における投機的な金融取引拡大を無条件で容認する傾向を持つ。そして、金融市場での巨大な不労所得獲得者を「成功者」として賞賛する傾向を持つ。しかし、金融市場の変動が経済を振り回すのは本末転倒だ。

実体経済が主役であって、「金融」は経済が円滑に活動できるための「潤滑油」として機能するべきものだ。「自由主義」の大義名分の下に、すべての規制を取り払う「自由放任」の政策が推進されたことが、金融市場の激しい混乱発生の重要な原因のひとつだ。サブプライムローン問題も、金融機関が個別の融資案件を丁寧に審査して融資が行われていれば発生しなかったはずだ。

金融市場の歴史的な混乱拡大は、「自由放任の経済政策」がもたらした「失敗」の一事例である側面を見落とせない。

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