「霞が関保身内閣」の「目くらまし」戦法に警戒
「国民新党」、「平沼赳夫氏グループ」に対して秋波が送られるとともに、「小泉一派」による「上げ潮新党」結成の契機を与えた側面もある。
「小泉一派」が「上げ潮新党」を立ち上げ、「官僚利権排除」の旗を掲げると、「反自民」、「反官僚利権」の有権者が「上げ潮新党」支持に向かう可能性がある。自民党別働隊である「偽装CHANGE」勢力による「権力死守偽装大作戦」だ。
福田改造内閣が「小泉一派」をはっきりと切り分けて排除したのが、いささか不自然に見える。福田康夫、町村信孝、小泉純一郎、中川秀直、森喜朗、飯島勲は「清和政策研究会」でしっかりと連結されている。
「上げ潮新党」を自民別働隊として衆院選に向けて発足させる「偽装」工作が水面下で進行しているのかもしれない。
福田新体制は「アンシャン・レジーム」である。「霞が関政治」に復古した。旧来の自民党政治への回帰だ。「福田-伊吹-与謝野」のトライアングルが「財務省政治」を取り仕切る。
「財務省政治」の基本方針は上述したように、①官僚利権の温存、②国民福祉の切り捨て、③消費税増税の断行、である。
財務省の歳出削減政策と「無駄ゼロ政策」は表裏一体の関係にある。財務省の歳出削減対象の「御三家」は、①公共事業、②地方、③社会保障費、である。国民生活に直結する費目が優先して切り込まれる。
他方、財務省の裁量支出は拡張される。「裁量支出」こそ「財務省権力の源泉」なのだ。道路特定財源の「一般財源化」、概算要求基準における「重点枠」は「財務省の自由裁量枠」である。財務省は「予算配分権」こそ「権力の源泉」と認識し、「自由裁量枠」拡張を熱望している。
「社会保障支出」は「プログラム支出」とも呼ばれる。制度を確定すると支出金額が自動的に決定される。最も透明性の高い支出だが、財務省は「プログラム支出」を嫌う。「プログラム支出」には「予算を配分する権力」をふりかざす余地がないからだ。
歳出削減で真っ先に切り込まれるのが「プログラム支出」だ。国民からすれば、利権の温床になる「裁量支出」を切り込み、「プログラム支出」を温存してもらいたいのだが、財務省は正反対の方向を向いている。なぜなら、財務省は国民の幸福ではなく財務省の幸福のために行動しているからだ。
国民生活に直結する「地方の自由財源」である一般地方交付税交付金も切り込みの対象だ。財務省は国民生活の身近な支出にも、「予算配分の権力」を行使しようと努めている。
福田首相と伊吹財務相は消費税増税について、「2、3年の時間をかけて」、「3、4年の時間をかけて」実現すると発言している。つまり、次の総選挙後に消費税増税を実現しようということになる。
「社会保障制度を再構築するためには財源が必要である。財源について責任ある姿勢を示すのが、政権を担う責任政党の当然の責務だ。バラ色の政策だけを掲げて、財源論を回避する民主党は政権を担う責任政党としての体をなしていない。」
これが、伊吹財務相の口癖だ。福田政権は消費税増税を明確に掲げて総選挙を闘うことになるのだろう。
しかし、その伊吹財務相が7月16日に以下の発言をしている。
消費税率引き上げについて「上げてから選挙をすれば大変なことになる」と述べ、「(選挙に)勝とうと思うと(有権者に)一種の『目くらまし』をしなければしょうがない」と述べたのだ。
総選挙対策上、消費税率引き上げ先送りと、この問題などから有権者の目をそらせるための政策を打ち出すべきだとの考えを示したわけだ。
これが国民に対する真摯な姿勢と言えるのか。
民主党を中心とする野党は、福田改造内閣を仮想敵対勢力とみなして、総力戦を展開しなければならない。まずは、9月21日の民主党代表選を戦略的に最大限活用しなければならない。
代表選を単なる党内抗争を繰り広げる場にしようとする民主党議員が存在するなら、政権交代を希求する健全な議員と有権者は、背信的な民主党議員を糾弾しなければならない。民主党から追放する程度の気迫を持つ必要がある。
「カナダde日本語」の美爾依さんも紹介されているが、「国会傍聴記by下町の太陽・宮崎信行」の宮崎信行さんが、民主党に関する情報を丁寧に提供してくれている。
臨時国会の召集時期と会期は衆議院の解散・総選挙と直結するために、優柔不断な福田政権が結論を出すには時間がかかると予想されるが、民主党は次期臨時国会に重要な法案を提出する予定である。
③後期高齢者医療制度廃止法案
を臨時国会に提出する見通しだ。
日本の国家財政は天下り機関に11兆円を超す資金を投入している。「天下り」と「天下り機関」の根絶は想像を超す歳出削減効果を生む。
福田政権は「財源論を伴わない社会保障制度再構築論議」は無責任だと民主党を批判するが、
「天下り根絶を伴わない消費税増税論議」の方がはるかに国民に対して無責任である。
「天下り根絶」によって、大きな財源を生み出すことが可能だ。また、対米隷属の外貨準備運用が8年間で100兆円の機会損失を生み出した。「100兆円損失」の責任も追及しなければならない。
福田政権は衆議院選挙対策として745億円原油高対策を決定したが、「裁量支出」=「利権支出」=「バラマキ支出」政策の典型だ。最も優れた原油高対策は「ガソリン税暫定税率撤廃」である。
本年4月に暫定税率は期限切れを迎えていったん廃止されたのに、福田政権は衆議院の3分の2以上多数の「数の力」を頼みに、2.6兆円増税を決定してしまった。
原油高で生活苦に直面しているのは漁業関係者だけではない。大多数の一般国民は、自民党の選挙にとって重要でないとみなされて軽視されているのだ。「ガソリン税暫定税率廃止」が最も適正な原油高対策である。
「後期高齢者医療制度」は高齢者の尊厳を損なう制度である。「後期高齢者医療制度」は高齢者に対して高額の窓口負担以外に、財源の1割を負担させる制度として設計された。所得の乏しい高齢者の1割負担は、保険料率の激しい上昇を招く。
激しく重い保険料負担が不可能になれば、必ず医療を切り捨てる方向に向かう。高齢者いじめの「姥捨て山制度」との批判は正鵠を射ている。「後期高齢者医療制度」をいったん廃止したうえで、適正な新制度を構築すべきである。
自公政権は、①弱肉強食奨励、②官僚利権温存、③対米隷属外交、を基軸に据えている。民主党を中心とする野党は、総選挙に向けて、①セーフティーネット重視、②官僚利権根絶、③独立自尊外交、の基本政策を明確に示す必要がある。
「偽装CHANGE」勢力が登場するかもしれない。しかし、「偽装CHANGE」勢力は自公政権の政治利権を温存するための自民党別働隊にすぎない。「真正の改革」を目指す野党勢力は「偽装CHANGE」勢力の偽装を暴き、国民を「郵政民営化選挙」の二の舞から守らなければならない。
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「霞が関保身内閣」の「目くらまし」戦法に警戒(植草一秀の『知られざる真実』)
==== 引用 ====
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