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2008年8月15日 (金)

「生きてこそ」の命

終戦記念日の今日、第2次世界大戦に関するいくつかのテレビ番組が放映されている。そのなかのひとつに、サイパン島での日本軍玉砕のなかで生き延びた女性と海軍兵だった男性が出演されていた。

女性はサイパン島で家族とともに米軍の攻撃に追い詰められた。当時女性はまだ子供だった。女性はジャングルを逃げて多くの日本人が自ら命を絶った「バンザイクリフ」に追い詰められ、女性も命を絶つ覚悟を固めたという。「バンザイクリフ」は島のなかで日本列島に最も近い場所に位置するという。

バンザイクリフの断崖に向かって降りてゆく時に亡くなられた父親の上司に呼び止められた。「いつでも死ぬことはできる。あせらずいまはとにかく上にあがりなさい」

その夜、米軍に拘束されたという。女性はジャングルを逃げ惑う途上、爆弾の破片に傷ついた妹を手当しようとした父親の背中に別の爆発の破片が刺さって亡くなられた場面を涙ながらに語った。

凄惨な戦場を逃げ惑うなかで、女性は美しい文字で日記を綴っていた。その日記を読み上げながら当時の状況を話した。

グアム島から生還された男性は、1年間の日々を生き抜いたグアム島の小さな砂浜の地を60年余ぶりに踏みしめて、日本に帰還してからも、いつもこの浜を思い出していたと語った。

多くの戦友が自決したなかで、現在まで生き延びた男性は、かつての同僚への哀悼の気持ちを語るとともに、悲惨な戦争を2度と起こしてはならないとしみじみと語った。当時の軍歌を口ずさみながらグアムの地を歩む男性の姿から、当時の前線兵の姿が偲ばれた。

長崎の永井隆博士は「戦争に勝ちも負けもない。あるのは滅びだけだ」言葉を残した。

敵も味方も前線に立つ者は戦争など望んでいない。グアムのジャングルで1年を生き延びた男性は「生きようとするエネルギー」が命をつないだことを語った。

「生きて」こその命だ。命を失えば、そこですべては終わる。

生き延びられた2人の証人の胸には、命を落とされた多数の人々への哀惜の念が深く刻まれていることと思う。

クリントーイーストウッド監督映画「父親たちの星条旗」に込められた真のメッセージが「戦争を美しく語る者を信用するな。彼らは決まって戦場にいなかった者なのだから」だったのではないかと沢木耕太郎氏は評した。

クリントーイーストウッド監督は「ずっと前から、そして今も、人々は政治家のために殺されている」と語る。安全な場所で戦争を指令する指揮官と戦場で命を落とす前線兵と爆撃にさらされる名もなき市民。この二重構造が近現代の戦争の基本構図だ。

戦場で前線兵が口ずさむ軍歌には、罪なき人々を戦場に送る戦争指導者の薄汚れた意図が込められている。

前線にあるのは「滅び」だ。「滅び」の戦争を美化してはならない。戦争の悲惨さを語り伝え、戦争と大量破壊兵器の廃絶に向けて力を注ぐのが日本の務めであると思う。

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