洞爺湖サミット原油高対策の有効性
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7月7日から9日にかけて北海道洞爺湖で開催されるサミットでは、環境問題と経済問題が主要議題になると見込まれているが、環境問題については、そもそも地球温暖化の原因が科学的に必ずしも明確ではないなかで、主要国が利害と主導権確保の二つの狙いから政治的に駆け引きを演じる光景ばかりが際立っている。
日本のマスメディアは政府広報になり下がって、批判的に問題を検証する姿勢を欠き、南極の氷が海面に落ちる映像、世界の天然災害、シロクマの飢餓などを情緒的なナレーションで紹介し、地球温暖化仮説を視聴者に刷り込むプロパガンダ番組を競って放送している。経済界は環境問題を大義名分とする巨大な財政支出の利権確保や環境問題を有利に利用するためのプロパガンダ制作に狂奔し、環境狂想曲を奏でている。
環境問題については、科学的な視点から冷静な論議が求められる。私は環境問題の重要性を否定しないが、現在の論議は、環境問題についての基本認識を十分に確定しないままで国際社会での主導権争いが繰り広げられている点、産業界が利害優先の論議を展開し、関係官庁と政治家を巻き込んで利権争奪戦を繰り広げている点、に大きな問題があると考える。論議における客観性、公益性の視点が無視されている。
環境問題についての考察は別の機会に譲るが、経済問題では原油価格高騰がもたらす世界的なインフレ圧力と米ドルの脆弱性が論議の焦点になると見られる。原油高については、サミット首脳文書に、原油市場への投機資金監視で結束することが盛り込まれるとの報道が示されている。
サミットを前にして、世界の株式市場は下落基調を強めている。NYダウは7月2日、11,215ドルまで下落した。5月2日の13,058ドルから1843ドル・14.1%急落した。『金利為替株価特報』では、「5月24日号=067号」以降、NYダウの10,600ドル近辺への下落リスクを指摘してきた。現実に原油価格高騰により、リスクが顕在化している。
日本でも、日経平均株価が6月19日から7月4日まで、12日連続(営業日ベース)で下落した。朝鮮戦争休戦後の景気低迷を背景にした1954年4月28日から5月18日までの15日続落以来、54年ぶりの株価連続下落が記録された。
『金利為替株価特報』では、米国株価が6月6日に下値抵抗ラインの12,500ドルを明確に割り込んだことを踏まえ、NYダウが下落基調に転じたと判断し、「6月7日号=068号」に日本の株価についても6月6日以降、調整局面に移行したとの見通しを記述して、株価下落に警戒を呼び掛けた。
NY株価はすでに3月10日の安値を下回り、2006年8月以来、1年11ヵ月ぶりの安値を記録しているが、フランスでは3年ぶりの安値が示されている。また、中国、インドの株価も3月安値を下回っている。
『金利・為替・株価特報』では、「067号=2008年5月24日号」のタイトルを「原油価格上昇で米国株式市場に暗雲」、「068号=2008年6月7日号」のタイトルを「FRBインフレ回避利上げケース考察」とした。事態収束のために最終的にFRBによる短期金利引き上げが求められる可能性が高いと記述した。
本ブログ6月30日付記事「バーナンキFRB議長の憂鬱」に、「米国経済は三つの問題を抱えている」と記述した。三つの問題とは、①不動産価格下落に連動する不良債権増加、金融市場の機能不全リスク、②不動産格下落に連動する米国経済の悪化、③原油価格上昇に伴うインフレ懸念の強まり、だと記した。
ポールソン財務長官は、7月3日のECB(欧州中央銀行)による利上げ決定直前に欧州を歴訪し、7月2日にロンドンで講演した。講演でポールソン財務長官は、米国経済が①エネルギー価格の上昇、②資本市場の混乱、③住宅市場の長引く調整、の三つの逆風に直面しているとの現状認識を示した。上記の三つの問題と重なる。
問題が深刻化する時、最も重大な問題を引き起こすのは「資本市場の混乱」だ。ポールソン財務長官は、金融市場の混乱に対してFRBなどの監督当局に「緊急権限」を付与して、市場の混乱を回避する方針を示した。
米国では本年3月にベア・スターンズ社の経営危機が表面化して、FRBは290億ドルの特別融資を実行して危機深刻化を回避した。ポールソン財務長官は、金融危機顕在化に対しては、金利政策ではない流動性供給策で対応することを表明したと解釈できる。
現在、原油価格高騰と米ドル下落圧力が世界経済最大の懸念として浮上している。サミットでの主要議題のひとつがこの問題だ。問題を顕在化させた最大の要因はFRBによる大幅金利引き下げだった。昨年9月に5.25%だった米国のFFレートが本年4月には2.0%に引き下げられた。
利下げは3月の金融危機を回避するために、緊急避難策として決定されたが、結果的に、行き過ぎた金利引き下げを実行してしまった可能性が明確になりつつある。その修正が求められつつある。
6月24、25日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、FRBは金利引き下げ中断を決定し、インフレ回避に金融政策の主軸をシフトした。ECBはFRBが金利引き下げを中断したことを確認して7月3日に利上げを決定した。
ECBはそもそも、FRBが金融危機に対応して金利引き下げを決定することに冷ややかな視線を送っていた。昨年12月、本年3月、5月にECBはFRBと協調して短期金融市場への緊急流動性供給政策を決定したが、FRBの金利引き下げ政策にはまったく協調しなかった。
ECBは「信用収縮リスク」と「インフレリスク」を峻別していた。「信用収縮リスク」には「流動性供給策」で、「インフレリスク」には「金融(引締め)政策」で対応する、との基本姿勢が明確に維持されていた。
FRBおよび、米国と同じアングロサクソン国である英国、カナダはFRBに協調するように利下げを決定したが、ECBはインフレ警戒姿勢を堅持した。そして、7月3日、13ヵ月ぶりに金利引き上げを決定した。
サミットでは、原油市場への投機資金流入に対する警戒を強めることで、主要国が結束すると言うが、投機資金が流入する「スキ」を放置したまま、単に「警戒」しても実効性はあがらないと考えられる。「警戒」しているなかで、原油価格高騰が持続してしまう可能性が高い。
米国の5月の消費者物価前年比上昇率は4.2%だ。FFレート2.0%は実質-2.2%の短期金利水準を意味している。FRBの超緩和金融政策が原油価格上昇、米ドル下落の最大の論拠にされている。
金融市場の混乱リスクには流動性供給策で万全に対応する方針を明確にしたうえで、米国の短期金利水準を上方修正することが、最終的に必要になると考えられる。為替市場への介入が行われるとしても、マクロ政策と整合性を持たなければ介入効果は持続しない
バーナンキ議長は最大の正念場を迎える。大幅金利引き下げ後の金利引き上げ決定は、金融市場の混乱を招けば、バーナンキ議長の責任問題にも発展しかねない。しかし、それでもFRBは行動せざるを得なくなる可能性が高い。インフレの未然防止は長期的に最重要の施策であり、現状の放置は原油価格高騰を持続させ、世界の金融市場の根幹を揺るがす恐れが高いからだ。
サミットで十分な戦術が練られず、実効性を伴わない表面上の合意しか成立しない場合には、サミット直後に金融市場が混乱して警鐘が鳴らされる可能性がある。
ポールソン財務長官が精力的に動いていることからすれば、FRBの利上げを含む対応が念頭に置かれていると推察されるが、サミットでの声明とサミット後の市場変動、政策対応に細心の注意を払うことが求められる。
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