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2008年7月10日 (木)

合意されなかった排出量削減長期目標

   

洞爺湖サミットが閉幕した。2050年に温暖化ガス排出量を50%削減する長期目標についてG8首脳宣言では、「UNFCCC(気候変動枠組み条約)の締約国と共有し、交渉において検討し、採択することを求める」との表現を示すにとどまった。

  

9日に開催された中国、インドなどの新興成長国を含む16ヵ国によるMEM(主要経済国会合)の首脳宣言では、数値目標および目標達成時期は明記されず、「排出量削減の世界全体の長期目標を含む、長期的な協力行動のためのビジョンの共有を支持する」とし、「条約の下での交渉において、締約国が公平原則を考慮して、世界全体の排出量の削減について世界全体の長期目標を採択することが望ましいと信じる」とされた。

  

G8でもMEMでも、2050年排出量50%削減は合意が得られなかったにもかかわらず、「カナダde日本語」の美爾依さんが指摘しているように、権力迎合の日本のマスメディアは、G8で合意が成立したかのような報道を繰り返している。美爾依さんが紹介している読売新聞社説の表現は以下の通りだ。

  

「温室効果ガスの排出量を2050年までに半減させる。この目標を世界全体で共有する。主要8か国(G8)として、ぎりぎりの合意にこぎ着けたということだろう。

北海道洞爺湖サミットで、G8首脳は、最大の焦点となっていた地球温暖化対策に関する合意文書を発表した。

50年までに半減という長期目標を達成するため、G8だけでなく、世界全体で排出削減に取り組んでいく必要があるとの認識で、G8首脳は一致した。」

 

G8での2050年CO2排出量50%削減合意に消極的な姿勢を貫いた米国は、中国やインドが長期目標設定に反対していることを念頭に入れて、G8首脳宣言に「UNFCC(気候変動枠組み条約)締約国と目標の共有し、採択を求める」との表現を盛り込ませた。MEMでは予想通り、中国、インドが強く反対して、具体的長期目標は設定されなかった。

  

米国はMEMで目標が設定されないことを前提に、「目標の設定と採択を求める」との表現に同意したのだ。米国は具体的な目標が設定され、それに縛られることを回避したのである。つまり、長期目標を定めてG8がコミットする「G8での合意」は得られなかったのが真相である。

  

大手マスメディアは、この事実を十分に認識しながら、「ぎりぎりの合意にこぎつけた」などと報道している。大本営報道と変わりがない。政権交代を回避したい政府・与党に対する国民の支持を少しでも回復させるための偏向報道が繰り広げられている。

  

  

インドは「1人当たりのCO2排出量で先進国を上回らない」との方針を維持している。1人当たりCO2排出量と生活利便水準は強くリンクしている。人口が多い中国やインドが豊かさを求めて経済成長を遂げてゆけば、当然、CO2排出量は増大する。すでに高い生活水準を享受している先進国が成長途上の国の経済成長を妨げるシステムを構築することを容認できないとする成長途上国の主張には正当性がある。

  

7月9日付記事に記述したが、中国の胡錦濤国家主席をはじめとするMEMに参加したインド、ブラジル、メキシコ、南アフリカの新興5ヵ国首脳は8日午後、温室効果ガスについて、「先進国は50年までに90年比で80~95%削減すべきだ」とする政治宣言を発表し、2020年までの中期目標についても、先進国に「25~40%の削減」を要求した。

  

新興5ヵ国が要求する極めて厳しい中期、長期の数値目標をG8が受け入れることは不可能で、新興国と先進国との隔たりは極めて大きい。米国が新興国を論議に組み込んだのは、数値目標設定に難色を示すインドや中国を、同じ思惑を持つ米国の隠れ蓑として利用するためだとも考えられる。

  

今回の洞爺湖サミットはG8のリーダーシップの欠如を浮かび上がらせると同時に、MEMやUNFCCにおける具体的目標設定が極めて困難である現実を改めて際立たせて終了した。

   

   

これも美爾依さんが紹介された記事だが、北海道新聞の報道によると、英国タイムズ紙が、日本政府がサミットに約600億円もの巨費を費やしていることを指摘したそうだ。タイムズ紙の指摘では、日本はサミット運営費に英国の3倍以上の経費をかけており、その半分が警備費用に充てられている。サミットそのものにも250億円が費やされたが、英国が3年前にサミットを主催したときはこの10分の1だったとのことだ。

   

高齢者に必要な医療を切り捨てるほど財政事情が悪化していると主張し、政府の無駄をゼロにしようと掛け声をかけているのなら、福田首相は今回のサミットをいかに「エコ」ノミーに運営したかをアピールすべきだった。豪華ディナーを堪能しながらアフリカの食糧危機を論じても、アフリカの市民も日本の国民も白けるだけだ。

  

  

米ソ冷戦終焉後に、「地球環境問題」が最重要の国際政治課題として急激に浮上した経緯を詳細に論じている米本昌平氏の著書『地球環境問題とは何か』(1994年、岩波新書)を改めて読み直した。

  

米本氏は1988年9月のシュワルナゼ・ソ連外相(当時)演説、同年12月のゴルバチョフ・ソ連書記長(当時)演説の重要性を指摘する。著書には、科学的根拠が曖昧な地球環境問題が最重要の国際政治課題に位置付けられ、主要国による激し主導権争いが展開されてきた経緯が詳細に示されている。

  

同書から、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された地球環境サミットでのキューバのカストロ首相の演説を引用する。

  

「コロール・ブラジル大統領、ガリ国連事務総長、そして皆様。

   

重要な生物種が、その自然のすみかを急速に失うことで、消滅の危機に立たされている。人間である。われわれは、これを避けるにはたぶん遅すぎる時期に至って初めて、この問題に気づきはじめた。この残虐な環境破壊の主たる責任は消費社会にあることは、大いに注目してよい。

   

彼らは、かつては植民地であったところの巨大都市と帝国主義政権の申し子であり、これが今日、人類の大多数に天罰として、貧困と退歩をもたらした。

  

世界の人口のわずか20%の人間が、世界全体が生産する金属資源の3分の2と、エネルギーの4分の3を消費している。彼らは、海と川を有害物質で汚し、空気を汚染した。彼らは、オゾン層を傷めて穴をあけだし、気象を乱してカタストロフィーをもたらすガスを大気に充満させたため、われわれはいまその脅威にさらされようとしている。

   

森林の消滅、砂漠の拡大、肥沃な土壌が毎年何億トンも海に流出している。おびただしい生物種が絶滅直前にある。過剰人口と貧困は、たとえ自然資源を食いつぶして生存へともがこうとも、その努力を空しくする。

  

この責を第三世界諸国に押しつけることはできない。ほんの昨日まで植民地であり、今日なお不公正な世界経済秩序によっておとしめられ、搾取されているからである。解決は、第三世界が不可欠とする開発をやめることではもたらされない(中略)。

   

不平等な保護貿易主義の運用と対外債務は、生態系への凌辱であり、環境破壊を構造化するものである。世界が利用可能な富と技術のよりよい配分こそが、このような破壊から人間性を守るのに必要である。

  

少数の国が奢侈と浪費を抑えさえすれば、それだけ、地球上のより多くの人問が貧困と飢餓から逃れる。

   

環境悪化を招いている第三世界の生活様式と消費行動に戻るような道は避けるべきである。人間の生活を理性化させよ。正しい国際経済秩序を求めよ。科学を混じりけのない持続ある発展に向けよ。対外債務ではなく、生態的債務(ecologic debt)にこそ支払いがあるべきである。飢餓は人類の前から追放されなければならない。

  

共産主義からのとされた架空の脅威が消え、冷戦と軍拡競争と軍事費への口実がなくなったいま、これらの財を第三世界の発展を促し、地球の生態学的破壊という脅威を回避するために投入することに、どんな障害があるというのか?

  

利己主義と覇権主義はこれをもって終りにしよう。冷酷、無責任、欺隔はやめにしよう。もうはるか以前に着手すべきであったことを明日からやる、というのでは遅すぎるのだ。ご静聴感謝します」

 

 

グリーンランドは中世温暖期には牧草が広がる、文字通りの緑の島だった。地球温暖化仮説の根拠には曖昧な部分が多い。地球環境を保護すること、ライフスタイルを転換することは重要だが、曖昧な根拠に立つ人為的取り決めが独り歩きする事態は回避すべきである。

  

国連での論議に際しては、成長途上国の発展権の尊重も重要である。先進国のエゴを排する、環境問題を利権争奪の場としない、環境問題を原子力利用推進の隠れ蓑にしない、などを改めて確認することが求められる。

 

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