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2008年7月28日 (月)

「バラマキ財政派」というプロパガンダ

私の財政政策についての考え方を「積極財政主義」と理解している人が多い。これは正しくない。

京都大学助教授に就任した1991年以降、私は経済政策に関する論評を数多く発表するようになった。

「中央公論」1991年11月号に「バブル崩壊後日本経済のゆくえ」を発表し、日本のバブル生成・崩壊が米国の経済政策と密接に関わっていることを論じた。

1981年に発足したレーガン大統領の経済政策が米国の双子の赤字を生み、85年のプラザ合意、円高を生んだ。円高・金利低下で日本の資産価格が急上昇した。

1987年、日銀は利上げを予定したが、米国でブラックマンデーの株価急落が生じ、米国の要請で利上げを中止した。

1988年発足のブッシュ政権は「強いドル」を掲げたが、日本弱体化の思考を内包していたと考えられる。89年以降、円安・金利上昇が広がり、日本のバブルは崩壊に向かった。

中央公論所収論文の当初タイトルは「漂流する日本経済に明日はあるか」だった。経済外交の場は国益がぶつかり合う戦場である。経済政策に関する高度の専門能力、外国政府と渡り合う交渉力がなければ、経済外交で敗北を喫する。

日本の政策当局は専門能力と外交力とを欠いていた。政策当局が高い能力を持たなければ一国経済を守ることはできない。

論文で私は「経済政策能力の重要性」と「国益がぶつかり合う経済外交の一国経済に与える影響の重大さ」を説いた。

この論文をベースに1992年、『金利・為替・株価の政治経済学』(岩波書店)を上梓した。このころから、経済政策に関する論評を数多く発表するようになった。

1990年以降で、私が財政政策について強く意見を提示したことが3回ある。小泉政権は私の主張を排除しようと、私の考え方を「積極財政」、「バラマキ派」と中傷し、マスメディアが偏向報道を展開した。しかし、これらの表現は誤りだ。

最初の提言は1992年だ。日本経済は91年年初から不況に突入した。しかし、宮沢政権の不況認定は92年1月まで遅れた。日銀は91年末まで、「巡行速度への望ましい景気減速」と評価していた。

私は1991年時点で、株価、不動産価格の急落を踏まえ、深刻な不動産金融不況が到来すると判断した。経済の急激な落ち込みを回避するための景気悪化緩和政策が必要であることを、92年年初から強く主張した。

財政政策発動に最も強く抵抗したのは大蔵省だった。1990年に赤字国債発行ゼロの財政再建目標を達成した直後で、大蔵省は赤字国債発行に強く抵抗した。

しかし、政策対応の遅れが株価下落を増幅し、景気悪化が加速した。結局大型景気対策が必要になり、財政赤字は激増してしまった。早期の景気対策は財政赤字拡大策ではなく、中期的に見れば財政健全化策なのだ。

2度目の主張は1997年である。日本経済は1996年に景気回復を実現した。株価も上昇した。私は1996年年初から一人で主張を始めた。97年に行き過ぎた増税を実施すると、事態を著しく悪化させることを警告した。

1996年7月号の「論争」(東洋経済新報社)に「財政再建最優先論に異議あり」と題する論文を発表した。日本経済は回復過程に移行しているが、資産価格下落に伴う不良債権が巨大な「地下マグマ」として存在していた。

行き過ぎた緊縮財政政策は、景気悪化-資産価格下落-金融不安の悪循環を発生させ、最悪の場合「金融恐慌」を発生させる原因になる。

私は、97年度増税を圧縮する必要があると主張した。私の提案は消費税率を97年4月に1%、98年4月に1%と、2度に分けて引き上げるべきだというものだった。

この提案では1年あたりの増税規模は2.5兆円になる。バブル崩壊不況から回復したての日本経済に課す負荷はGDP比0.5%程度にとどめるべきだと主張したのだ。

財政支出拡大を主張したのではない。また、税制構造改革に反対したのでもない。財政構造改革はようやく実現した日本経済の回復基調を損なわない範囲内で進めるべきだと主張したのだ。

橋下政権は消費税5兆円、所得税2兆円、医療費負担2兆円、公共事業削減4兆円、合計13兆円のデフレ策を実行した。大蔵省の近視眼的な超緊縮財政政策を採用してしまった。結局、2年間で財政赤字は倍増してしまった。

3度目が2001年度だ。私は「中立」の財政政策運営を主張した。マクロ経済の視点に立つと、財政政策が「積極」、「中立」、「緊縮」であるかは、財政赤字を「拡大」、「不変」、「縮小」させるかで判定される。

2001年度当初予算の緊縮の程度は97年度の橋本政権を上回り、過去最大になっていた。経済が回復傾向を示すなかで、行き過ぎた緊縮策を強行すれば、97、98年の二の舞を演じる可能性が高かった。

「行き過ぎた緊縮策」を「中立の政策」に修正すべきであると主張したのだ。この論議を正確に理解してもらうには、やや細かな説明が必要だ。

拙著『現代日本経済策論』(岩波書店)第7章「財政構造改革」(6)「財政問題の制度的側面」に、この問題を記述した。しかし、テレビ番組などでの説明には適さない。

田原総一郎氏に代表される「御用言論人」は、私の主張を「積極財政」、「バラマキ財政」の表現で総括し、虚偽のイメージを視聴者に植え込む。

また、財政政策の内容として、私は「裁量支出追加型」でない、「使途自由な購買力付与型」の政策が望ましいと主張してきた。

景気対策ではすぐに公共事業が思い浮かべられるが、このような「裁量支出」は利権の温床になりやすい。

これに対し、「所得減税」、「失業給付拡充」、「ガソリン税率引き下げ」などの施策は、プログラムによって減税や政府支出が行われ、利権と結び付きにくい。

また、個人などが減税資金を自由意思で支出するから、資源配分が市場に委ねられることになる。このような理由から私は、景気対策をできるだけ「裁量支出」でなく「購買力付与」で実施すべきとの主張も繰り返してきた。

2001年度、小泉政権は超緊縮策を実施し、日本経済は崩壊した。結局、小泉政権は2度に渡って補正予算を編成し、5兆円の財源調達を追加した。

それでも小泉政権はこの失敗に懲りず2002年度も超緊縮予算を編成した。私は7月のNHK日曜討論で「必ず補正予算が必要になる」と述べた。竹中平蔵経財相は「補選予算など愚の骨頂」と述べた。

この経緯も拙著『知られざる真実-勾留地にて-』第一章「偽装」14「日本経済の崩壊」に記したので参照いただきたい。

結局、2002年度も小泉政権は5兆円規模の補正予算を編成した。

経済運営で最も重要なことは、自律的な安定成長を持続させることだ。基本的には「中立」の政策運営が求められる。

97年度も、2001、2002年度も、財政当局に誘導された政権が近視眼的な超緊縮財政政策を実行して、経済悪化を招き、税収減少と最終的に求められる景気対策で財政赤字を拡大させる結果をもたらしたのだ。

私は、1985年以来、中期的な財政健全性回復の重要性を一貫して主張し続けてきた。しかし、政治権力と政治権力に支配された御用言論人・御用メディアは、事実に反して私を「積極財政派」と「バラマキ財政派」に色分けしてきた。

新進党、自由党、民主党が私の主張を正確に理解し、党の政策方針に採用してきてくれたが、世間一般では御用メディアによって形成された私の主張に対する間違った理解が現在も残存している。

テレビ番組の限られた時間で正確な事実を説明することは難しい。「瞬間芸」の接続と表現できる「テレビメディア」の特性を知らなければならない。情報操作はこうしたテレビメディアの特性を利用して実行される。

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