FRBインフレ重視方針でNYダウ反発
NY株価が当面の転換点を通過した可能性が高い。
「こづかい帳」様、ありがたいメッセージをありがとうございます。お言葉を励みに微力ながら努力してまいりたく思います。
7月16日、バーナンキFRB議長が米国下院金融委員会で証言した。15日の上院銀行委員会での証言に続き、半年に一度の金融政策報告を行った。
15日の証言では、「金融市場の安定確保がFRBの最優先事項」との見方が提示されたが、16日の証言および質疑応答では、「インフレを引き下げるための政策の実行が今後のFRBの最優先事項」と発言した。
私は、①金融システムの不安定性、と、②インフレ圧力、が米国経済の二大課題であるとし、この二つの問題に適正に対応することが必要であると判断してきた。
①金融システム問題に対しては、システッミックリスクを排除するために、政策当局が公的資金投入を含む施策を機動的に実行できる体制の整備が不可欠であると主張してきた。
②インフレ圧力に対しては、引き下げ過ぎたFFレートを、インフレ心理を抑制する水準にまで引き上げることが求められると述べてきた。
15日の証言では、バーナンキ発言が①金融システム不安への対応に著しく偏った。
FRBが①金融システム問題を優先して、超金融緩和政策を放置することになると、ドル下落、原油価格高騰が持続し、米国株式市場を中心とする金融市場の不安定性が拡大するリスクが高いと判断した。
現にNYダウは15日、前日比93ドル下落して、2006年7月21日以来、2年ぶりに11,000ドルを割り込んだ。
ところが、16日の議会証言で、バーナンキ発言のトーンは大きく変化した。
バーナンキ議長は、「現在のインフレが高過ぎるとの見方に賛同する。物価安定と一致する容認可能な水準にインフレを引き下げるための政策実行が今後のFRBの最優先事項だ」と述べた。
①「金融システムの安定性確保が最優先課題だ」とした15日の証言から一転して、
②「インフレ圧力の除去が最優先課題である」と発言したのだ。
NYダウは16日、前日比277ドル上昇して11,239ドルに反発した。FRBがインフレ抑制スタンスを明確に示したことが株価反発をもたらしたと考えられる。
16日に発表された6月米国消費者物価上昇率は前月比1.1%、前年同月比5.0%を記録した。前年比5.0%の上昇率は91年5月以来、約17年ぶりの高い上昇率になった。
食品・エネルギーを除くコア指数は、前月比0.3%、前年比2.4%上昇した。コア指数の前月比上昇率はインフレ圧力の目安となる前月比0.2%上昇を上回った。
インフレ状況の悪化を示すデータが発表されるなかで、バーナンキ議長がインフレ抑制重視の政策方針を明確に示していなかったら、ドル安、株安、債券安のトリプル安が発生していたと考えられる。インフレ抑制重視の政策方針明示が事態改善をもたらしたと判断できる。
16日には、5月24、25日に開催されたFOMCの議事録も公表された。議事録では、「インフレ圧力の高まりから追加利上げが必要になる可能性がある」との認識が示された。
16日のバーナンキ証言に伴う質疑応答での発言と、5月FOMC議事録公表により、FRBのインフレ抑制重視の政策スタンスが金融市場に伝わり、ドル高、株高の反応が生じたと判断できる。
紆余曲折はあったが、FRBの政策方針は適正な方向に修正される可能性が高まった。
超金融緩和政策を維持し、インフレ圧力の拡大を放置し、ドル安、原油高、株安の流れを持続させてしまうリスクは大幅に後退した。
NY株価は15日の10,962ドルを底に、目先反発する可能性が高い。日本の株価は米国株価と連動するため、目先反発局面を示す可能性が高い。
しかし、その後は8月5日の利上げの有無が焦点になる。
私はFRBが8月5日に利上げを決定する可能性は依然として50%を上回っていると考えるが、原油価格がこのまま下落傾向を維持すれば、利上げ実施は先送りされるだろう。
これまでの際限のないドル安、原油高、株安の連鎖から解き放たれて、株価反発局面を期待することができるが、目先の反発で安心感が広がったのちの再調整圧力を警戒する必要がある。
8月5日のFOMCでの金利引き上げをめぐり、市場観測が交錯する可能性が高いからだ。
会員制レポート 『金利為替株価特報2008年6月7日号』で、インフレ圧力増大、FRBのインフレ警戒スタンス浮上を背景とする日米株価下落見通しを提示した。現実に6月7日から7月16日まで株価下落が進行した。
インフレ抑制がFRBの最重要政策課題に浮上することを、本ブログ
7月5日記事 「洞爺湖サミット原油高対策の有効性」
7月11日記事「FRB8月5日利上げの可能性」
7月15日記事「注目されるバーナンキFRB議長議会証言」
7月16日記事「7/15バーナンキFRB議長議会証言」
に記述してきた。
7月16日のバーナンキ議会証言でインフレ重視の政策方針が明確に示されたことから、株式市場は一時的にせよ流れを転換することになると考えられる。
市場の潮流変化を見極めるとともに、8月5日FOMCに向けての市場変動と政策論議を注視しなければならない。
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