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2008年6月12日 (木)

「福田首相問責決議可決」報道について

参議院は6月11日午後、本会議を開き福田首相に対する問責決議案を民主、共産、社民、国民新党の野党4党の賛成多数により可決した。首相に対する問責決議が可決されたのは憲政史上初めてである。問責決議に日本国憲法上の法的拘束力はないが、日本国憲法第41条が「国権の最高機関」と規定している国会の一翼を担う参議院が、「首相として失格である」との意思を決議によって示した意味は重大である。

 

首相に対する問責決議ではないが、1998年10月に額賀福志郎防衛庁長官(当時)に対する問責決議案が参議院で野党の賛成多数により戦後初めて可決された。額賀長官は当初、問責決議に法的拘束力がないことを理由に辞任を拒んだが、野党による審議拒否が長引き、約1ヵ月後に辞任した。

参議院の議員構成は直近の国政選挙である昨年7月29日の参議院選挙の結果を反映している。その参議院が、「福田首相が首相として失格である」との意思を示したのであり、重大に受け止められなければならない。福田首相は総辞職ないし解散・総選挙の決定を下すべきだ。それが憲政の常道である。

 

NHK「ニュースウオッチ9」は、冒頭にニュースのメニューを紹介することもなく、このニュースを午後9時20分から放送した。九州地方での大雨に対する警戒を呼び掛ける放送の後だった。国権の最高機関である国会が首相に対する問責決議を史上初めて可決したニュースの扱いとしては、あまりにも不当な扱いである。

 

NHK問題について私は拙著『知られざる真実-勾留地にて-』(イプシロン出版企画)の第二章第16節「消えた放送委員会」、第17節「政治権力に支配されるNHK」、第18節「テレビ・メディアの偏向」に詳述した。その内容は武田徹氏の著書『NHK問題』(ちくま新書)に多くを依拠している。

1941年12月8日、最初の大本営発表を報じたのが「(放送の)国家的使命の重要性に鑑み」、「公共的国家使命の達成に努めしめる必要よりして、之を政府の厳重な監督の下に運営せしめ」(1943年度版『ラジオ年鑑』)られていた日本放送協会の臨時ニュースだった。

第2次大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の指揮により、放送民主化のため、国民の各層を代表する民間人からなる「放送委員会」がつくられた。委員は政府が提示した推薦者リストをGHQが拒否し、GHQ主導で決められた。委員はリベラル志向の人物を中心に選出され、放送委員会は日本放送協会の戦後初代会長として、経済学者の高野岩三郎氏を選出した。

放送委員会は1947年10月1日に「放送委員会法案要綱」を策定した。要綱は放送委員会を政府から独立した特殊法人として改めて設立する提案を示した。委員は全国の放送聴取者から選挙で選ばれた男女30ないし35名とし、国会議員、地方議員、政党役員、政府関係業者、放送局の役員は委員になれないこととされた。

この放送委員会がこの要綱に沿って独立機関として設置されていたなら、NHKの歴史はまったく異なるものになっていたはずだ。ところが、情勢が急変した。米ソ冷戦が始まったのだ。米国のトルーマン大統領は1947年3月にソ連封じ込めを宣言する「トルーマン・ドクトリン」を発表し、GHQは日本の放送に関する方針を大転換した。

1949年12月には放送に関する法制化が「電波三法」として第7回国会で実現した。放送委員会は1949年10月に、政府が策定していた放送法案について「戦時中に見た官僚的文化統制の危険が随所に見出される」などの厳しい批判を盛り込んだ「放送法案に関する意見書」を発表したが、放送委員会は生みの親であるGHQの後ろ盾を失って、なし崩し的に消滅してしまった。

 

1952年5月、吉田茂内閣は電波監理委員会を廃止する法律を成立させた。電波の許認可は郵政省に回収され、政治からの独立という「放送の公共性を維持できなくなる構図が決定づけられた。

GHQが放送についての方針を大転換した最大のねらいは日本の左傾化を防ぐことにあったと考えられる。その代償として政治から独立したNHKの実現が消えてしまったのである。

 

 

日本の憲政史上の重大事実である首相に対する問責決議可決が、このようにマスメディアに軽く扱われる不自然さに私たちは敏感にならなければならない。情報は操作されて人々に伝えられるのだ。氾濫する無数の操作された情報のなかから、真実を洞察することは至難の業だが、その困難を克服しなければならない。

政治権力は政権交代の実現を回避するために、あらゆる手段を講じてくると考えられる。情報操作はもっとも強力な手段である。心ある人々が全力をあげて真実を伝えてゆかなければ、日本の明るい未来は拓かれない。私の言論活動にも当然のことながら、執拗な攻撃が繰り返されることになると思うが、ひるまずに真実を伝える情報を発信してゆきたいと思う。

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