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2008年6月30日 (月)

バーナンキFRB議長の憂鬱

  

NY株価の下落が続いている。『金利・為替・株価特報』では、067号=2008年5月24日発行号のタイトルを「原油価格上昇で米国株式市場に暗雲」として、原油価格上昇に連動する株価下落への警戒を呼び掛けた。

  

068号=2008年6月7日発行号は、タイトルを「FRBインフレ回避利上げケース考察」として、株価見通しを公式に修正し、NYダウの10,500ドル水準までの下落を警戒する必要性を示した。

  

  

以下は、068号からの引用である。

「NYダウが本年5月2日の13,058ドルを起点として、株価下落第2波動に移行する場合、昨年10月9日から本年3月10日の株価下落第1波動の下落幅2424ドルをあてはめると、10,634ドルまで下落することになり、NYダウの10,500ドル近辺への下落を想定しなければならなくなる。

  

 5月2日以降にNYダウが株価下落第2波動に移行したとする場合、その基本的な背景は米国におけるインフレリスクの高まりである。原油価格が1バレル=135ドルに上昇し、FRBがインフレリスクを無視できなくなり、これまでの金融緩和政策を修正せざるをえない状況が生じたことが、株価調整第2波動の背景になる。」

  

  

 チャート上の分析になるが、私はNYダウについて、12,500ドルを重要な節目として捉えてきた。

  

  

 067号=2008年5月24日発行号には、以下の通り記述した。

    

「5月23日にはNYダウが終値で12,479ドルまで下落して、この節目を下回った。

この水準からNYダウが反発して上昇すれば、株価底入れ仮説は揺るがないが、NYダウが12,500ドルを大きく割り込むと、本年1、3月の安値でNYダウがダブルボトムの底値を形成したとの仮説が揺らぐことになる。

  

昨年10月9日の14,164ドルから本年3月10日の11,740ドルの下落を株価下落第1波動とし、本年5月2日の13,058ドルを起点に株価下落第2波動が始動するとの悲観的な観測も生じかねなくなる。」

  

  

6月6日にNYダウが前日比394ドル急落して12,209ドル水準まで下落した。この株価下落を踏まえて、当面の株価見通しを下方修正した。本ブログ6月16日付記事当面の内外経済金融情勢の展望」にも、関連する記述を示した。

  

  

その後、NYダウは一進一退を繰り返しながらも下落基調を示し続け、6月27日には終値で11,346ドルまで下落した。本年3月10日の安値11,740ドルを下回り、2006年9月以来、1年9ヵ月ぶりの安値を記録した。

  

  

米国経済は三つの問題を抱えている。根本にあるのが不動産価格の下落だ。6月24日発表の4月のS&Pケース・シラー住宅価格指数では、全米主要10都市の1戸建て住宅価格が前年比16.3%下落して1987年の調査開始以来最大の下落率を更新した。不動産価格下落に連動してサブプライムローンを中心に不良債権が激増し、金融機関の経営不安が表面化した。不良債権増加に伴う金融市場の機能不全リスクが第1の問題点だ。

 

 

第2の問題は、不動産格下落に連動して米国経済が調整局面に移行しつつあることだ。米国の非農業部門の雇用者数は2008年1月以降、5ヵ月連続で減少した。住宅投資が激減するなかで、個人消費が減速し、企業収益悪化から企業の設備投資も減少傾向を示し始めている。

  

  

第3の問題は、インフレ懸念の強まりだ。とりわけ深刻化しているのが、原油価格上昇で、原油価格の指標とされるWTI先物価格は6月27日のNY市場でついに1バレル=140ドル台に上昇した。食品、エネルギーを除くコアの物価指数は落ち着きを維持しているが、先行きのインフレ懸念は根強い。

  

FRBは昨年12月までは、原油価格の高騰を踏まえて、慎重な利下げスタンスを崩さなかった。FRBは昨年8月に公定歩合を引き下げた。大手金融機関のサブプライム関連巨額損失が表面化して、金融市場に動揺が広がったことに対応して、信用収縮懸念に対応する形で公定歩合を引き下げた。

  

しかしながら、先行きに対する不安心理が根強いことを踏まえ、9月にはFFレートの0.5%幅での引き下げに踏み切った。FRBの事態悪化防止に向けての明確な政策スタンス明示を好感してNYダウは10月9日に14,164ドルの史上最高値を記録した。

    

ところが、その後、大手金融機関のサブプライム巨額損失が次々と表面化して金融市場の不安心理が徐々に強まっていった。FRBは10月と12月のFOMCで、それぞれ0.25%幅でFFレートの引き下げを決定した。サブプライム問題を重視はするが、原油価格の騰勢が持続しており、インフレ抑制に配慮して小幅利下げが実行された。

  

  

しかし、金融市場では12月11日のFRBによる金利引き下げが0.25%にとどまったことを受けて、株価下落の反応が強まった。年末年始以降、NY株価下落が世界市場に連鎖的に波及し、世界同時株安の状況が広がった。

  

  

バーナンキFRB議長は大幅利下げ方針を示唆したが、決定が遅れるなかで、1月18日から22日にかけてのNY市場休場中に世界の株価下落が深刻化する様相を示した。バーナンキFRB議長は慎重な利下げ姿勢から大幅利下げ決定に政策運営の舵を大転換し、年初には4.25%の水準にあったFFレートを、その後4月末には2.0%にまで引き下げた。

  

  

この間、3月中旬に大手証券ベア・スターンズ社の経営危機が表面化した。FRBは大幅利下げ実施に加えて、ベア・スターンズ社を吸収するJPモルガンチェースに290億ドルの緊急特別融資を実行することを決定した。この「特融」実施により、金融市場の不安心理は後退した。

  

  

上述した三つの問題のなかで、事態が悪化した時に最も深刻な影響が生じるのは、金融市場の機能不全リスク=システミックリスクだ。本年3月のベア・スターンズ社危機はシステミックリスクが表面化したケースと考えて良いだろう。FRBが問題の深刻化を回避するために、緊急避難措置を講じたことは是認される。

  

  

それでも、FRBは金融行政運営における最重要のルールである「自己責任原則」は堅持した。2003年5月の日本における「りそな銀行救済」のケースでは、日本政府はこの最重要ルールを放棄して、株主責任を問わない税金による銀行救済を実施してしまった。日本の金融行政史上最大の汚点を残すことになった。今回の米国における対応では、ベア・スターンズ株主に厳しく株主責任が求められており、日本の事例とは決定的な相違を示した。

  

  

バーナンキFRB議長は金融市場の動揺を抑制するために、「特融」実施と合わせて、大幅利下げを断行した。これらの措置の効果があいまって金融市場の危機は後退したが、副作用として、強いドル下落圧力とインフレ圧力が生まれている。

  

  

金融市場安定化のための「コスト」という側面は確かにあるが、結果的にみると、バーナンキFRB議長の政策対応がやや「右往左往」したと言えなくもない。

  

「12月11日の利下げを0.5%幅で実施すべきだったのではないか」、

  

「1月22日の利下げは遅きに失したために0.75%の大幅なものになり、その後も1月末、2月に0.5%幅での利下げを迫られてしまったのではないか」、

  

「そもそも、システミックリスクに対しては流動性供給で対応すべきで、金利政策はインフレ対応に限定し、やみくもに利下げを実施したFRBの対応は間違っていたのではないか」

  

などの批判が生じつつあるようにも見える。

  

  

ECB(欧州中央銀行)はこの間、利下げの姿勢をまったく示さなかった。米国のサブプライム問題がグローバルに波及し、欧州の大手金融機関の巨額損失、経営不安も表面化したが、ECBはFRBとの協調利下げにまったく応じなかった。アングロサクソン国である英国、カナダの中央銀行が米国と協調するかのように利下げを決定したことと、明確に一線を画した。

  

 ECBは昨年12月、本年3月、5月に、FRBと協調して緊急流動性供給策を決定して実行した。「金利は引き下げないが、流動性は供給する」というのが、ECBの流儀である。

  

  

7月3日の理事会でECBは短期政策金利を4.0%から4.25%に引き上げる見通しだ。ユーロ圏15ヵ国の消費者物価上昇率が前年比3.7%の史上最高値に上昇しており、ECBはインフレ抑制を金融政策の基本に据えている。ECBが利上げを実施すれば、ユーロには上昇圧力が生じやすくなる。米国の金融政策は一段と追い込まれることになる。

  

  

バーナンキFRB議長の任期は2010年1月末だ。残すところ1年半である。バーナンキ議長自身が、昨年から今年にかけての政策運営についての反省を自覚していると考えられる。

 

「本年1月以降の利下げが急激過ぎたことと」、

 

「金融システム対応策とインフレ対応策を、もう少し明確に区別すべきだったこと」、

  

の2点が反省点として認識されていると思われる。

  

  

しかし、これはあくまで結果論だ。金融市場の大きな混乱を回避してきているのであるから、これまでのバーナンキ議長の政策運営には、満点ではないにしても、及第点が与えられると思う。

  

 

FRBは「金融システム対応に軸足を置いた金融政策スタンス」を、「インフレ対応に軸足を置く金融政策スタンス」に修正しなければならない局面を迎えている。結論から言えば、ある程度の利上げが必要になっている。

  

  

FRBが「インフレは絶対に容認しない」ことを明示するまで、世界の投機資金は原油価格の上限をトライしてくると考えられる。利上げによって原油価格上昇とドル下落に明確な歯止めをかけることが、FRBに求められている。

  

  

しかし、サブプライム問題が残存し、米国の不動産格下落が進行し、経済悪化が深刻化している現状でのFRBによる利上げ政策は、少なからず金融市場にショックを与える。ショックが大きなものになれば、批判の矛先は必ずバーナンキFRB議長に向かう。

  

慎重な利下げ→急激な利下げ→金利引き上げへの転換、の政策変遷を示すなかで、金融市場が大きな混乱に陥れば、バーナンキFRB議長の政策手腕に対する批判が一斉に噴き出すことは想像に難くない。

  

  

現在の米国経済の状況下でのFRBのかじ取りは、誰が担うにせよ、極めて難しい。結果論で批判することは容易だ。バーナンキ議長は柔軟かつ大胆に行動し、それなりの成果をあげてきている。今後、金融市場の大きな混乱を招かずに、短期金利の上方への修正を実行し、インフレ懸念を後退させれば良いのである。バーナンキ議長はその道筋を模索していると考えられる。

  

  

FRBが利上げを実行してインフレ心理が後退するまで、グローバルに金融市場は動揺しやすい状況に置かれると考えられるが、政策の基本方向が正しく設定されるなら、大きな混乱は避けられる可能性が高いと考える。

  

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